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6.ボールに慣れよう


 とりあえず、ひとしきり便利そうかつ貴重なスキルに驚いたが、それはそれ。


 まあ、いくら優秀なスキルが手に入ったからと言って、それがすぐに爆発的な能力向上につながるわけではないってのが現実のようだった。


 ステータス画面の数値は相変わらず1並び(で、器用さだけがかろうじて2)である。


 この世界では、スキル『太陽の加護』で得られる効果は三つのようだ。


 まずは『ペ』のプレイ中に限定した話だけど、リーダシップの付与という効果がある。これはチームメンバーの能力を多少底上げする効果があるそうだ。

 ゲームでは、チームメイト同士の連携とかパス交換とかが上手くいくような補助効果があったけど、それは現実には実現しにくい効果だから、そこまでの恩恵は期待できないようだ。


 そりゃそうだろう。人の精神にまで影響するなんてことはできないからな。


 あと、これが地味に有効な効果なのだけれど、スキル所持者の通常ステータスの各項目が1.2~1.5倍くらい、運が良ければ2倍程度までに向上する。

 レベルが上がっているとべらぼうに役立つスキルなのだが、現時点でステータスがほぼ1並びの俺にはほぼほぼ意味のない効果となっている。将来に期待だ。


 各種ステータスがそこそこの数字になってきた時にはこれによって得られる恩恵は大きくなるからな。


 最後の取得経験値優遇も考え方によれば非常に有用だ。

 そもそも俺は冒険者を目指していないから、魔物なんかとの戦闘で経験値を積むなんてことは『俺育成計画』に組み込んでいない。


 効率は落ちるが『ペ』の練習をしたり試合をしても経験値が取得できてレベルがあげられるんだから、必死こいて『ぺ』に打ち込むという作戦を貫く所存である。

 そういった俺の将来設計とかなり相性のいいスキルの効果であるはずだ。


 とりあえず、スキルの確認も終わったし練習を開始することにしよう。


 俺はボールを左手に持ち、右手でショートソードを構えた。


 ゲームでも『ペ』プレイヤーの一般的な武具は剣、あるいはそれに類似したものが多い。斧とか、ハンマーなんて使い手もいるが、王道は剣だ。


 ボールを運ぶときは、剣で叩くようにして前に向けてボールを弾く。いわば自分に対してショートパスを繰り返しつつ前進していくのが、サッカーとかバスケでいうところのドリブルに当たるわけだが……。


 2~3回やって挫折した。

 そもそも、宙に浮いた状態のボールを正確に思った通りに剣で叩いて望む場所へ誘導するっていうのが至難の技だ。


 ボールにはいくつもイボイボというか突起があり、突起に触れてしまうとあらぬ方向へと飛んでいってしまう。

 それ以前にど真ん中を叩かないとボールの軌道は逸れてしまう。


 ゲームだと簡単にドリブルできたたのはあれはやっぱりファンタジーだったというわけだ。

 実際にはありえないほどの集中力とミート力、バットコントロールともいうべき剣の操作能力が問われるわけだ。

 そもそも俺は野球選手でもテニスプレイヤーでもなかったから、ボールを足で操ることはできても棒状の獲物でコントロールするなんて技術は見に付いてないんだし。


 途方に暮れる俺を見兼ねたわけではないだろうが、ルーナが声を掛けてくれた。


「兄様、ドリブルの基礎の練習としてはリフティングという技術が適しているらしいですわ。

 なるべく長い回数の間、ボールを地面に落とさずに剣で叩き上げ続ける練習です」


 なるほど、サッカーでも同じだったな。要は正確にボールの中心に剣を当て続ける技術が何に置いても必要ってことだ。


 ルーナが本から得て教えたくれた情報を聞いて試しにやってみた。


 が、やっぱり上手くいかない。


「簡単にはいかないな……」


 ふと、俺は地面に転がったボールを足で浮かして、数度リフティングをしてからキャッチした。


 幾ら突起が付いているとはいえ、足で触る分にはそれほど気にならず、サッカーボールよりも多少は扱いにくい程度でリフティングは難なくこなすことができた。


「兄様! 今のは!?」


 ルーナが驚きの声を上げた。

 そういえば、俺って六歳だったしこっちの世界にはサッカーなんて無かったし、(足での)リフティングが出来るのは不自然っちゃ不自然か。


 誤魔化そうにもうまい言い訳は思いつかない。


「ちょっと、足技には自信があるから……」


 と、なんの理由にもなっていないことを返すのが精いっぱいだった。


 ルーナが俺から視線を離そうとしないので、俺はあまり不審がられない程度にボールを蹴ってみた。


 それでも、初心者レベルにしてはありえない足さばき、ボールさばきになってしまう。 一応、トリックプレイとかそういう派手なものはやらないように気を付けたが、単純にリフティングをし続けるってだけでもルーナからしてみればすごいことだったのだろう。


「すごいですわ、兄様。そんなに自由にボールを蹴ってコントロールできるなんて!

 天才じゃあありませんか!?」


 手抜きの基本的なプレイだけでも、より一層驚かせてしまったようだ。まあ、天才って理由で片づけてくれたらそれはそれでいいけど。

 魔法はまだ未知数だけど、剣の才能はあんまりなさそうだし、万能じゃなければ何か一つくらい秀でていてもよいだろう。


「ちょっとお待ちください」


 とルーナは『ペ』の本をぺらぺらと捲りだした。そして小さく呟く。


「載ってませんわね」


「何が?」


「いえ、それだけ自由に足でボールを扱える兄様なら剣で扱うよりもいっそ足での扱いを極めたほうがよいプレイヤーになれるのではないかと思い、ルール上問題ないかを確認しようとしたのですが……」


 なるほど。下手に慣れない剣を使うよりも、慣れ親しんだ足技を伸ばすという方向か。

 サッカーやってるみたいな気分にもなれるし、前世で鍛えた技術も使えるし一石二鳥かもしれないな。


「今度ルールに詳しい人に聞いてみましょう。ただ、懸念があるとすれば……」


「なに?」


「冒険者になるにあたって剣などの武器を使えないというのは非常にデメリットが大きいですわ。

 たしかに素手の格闘で戦う人も居ますが少数です」


 なるほど。俺としては『ペ』だけやれたらそれでいいから気にならないが、ゆくゆくは冒険者を目指しているていでやってるんだからそこは懸念っちゃ懸念だな。


「まあ、剣の練習もしてみるよ。

 それに、蹴りが自在に使えたらそれはそれで強くなれると思うし。

 魔法だってあることだしどういうスタイルで戦うかは今べつに決めなくてもいいんじゃないかな」


「そうですわね」


「ルーナもやってみる?」


 と俺はルーナの胸元にボールを蹴り込んだ。ふわっと浮かせたボールをルーナは持っていた本を落さないようにしながらもなんとかキャッチする。


 本を置き、ルーナはボールを抱えると足元に落とした。

 それを蹴りあげようとする。

 俺みたいなことができると思ったんだろう。


 だが、ルーナの期待もむなしく……。

 ボールは一度蹴っただけで明後日の方へと飛んでいく。


「難しいですわね……」


「なに? ルーナも足を使うの?」


「まだ決めたわけじゃないですけど、これなら兄様にコツとか教えて貰えるかもと思い。っていいますか、余りにも兄様が簡単にやってらっしゃったので、わたしにもできるかな……なんて。

 でも、難しいですわね」


 それから何回かルーナはリフティングに挑戦してみたが、二回続けるのが精いっぱいだった。


 俺との力の差を見せつけられたルーナはちょっと不機嫌そうだった。


「まあ、今日始めたばかりだし……」


 と俺はフォローに回ろうとするが、


「見ててくださいまし」


 とルーナは剣を手に取る。


 片手でボールを軽く投げ、剣で器用に下からたたき上げる。

 ボールはルーナの目の前、体の中心で弾み、また落ちてきたところを、叩かれてと何度も上下動を繰り返す。


「これが、剣によるリフティングでございます」


 得意そうに言い放つルーナ。


「な、なんでそんな簡単に?」


「剣の扱いはずっと練習してきましたから」


 俺のリフティングよりかはたどたどしいが、それでもボールに触れたばかりの初心者の子供ができる芸当ではない。


「ああ、そうか……」


 多少ルーナの才能に嫉妬しながらも、この分――俺の足技とルーナの剣技の才能――だったらどこかの少年チームを見つけて試合に混ぜてもらえるようになるのはすぐのことじゃないかな……なんて軽く考えていたのだが、この時は。

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