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7.練習を積み重ねよう

 それからの数日というもの、俺とルーナは河原に行っては『ペ』の練習をするという日々を繰り返した。


 剣でのボールさばきはどうも俺に相性が良くないようでなかなかうまくならない。

 なんどやっても剣でさばいたボールはあらぬ方向へと飛んでいき、まともにコントロールができないのだ。


 ドリブルやリフティングどころの騒ぎじゃない。


 上手くいかない、思うようにいかないのなればなかなかモチベーションが続かない。


 それでも、この世界で生き抜くためには必須事項だと割り切ればなんとか基礎練習と割り切って根を詰めて取り組めるのだが……。残念ながら俺には逃げ道が用意されていた。

 剣での扱いがダメでも前世で磨いた技術が流用できそうなのだ。

 つまりは足技でのプレイである。

 ルーナの解釈によると、多分両足しか使わないということを表明してしまえば『ペ』の中でサッカーの技術が使用できるようだった。

 さらに言えば、相手を蹴るという、サッカーでは一発退場ものの行為も許される。というか『ペ』をやる限りにおいては、格闘能力がないとやってけないのだから。


 そんなこんなで……。

 ついつい足技に頼ってしまう。


 そんな俺とは対称的にぐんぐんと成長を見せたのはルーナだった。

 一本のみならず、二刀流でのボールリフティング。

 それを器用にこなして見せる。

 ショートソードとはいえ、子供には結構な重量で、振り回すだけでもかなりの体力を使うのだが、ルーナにとってはそれくらい苦ではないらしい。


 利き腕の右はともかく、左腕でも自在にボールをコントロールする。


 棒立ちでのリフティングだけはなく、いわゆるドリブル、つまりは剣でボールを操りながら、その辺りを自由自在に走り回ることまでやってのけられるようになった。


 そのボールさばきは俺のドリブルよりもよほど華麗で流麗である。

 まあ、この練習場所にしている河原は足場が悪いからボールを蹴って転がす俺のプレイには向いていないっていうのもあるのだが。


 ルーナとは一対一なんかでのボールの奪い合いもやり始めた。


 二刀流で胸の高さ以上でボールを操るルーナに対して、俺の接触ポイントはあくまで足だけだ。


 なかなかボールを奪えない。試合であれば、ボールを持った相手への攻撃はルール内なので無理やり力づくで足なりどこなりを蹴り飛ばしてからその隙にボールを奪うっていう方法も取れるのだが、アーマーも装着していない状況でそれはさすがにやめておこうということになっている。


 俺としても生身のルーナを蹴り飛ばすなんてことは練習とはいえしたくないし、ルーナの剣は一応斬れないように加工しているとはいえ、当たれば痛いからぶっ叩かれるのは嫌なのだ。


 逆に俺がボールを保持している時には、簡単にはルーナには渡さない。

 二本の剣で器用にボールを狙ってくるが、前世で鍛えた俺のボールさばきは一対一ではよほどのことが無い限り、相手にボールを与える隙を見せないほど熟練したものだ。


 ディフェンスよりはオフェンス向きの二人である。

 ついでに、パス練習とかそういったもろもろもメニューに加えて、地道に『ペ』プレイヤーとしての地力を身に付けようと着々と努力をしている。


 ひとしきりのルーティーンの練習を終えてちょっと一息入れる。


「なんか、めきめきとさまになってきてるな、ルーナは」


「そうですか? 兄様も徐々にボールの扱いに慣れていらっしゃいますよ」


 お互い本心から相手を褒める。


 所詮ゲームの中のサブゲーム、オマケ的扱いだった『ペ』は実際にやってみるとめちゃめちゃ高度な技術を要求されるものだった。


 その証拠に、俺は剣の道をほぼ諦めた。

 幾らやっても、ルーナのように剣でボールを自在に操るなんてことが出来そうになかったのだ。才能の問題だろうか。


 それでも、サッカーで培った足技があれば、ドリブルやシュート、パス、なんでも自在にこなせる自信までは着きかけてきた。


 ルーナはルーナで卑怯チートとも取れる才能を発揮して剣でのボールさばきの技量をぐんぐん伸ばして、ゲーム内でのプレイイメージに近いような動きができるようになっている。


「となれば……、そろそろシュート練習もしたいし、ちゃんとした練習場が欲しいよな」


「そうですわね」


『ペ』のゴールはただ高いところに設置された板ってだけの簡素な造りだが、もちろん河原にはそれの代用となるような都合のいいものは存在しない。


 木でも生えていたらそこに板を打ち付けてゴールボード代わりにできるのだが、あいにくと木なんかが生えているところまで行くと、それはそれで他の練習ができるような場所ではなく、未だに俺達はシュート練習が出来ずにいる。


 俺達の身長ではゴールボードまでは全然届かないから、シュートはどうしてもボールを高く蹴りあげる、あるいは剣で同じように打ち付けて飛ばす、ということになってネットのような遮蔽物もないので、シュートの真似なんてしようものならいちいち遠くまで飛んで行ったボールを取りに行く手間が発生して面倒だからやってないのだ。


「あとは魔法だな。父さんが帰ってきたら、母さんに教えてもらえるだろうけど」


「そういえばそろそろ帰ってくる予定ですわね」


「ああ、それまでは地道に練習しようか。

 疲れてない?」


「大丈夫ですわ」


「なら、もう一勝負。

 一対一で相手を抜けるかどうか。ボール保持とドリブルの練習、兼、ディフェンスの練習だな」


 そうして、ルーナと二人で『ペ』なんとかに興じるが、いささか飽きが来始めていた。

「あー、やっぱりもっと練習相手が欲しいよなあ。

 それと、ゴールボードのある練習場が」


 俺は大の字になって寝ころんだ。

 隣にルーナがちょこんと座る。


「練習相手はわかりませんが、練習場なら何とかなるかもしれません」


「えっ? ほんと」


 俺は思わずがばっと体を起こす。


 その挙動にびっくりしたのかルーナが軽く身を引いたが、


「近くに元々『ペおぃくjhygtfれdwsくぁ』の練習場だった場所があるらしいですの」


「なんで知ってるの?」


「この間、マーキュットさんのおうちにお邪魔した時に兄様と『ペぉいくjhygtrふぇdwsくぁ』のお話になって、その時に聞きました」


「まじで?

 練習場があるんなら、仲間だって見つかるかもしれないじゃん。

 行ってみよう」


「ですが……、兄様の期待に応えられるような状況かどうかは……」


「いいって、ダメ元だし。

 ずっとここで二人で練習するってわけにもいかないだろうしさ。

 とにかく行ってみようよ」


 俺は立ち上がる。


 うん、着々と少しずつ進歩していっているはずだ。

 ボールもあったし、あとはチームを作るのと試合形式でできる練習場を確保するのが課題だった。

 その両方が、一気に手に入るかもしれない。

 そしたら後は、母さんに魔法を習ったら、さしあたって必要なものは全部揃うことになる。

 幸先としてはかなり良好だ。

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