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4.ボールを手に入れよう

 母さんとルーナの了承を得ることができた。意外と簡単だったね。


 となれば、これからは『ペ』道を邁進まいしんするだけでよいという道が拓けたってわけだ。


 まずはボールのゲットからだ。


 母さんは店に行って探しておいてくれるというから、昼過ぎに訪れてボールを貰いに行くことになった。

 もちろんルーナと二人である。


 うちの両親がやっている店は商店街のはずれにある。歩いて20分程度の距離だ。

 母さんが作り置きしておいてくれた昼ご飯を食べてから、ぼちぼちと出発する。

 ほんとは一刻も早くいきたかったけど、約束が昼過ぎだったし、まあ人生長いのだし焦ってもしょうがない。


「ほんとに、ペぉいくjhygtfれdwsの練習をすることで冒険者の修行になるのでしょうか?」


 店まで歩く道すがら。

 納得していないわけではないが――朝に一度は了解しているし――、どこか違和感を感じているというふうにルーナが聞く。


 まあ、俺も嘘を言ったりしているわけじゃないけど、ルーナからすれば不安があるのだろう。


 ルーナはまだ小さい頃に我が家に養子に来たのだ。

 俺達がだいたい三歳くらいの時だった。


 うちの父さんは、昔は冒険者をやっていて、そこそこ活躍していたらしいのだが詳しい話を聞いたことはない。

 俺が物心つくころには既に、店をやっていた。母さんの経歴とか父さんとどこで出会ったかとかも聞いてない。


 ルーナの両親はともに冒険者で、ルーナが生まれてからも彼女を祖父母の家に預けて冒険者として、魔物や魔王軍と戦っていたと聞いたことがある。

 そんな暮らしの中で二人とも命を落としたそうだ。

 なんでも、大規模な魔物退治の作戦があってその戦中での出来事のことらしい。


 古くからルーナの両親との親交が深かったうちの両親は年老いたルーナの祖父母の健康にも気を配ってルーナを引き取ることを決めたらしい。というのがぼんやり聞いているルーナをうちで引き取ることになった簡単な経緯だ。


 ルーナの祖父母も一緒に暮らすことを考えもしたが、俺が家族と住んでいる国であるグリーブ公国は魔物の襲来も多く、激戦区といっても過言ではないような地域だ。

 あまり熱心に呼び込むことも控えられるような環境である。


 ルーナの祖父母が暮らしている場所はグリーブ公国に比べればまだ、平和である。

 そもそもうちにしてからが、緊急時には疎開に近い引っ越しを視野に入れながら暮らしているくらいなのだから。


 健康面やルーナの将来を心配した彼女の祖父母はルーナを養子に出すことには賛成してくれたらしいが、自分たちは長年住み慣れた地方を離れる選択を取らなかった。


 で、それはともかく、俺はルーナに説明を試みる。歩きながらだ。


「他の国じゃあ、ペの選手が冒険者に転身するってことも珍しくないみたいだよ」


 ルーナはどうして俺がそんなことを知っているのか? と疑問を浮かべたような表情をするが気にはしていられない。

 俺の知識は前世でクリアしたゲームでのことだから、本来であれば俺が知っているはずのない事柄なのだが、それを気にしてはいられないし、まだ幼いルーナの前であれば多少の不自然があっても咎められないだろう。という算段もあった。


「ペのルールは知ってるだろ?」


「そんなに詳しくはないのですけれど……」


「じゃあ、おさらいしとこうか。

 ペってのは、5対5に別れて相手のゴールボードにボールをぶつけることを目的にした競技だ」


「ええ、それくらいは知ってます」


 うん、その程度は一般知識だな。

 『ペ』のフィールドの広さやルールはバスケットボールのそれに近い。


 バスケのように手の届かないところにゴールがある。ただそれはバスケットボールのゴールのようなネットに囲まれた輪っかのようなものではなく只の板が地面と垂直に設置されているだけだ。

 それにボールをぶつけることでゴールとなって点が入る。


 で、それだけならただのバスケットもどきなのだが、『ペ』の練習が冒険者にとっても意味のある点がふたつあるのだ。

 俺はそれをルーナに提示する。


「『ペ』ではボールを持って走ることが禁止されているから、ボールを運ぶにはドリブルをしなくちゃいけない。

 でも、ボールに触っていい場所ってのは限られているんだ」


「それも聞いたことがありますわ」


「例えば剣士として申請したプレイヤーであれば、ボールに触れていいのはその剣だけだし、斧でも、鞭でもなんでもいいけど、武器以外の部分で触れたら反則になる。使える武器はルールで細かく決められているよね。

 で、剣なんかでボールを思い通りに動かしていくのは結構技術が要求される。

 『ペ』のボールは突起が付いていて、あえてイレギュラーバウンドしやすいように作られているからなおさらだ。

 例えば、一流のドリブラーになれたら、その剣さばきは実践でも十分通用するってことになる。

 なんたって動くボールの中心に寸分たがわずヒットさせ続けられるんだから」


「まあ、そうともとれますか」


「あとは、魔法だね。

 『ペ』のボールは対魔コーティングされているからよっぽど威力の高い魔法でないと傷つくことはないから、魔法を当ててボールを操るっていう技術も試合では重要だろ?」


「なるほど、そういうことですか」


 ルーナは俺と違って頭がいいので察しが早いようだった。


「威力を高めるのは別にやるとして、『ペ』では魔術の命中精度や連発の技術が必要になってくるから当然のこととしてその辺りの技術が鍛えられる」


「ありがとうございます。兄様にいさま

 兄様は将来のことを考えて結論を出されたのですね。

 思いつきでおっしゃたのではないということがよくわかりました。

 聞けば聞くほど『ペぉいくjyhtgfれdwsくぁ』が、冒険者として強くなるための要素を含んでいるってことがわかりましたわ」


「知ってるだろうけど、ついでに言うと、『ペ』ではボールを保持している相手プレイヤーへの攻撃が認められているからね。

 対人格闘技の要素もある。

 そもそも『ペ』の一流プレイヤーになろうとおもえば、格闘技術だけでもだめで、魔法だけでも難しい。

 バランスよく両方の技術を高めないといけない。

 冒険者だったら、自分の得意なほうだけで勝負もできるけど、ルーナはまだどういう冒険者になろうか決まってないんだろ?」


 ルーナはこっくりとうなずく。


 俺の質問は、以前にルーナから聞いていた話を参考にさせて貰って出た物だ。

 ルーナの父親は結構立派な剣士で母親は魔法使いだった。

 ルーナにどちらの才能がどれくらい受け継がれているのかは今はまだわからないから彼女は自分の進路を決めかねている状況なのだ。


「『ペ』をやってみれば、とりあえずどっちの修行もできるから。

 それに、ちゃんと怪我をしないようにある程度は安全にプレイできるように考えられたルールもあるから、まだ子供の俺たちにも安心してプレイできるはずだよ。

 『ペ』をやりながら、ゆくゆく冒険者になるってのもいいけど、自分の得意分野を見極めるのにもちょうどいいと思うんだよね」


 これは半分以上は嘘である。

 俺自身、命を賭けた戦闘というのは正直気が重い。そんな勇敢でもなければ根性もない。

 ルーナには覚悟があるようだけれど、可愛い妹を危険にさらしたくないという想いもあり、出来ればルーナが冒険者になるというのも避けたい事実ではある。

 もし、ルーナに『ペ』の才能があるのなら、もっと安全で『ペ』が盛んな地域に移籍して二人で大人になっても『ペ』を続けるという選択肢がとれればそれのほうがいいと思っているのだった。




 そんなことを話しながら歩いていると、母さんの居る店に辿り着いた。


 そっと店内を覗き込むと母さんは接客中だったが、店の前をぶらぶらしているとそのお客さんは出てきたので、俺達は入れ替わりで店に入った。


「母さん、ボール探しといてくれた?」


「ああ、いらっしゃい。いらっしゃいって変ね。

 お客さんじゃないんだから。

 ちょっと待っててよ」


 と母さんは奥に引っ込む。


 すぐにボールを持って出てきてくれた。


「はい。ほんとに誕生日のプレゼントこれでいいの? アッシュ?」


「うん。俺が今一番欲しいものだから」


「じゃあ、改めて。お誕生日おめでとう」


 俺は母さんの差し出したボールを受け取る。

 ラッピングも何もないそのままのプレゼントだけど、本当に欲しい物だからありがたい。


「よし、ルーナ。とりあえず早速練習に行こう!

 母さん、ありがとうね」


「ああ、ちょっと待ちなさい」


 くるりと背を向けた俺を母さんが呼び止める。


「何?」


「ボールだけじゃあ練習って言ってもなんにもできないでしょ?」


「えっ? どういうこと」


「これも持っていきなさい」


 と母さんが出してきたのは、二本のショートソードと一冊の本だった。


「なにこれ?」


「母さんは店があるから、二人に付き合えないでしょ?

 だから、探してみたの。『ペぉいくjhygtfれdwsくぁ』のルールとか練習方法とか載っている本」


「あ、ありがとう」


 俺は素直に礼を言った。そういえば、俺は前世でしこたまプレイした記憶があるからルールとか戦術とかはほぼ完ぺきにマスターしているが、こっちの人生では覚えているはずもないことだからな。

 ルーナも詳しいルールまでは知らないはずだし、こういう本が無いと前に進めない状況だったはずだ。常識的に考えて。


「じゃあ、こちらのショートソードは?」


 とルーナが尋ねる。

 母さんはそれに、


「まあ、後々は他の武器を選ぶことになるかもしれないけど、基本はやっぱり剣よね。

 さしあたって練習用にって思って。

 これなら軽いし、子供でも使えるわ。

 斬れないように刃はこぼしてあるけど、それでも当たったら怪我とかはするから気を付けて使うのよ。

 それから、どっちも大したものじゃないから二人で好きな方を選びなさいね」


 と丁寧に答えた。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 俺とルーナがそれぞれ礼を言う。


「それから悪いんだけど、ボディアーマーはあなたたちのサイズに合うのがみつからなくって」


 ボディアーマーというのは、『ペ』をプレイするときに装着する鎧のことだ。

 プレイスタイルによってポイントアーマーみたいな軽武装からフルプレートメイルみたいな重武装までいろんな選択肢があるけど、確かに子供サイズってのはそこらへんに転がってるような代物じゃないよな。


「うん、アーマーはまだいらないよ。ボールと本と剣だけで充分」


 母さんの気配りはなんだか至れり尽くせりだった。

 ボールだけあったらなんとかなるとか考えていた自分が恥ずかしいってわけじゃないけど、やっぱり女性ならではの気配りっていうか、母さんは出来るタイプの人間だと思い、まっことありがたく思った。


「じゃあ、行ってくるね」


「夕飯までには帰るのよ。気を付けてね」


「うん!」


 というわけで、俺とルーナは母さんに礼と別れを告げて店を出た。

 この後はとりあえず、河原にでも行って練習開始しようということになっている。


 いよいよ、俺の人生が『ペ』なんとかのプレイヤーとしての一歩を踏み出すのだ。


 なんだか、わくわくしてきたぞ。




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