9.作戦を会議しよう
「で、お前らはどれくらい『ペぉきじゅhygtfですぁq』の経験があるんだ?」
「どれくらいって……、まだ練習始めて一週間ぐらいだけど……」
「それでよく、あんな大口叩けたな」
ピジュ姉さんは”がはは”と豪快に笑う。いや、俺達は何も言っていない。
完全無欠に話はあなたが勝手に進めていったんですけどね。
「とにかく、守備はあたしに任せな。
二人とも、得意なポジションは?」
『ペ』にも、サッカーやバスケットボールのようなポジションはあるといえばある。
が、所詮はゲーム内ゲーム。しっかり決まったものではない。
ざっくりいえば、攻撃を担う前衛、あるいは守備を重視する後衛の二つだけともいえる。もちろん、5人チームが基本である『ペ』では、前衛が守備にも加わるし、チャンスとみれば後衛が攻めに転じもする。そのあたりは他の競技でも同じだろう。
付け加えるなら、前衛と後衛がしっかり固まったチームでは中盤にユーティリティプレイヤーを置くこともある。俺はどちらかというと前世のゲーム内ではそういうポジションを得意としていた。
元々サッカー少年時代も攻撃的なMFをやっていた経験の影響もある。
というのは5対5での試合の話。3対3となれば、人数も少ないのでほとんど全員が攻撃と守備の両方をこなさないと試合が成立しないような気がする。
俺はそれをアッピールする。
「俺達はまだ試合とかやったことないから。
二人で一対一とかの練習をしたぐらいで。
得意なポジションとかまだよくわからない。
ピジュさんは、攻撃には参加しないの?」
攻撃にも参加してくれたら嬉しいんだけど? という希望を遠回しに表現した。
「ああ、守備は任せてくれ」
なんか、かたくなに言い張られた。
「ってことは、攻撃は俺とルーナの二人の役目か」
「そうなりますわね」
「ああ、言い忘れたが、お前らのその体で普通のルールで大人とぺぉくjhgふぇdwsくぁが出来るわけもないからな。
接触プレイは禁止の特別ルールにしてやるよ」
相手の了承も得ずに勝手に決めているが、このお姉さんなら言いくるめる――あるいは、すごんで言い分を通すだろう。
それには少し安堵した。
そもそも『ペ』は、攻撃側が持ったボールを殴る蹴る(実際には剣やらなんやらの武器で)の暴力的な手段で奪う競技だ。
もちろん洗練された名プレイヤーたちは攻撃を躱したり、相手の攻撃を払ったりしながらスマートにボールを運ぶが、草サッカー、草野球ならぬ『草ぺ』では、とかく、力技での勝負になりやすい。試合中は常に乱闘が行われているような様相である。しかもルールにのっとって合法に。
そっちのほうが観客にも喜ばれるので各プレイヤーも一層そういう強引な力技にシフトしていくのだ。
あまりにも激しい攻防が行われるために、練習では今から俺達がやるような、接触プレイ禁止のルールを適用する――ボールまわしや戦術の確認などのため――こともあるだろうが、たとえ少年部の試合でも、正式な試合であれば格闘、乱闘は必須である。
が、俺達はそもそもボディアーマーも付けていないのだ。大人の振るう剣なんかを相手に戦えるわけもない。大怪我三昧の入院覚悟だ。
当然そのあたりのことは、考えてくれているってことはピジュさんは少なくとも本人が言うとおり『ぺ』の素人ってわけじゃあないんだろう。
実力は定かではないが守備は任せてしまってもいいかもしれない。
「じゃあ、特別ルールもあることだし、極力ドリブルは控えて、パスを回しながら相手を出し抜こうか。
見たところあの冒険者の人も他に参加しそうな人も、鎧は身に付けているから、そう速くは動けないはずだ。
動きながらパスを回して相手をかく乱して点を取る。
それでいいか?」
「はい、兄様」
俺の提案にルーナはこっくりとうなずく。
パス回しの練習は、少しだけれど二人で行っている。なんとかなるだろう。いや、なんとかしないといけない。
「それで、お前らの得物はどっちも剣なのか?」
「えーっと、それなんだけど……。
ルーナは二刀流で。
で、俺はこれ」
と俺は自分の足を指さす。
「ん?」
とピジュさんは怪訝な表情を浮かべるから補足の必要があった。
「足で蹴って操る方向でプレイしようと思ってるんだけど。
それなら両足とも使えるでしょ」
「ほう、蹴り技か。だが、生足じゃきついだろう?
いくら接触禁止とはいえ、ボールを取りに来るのなら、相手の武器が当たっても文句は言えない」
確かに。ボールを取るってことは俺の足付近にどんどん剣やらなにやらが振り下ろされるということになる。危険極まりないのは明白だ。
「とはいっても……」
ノープランで策の無い俺に、ピジュさんが、
「これを貸してやろう」
と自分の腕にはめていた手甲を取り外して言う。
「少々大きいかもしらんが……」
と俺の足に取りつけながら、
「動けないほどではないな?」
俺は、その場で2~3度跳んで感触を確かめる。
急場しのぎでつけた防具だからジャストフィットというわけではないが、走ったりするのには支障はなさそうだ。
ついでに、ボールを蹴って感触を確かめる。
リフティングをやっていると、
「ほう、その歳にしちゃあ、なかなかのテクニックだな。
そういえば昔足でプレイする名選手がいたなあ。名前は忘れたが、そこそこ有名な選手だった」
とピジュさんが遠い目をして物思いにふけりかけている。
「ピジュさんの武器は?」
と俺は聞く。
「あたしは本来ならばこれだ」
と、背中に背負った大剣を視線で指す。
「が、こいつは『ぺぉいくjhygてdwsくぁ』用ではなく、実戦仕様だからな。
適当な訓練用の剣でも借りるさ」
とのことだった。
結局、作戦会議と言っても、決め事はごくわずかだ。
攻撃は俺とルーナでやらなくちゃいけない。
やる気が無いのかできないのか、ピジュさんは攻撃に加わってくれなさそうだ。代わりに守備面では期待してもいいだろう。
大口叩いておいて、実はぜんぜん上手くないという可能性もなきにしもあらずだが、その場合は俺とルーナでなんとか守備もこなすしかない。
かなりいきあたりばったりの戦術だが、運よく勝てれば練習場が手に入る(はずだ)。
そもそも、ピジュさんがいなければここまで話は進まなかったんだし。
負けて元々。
実戦形式でボールが蹴れる、まだまだ先だと思っていた『ぺ』の試合が経験できるってことを幸運に思おう。
で、試合前にはやることが一つ。
ステータスの確認だ。どうせ練習しかしてないからレベルが上がっていることはないだろうけど念のため。
俺のステータスは相変わらずレベル1、ほとんどのステータスが1、『ぺ』のほうはE並びという寒いものだった。
試しに、ルーナのステータスが見れるか確認すると……。
ほとんど期待はしていなかったがのだが、ルーナのステータスウィンドウが開いた。
もちろんそれは俺にしか見えない。
まあ、若干予想はしていた部分はある。
チームメイトになったことで、ステータス確認のフラグが立たないか? と思っていたのだが、見事予想的中だったようだ。
ルーナのステータスも俺と似たようなものだった。
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※ ルーナ・カヤーテル
※ レベル1
※ HP 26/26
※ MP 5/5
※ 体力 1
※ 筋力 1
※ 持久 1
※ 敏捷 2
※ 器用 2
※ 魔力 1
※
※ オフェンス D
※ ディフェンス E
※ シュート E
※ ドリブル E
※ パス E
※ カット E
※ タックル E
※ ブロック E
※
※スキル:月の加護
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期待はできないな。
俺より若干だが高性能なのが気にはなるが。こればかりは生まれ持ってのセンスだろう。
特筆すべき点としては、ルーナにもスキルが付いていたことだ。
『月の加護』は、敏捷と持久、魔力の能力値にボーナスが付くスキルだったはず。
『ぺ』の能力でいえば、オフェンスやドリブルなんかに影響するだろう。
ついでに、ピジュさんのステータスが見れないかを確認してみると、冒険者としての通常ステータスは見れなかったが『ぺ』のほうだけ見ることができた。
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※ ピジュ・キーノドゥ
※
※ オフェンス E
※ ディフェンス C
※ シュート E
※ ドリブル E
※ パス D
※ カット D
※ タックル C
※ ブロック B
※
※スキル:木の加護
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なかなかに、個性的だ。確かに攻撃力が潰滅している。本人談どおりだ。
代りに、守備系は結構安定しているといえる。
『C』っていうのが、まあ一般的なプレイヤーの平均値なんだから、カットを除くと守備には自信があるっていうのはあながち間違いじゃない。
さらには、何故だかピジュさんも『加護スキル』持ちである。
加護の大安売りだ。
『木の加護』は、HPと筋力にボーナスだから、スタミナとか耐久に影響のあるスキルで、『ぺ』をプレイするに限ってはあんまり有効じゃないのがたまにキズではあるが。
まあ、この世界のトッププレイヤーや、今から対戦する対戦相手のステータスがどの程度かわからないのだが、平均してC~D、どちらかといえばDが多いってくらいであることを願おう。
ピジュさんの守備力で守りを固めて、なんとか俺とルーナで一点をもぎ取るって作戦だ。
試合開始が待ち遠しい。