第8章
「そろそろ行くぞ」
「うん!」
今日から、昂君の家に二泊三日でお世話になることになった。
昂君は上京してから、1人暮らし。
だから、昂君と2人暮らしってことになる。
(なんだか緊張するー)
私は自分で行くって言ったのに、心配して昂君が迎えにきてくれた。
荷物のほとんど持ってくれて、こんな甘えていいのかな?
病院を出る前に一度先生の診察室へ向かう。
「では、今日から仮退院ですがあまり、はしゃぎすぎないように。少しでも体に変化があればすぐ病院へ電話すること。基本、してはいけないことはありませんが、体に負担がかかることはできるだけしないようにしてください。」
「はい。」
「昂君、沙菜さんのこと頼みますよ。」
「はい。」
先生と話が終わってから、昂君家に向かう。
こっちに来てから初めての外泊。
屋上や、病院の窓からでは見ることのできない景色が見えた。
道路を走っている車。
屋上と比べて、少し遠く感じた空。
コンビニやスーパー。
普通なことがとても幸せに感じた。
少し歩くと見えたのは昂君たちが通っている大学。
(ここが昂君たちが通ってる大学かあ。)
「・・・大学、行ってみるか?」
「行ってもいいの?」
「・・・大丈夫でしょ。」
そーいって、昂君は私を置いてずかずかと大学に入っていく。
私は、門の前で足がとまってしまった。
ここから先はなんだか遠い別の世界な気がして。
ここに入っていける昂君が別の世界の人な気がして。
「なにしてんの?」
「・・・」
「おい」
「・・・」
「・・・ハア」
昂君は少し溜息をつくと私の方に向かってきた。
私の目の前でとまった。
「・・・入りにくいの?」
「・・・」
「お前を任されたのは俺。今、お前の居場所は、
ここ。だから。」
昂君は私の手を引き、自分の体へ抱き寄せた。
私はというと、もちろんパニック状態。
「行くぞ」
そう、言いながら私を大学の中へ引っ張っていった。
大学はとてもにぎわっていた。
クラブや授業。
とても楽しそう。
「ちょっとまってて。」
そういって昂君は私をベンチへ置き去りにしてどこかへ行った。
たくさんの私の荷物が隣にあるからか、他の大学生からちらちら見られている。
荷物、もう少し減らせばよかった。
「沙菜さん?」
いつもの聞きなれた声。
私の前に立っていたのは、水樹くんと千里ちゃんだった。
「水樹くん!千里ちゃん!」
「沙菜ちゃん、どーしたの!?」
「今日から仮退院で昂君の家にお世話になるんだけど、迎えにきてくれたまではよかったんだけど、ここ通りかかったら今から行こうって・・・」
「んで、昂は?」
「・・・」
「どっかいったのか。」
水樹くんが少し溜息をつき、千里ちゃんがすごいきらきらした目で私を見る。
「仮退院!?おめでとう!お祝いしなきゃ!」
「え、いいよ、悪いし!」
「ううん!ね、今日昂っちで飲まない?」
「・・・そだな。沙菜さん、お酒飲んだこと・・・ないよな。」
「じゃー初酒パだね!」
「いや、沙菜さんは飲まないだろ。ってか、飲めないだろ。」
「あ・・・いや、お酒は大丈夫らしい。飲みすぎなければ。」
「じゃー決定ね!あたしたち、まだ授業残ってるから、終わり次第買い物して昂っち行くね!」
「昂君いないのに、勝手に決めて大丈夫?」
「いつものことだしね!昂、今日バイトの日だけど沙菜ちゃんいるから休んだよね?」
「そーだろ。」
「明日もないはずだし、今日はオールだね!」
「オールしたことないやつがゆーな」
水樹くんが千里ちゃんにデコピン。
結局、昂君が来るまで一緒にいてくれた。
昂君に事情を説明して、改めて昂君家へ向かう。
「・・・おじゃましまーす」
「どーぞ」
昂君ちは1人暮らしにしてはとても広かった。
昂君の部屋は思った通りシンプルであるのはベッドとクローゼットと机くらい。
黒で統一されている部屋はとても昂君らしい。
「水樹たち、17時ぐらいにくるらしい。」
「そっか」
現在15時。
まだだいぶ時間がある。
「まだ時間あるな。どーするか。」
「そーだね。」
「俺、洗濯してくる。ゆっくりしてて。」
「あ、うん」
昂君は洗面台の方へいってしまった。
テレビの隣にある写真立て。
きっと中学の時の写真だろう。
桜の木の下で撮った写真なんだろう。
少し桜が舞っている。
写っているのは2人の学生。
学ランで今より少し幼い昂君。
その隣には・・・
私がいた。
見間違い?
いや、そんなことはありえない。
なにもかもがそっくり。
でも、確信がない。
私は・・・昔の自分の顔を知らないから。
ううん。
知らないんじゃない。
忘れてしっまった。
もしかして、昂君は・・・
「おい、なんか飲む・・・!」
「・・・この女の子かわいいね。彼女さん?」
「・・・違う。」
「そ、う。」
それからはずっと私たちは何も話さなかった。
17時になり、水樹くん千里ちゃんが来た。
私たちの雰囲気でわかったのか、水樹くんが私にコンビニへ行こうと誘ってくれた。
「・・・話、きくよ?」
「・・・昂君の部屋にある写真に中学生のころっぽい写真が大切に飾ってあった。水樹くん、何か知ってる?その写真のこと。」
「・・・あのばか。」
「え?なんかいった?」
「あ、いや、なんにも。・・・昂には大切な人がいたんだ。彼女も昂のことが大好きだった。でも、彼女は転校してしまった。それが高校1年の冬。彼女は、俺にだけ転校のこと、あることを教えてくれた。とても大事なこと。俺は、昂に言わなくていいのか?って聞いたんだ。そしたら、彼女は昂は優しいからって言ったんだ。そのとき、確信したんだ。この2人は必ず結ばれなきゃいけないんだって。なのに、俺は何も言えなかった。俺は・・・もう後悔したくない。俺からはこれ以上言えない。沙菜さん。後悔しないでほしい。手術のこと、昂に言わなくていいの?」
「なおさらだよ。そんなに大切な人がいるのにこんなこと、言えない。」
「・・・わかった。よし、今日はぱーっと楽しもう?」
「・・・うん!」
そのあと、昂とも普通に話せるようになり、四人でたくさんはしゃいだ。
私はそんなに飲んでないと思ったけど、いつもの習慣で9時ぐらいに寝てしまった。
said 昂
沙菜さん、いや、沙菜はさっき俺の部屋にあった中学のころの写真を見たんだろう。
やってしまった。
なんで写真をしまっておかなかったんだろう。
沙菜と二人で写っている写真を・・・。
それから水樹たちがくるまで、どう言い訳しようか考えていた。
少しして水樹と沙菜は2人で部屋をでた。
「・・・千里。やばいかもしれない。」
「どしたー?」
「・・・沙菜にあの写真見られた。」
「・・・は?」
「・・・」
「何やってんの?昂が沙菜には昔の話とかやめようって言ったんじゃん!」
「・・・ごめん。」
「多分、水樹がフォローしてくれると思うけど。これで沙菜に何かあったら昂のせいだからね?」
「・・・わかってる。」
そんな話をしているうちに2人がかえってきた。
それからの沙菜はさっきまでとは全然違って、普通だった。
また4人で飲み始め、結局沙菜と千里は寝てしまい、男2人で飲むことになった。
急に水樹が口を開いた。
「・・・沙菜、一応落ち着いたみたい。」
「そうか。ありがとう。」
「・・・昂。」
「ん?」
「お前、まだ沙菜のこと好きか?」
「・・・こっちで再会したとき、見違えてきれいになってた。もう、沙菜は違う人なんだ、とも思った。でも、沙菜は何も変わってなかった。仲良くなればなるほど沙菜は俺を正面から受け入れた。沙菜は記憶をなくしても、大人になっても沙菜のままだった。俺、あの日から待ってたんだ。沙菜がもう一度俺の目の前に表れてくれること、俺に昂!って笑ってくれること。・・・たとえ、記憶がなくても、病気でも沙菜は沙菜だ。俺は何年たっても、6年たった今でも沙菜が、好きだ。これからもずっと変わらない。」
「・・・そうか。俺、沙菜が転校すること知ってた。でも、沙菜に言うなっていわれてて・・・。今回も。でも、もう、前みたいな後悔したくないんだ。それが、沙菜の望んでいることじゃなくても。」
「何の話だ?」
「・・・沙菜、あと少しで手術するらしい。それも、普通じゃない。失敗したらもう二度と目を覚ますことがないらしい。」
「は?聞いてねーし。なんであいつ・・・
「前と同じだった。高校1年の冬、一回だけ2人で海にいった。そのときに転校のことも教えてくれたんだ。俺、沙菜に昂に言わなくていいのかって聞いたんだ。そしたら、昂は優しいから。だってさ。今回も。手術のこと言わなくていいのかって聞いたら、昂は優しいから。こればっかりだ。自分のことよりも昂のことばっかり。昂も沙菜のことばっかり。俺には・・・到底かなわないよ。」
「水樹・・・」
「俺は恋人・・・なんてな。友達として、沙菜の一番そばにいたいと思う。昂は・・・どうするんだ?」
「俺は・・・」
沙菜。
俺はどうしたらいい?




