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3.家族(特に妹)を説得しよう

「どうしたのですか? 兄様にいさま?」


 ルーナのステータスを俺が開けて操作できないかといろいろ試していた俺を彼女が怪訝そうな顔で覗き込んできた。


 肩より長い黒髪が揺れる。

 年齢は幼女だが、今後が楽しみな美少女だ。

 血は繋がってないとはいえ兄弟だから、変な気を起こしちゃ駄目なんだけど。


 それはそうと……。 

 いろいろと――とはいえ、念じてみるだけしかしてないが――ルーナのステータスウィンドウを見ることができないか試してみたが、それは俺からは開くことも見ることもできないようだった。


 そもそも、ルーナにステータスウィンドウが存在しているのかも怪しい。


 幾つか読んだゲーム的な世界への転生系の小説では、他人のステータスが覗けるかどうかは半々ぐらいだったか。

 なんらかのスキルがあってその効果で見ることができるってのも多かったな。

 そもそもアンサガは人のステータスを覗くようなスキルは存在してなかったから、他人のステータスを見るのは無理っぽそうだと結論を下す。


 あきらめて俺は、6歳児として、ルーナの兄として、いつもどおりの行動を心がけることにした。





 簡単に顔を洗って歯を磨き――我が家では起床直後に歯磨きする習慣だ――、ダイニングに行くと、母さんが朝食を用意してくれていた。


 セミロングの金髪の似合う、自分で言うのもなんだが、6歳児の母としてはかなり見た目は若く美人である。

 と言ったら怒られるかな。まだ実際に20代後半だから若いっちゃ若いんだし。


「おはよう、アッシュ。

 今日から6歳ね」


「うん、母さんありがとう」


「それで、母様かあさま

 兄様とわたしの修行のことなんですけど」


 ルーナは早速、母への談判を始めようと口を開く。


 が、母さんは、


「まあまあ、そんなに急ぐことでもないでしょ。

 まずはご飯にしましょうよ」


 とルーナを促す。ルーナはしぶしぶといった表情すら見せずにそれに従った。


「そうはいってもねえ……」


 母さんが、ルーナに向き直る。

 結局、食事の中ほどで、ルーナは修行の話を再度切り出したのだ。


「父さんはしばらく帰ってこないし。

 わたしは店があるからねえ」


 詳しく聞いたことはなかったが母さんも父さんも昔は冒険者だったらしい。

 得意の武器は知らないが、剣術の基礎くらいは修めているだろうし、魔法だって使えると思う。それはルーナも知っていた。


 だからルーナは、母さんの指導をあてにしていたのだが、


「そうですか……」


 と俯いてしまった。


 そりゃそうだ。

 我が家は、父さんのやっている古道具屋兼魔導具店があるから暮らしていけるのだ。

 週に1日は休みだけれど、今日はあいにくとその日じゃない。

 加えて、いつもは家にいることも多い母さんだが、父さんが買出しに出掛けている間は、店番を代わりにやっている。

 俺たちに稽古をつける暇なんてないはずだ。家事もしないといけないのだし。


 ここで俺は、自分が店番を代わりにやるから、母さんはルーナと修行していて。なんてことは言い出さない。


 理由はふたつ。


 ひとつは、そこまでしてルーナの修行に価値を見いだせないこと。

 それとこっちが大きな理由でもあるがルーナが俺と一緒に修行をしたいっていうのをありありと知っているからだ。


 まあ、『ペぉきじゅhygtfrですぁq』をするにしたって、剣技やら魔法やらは必要になるという複雑な状況でもあるのだが。


 ついでに言えば、気ままな6歳児の俺はこれまで店番なんて手伝いをしたことがなく、申し出てもやんわりと却下されるだろう。


 黙り込んでしまったルーナとそれを申し訳なさそうに見つめる母さんの二人を見ながら俺は、起床時より練りに練る時間こそなかったが、温めていた計画を口にする。


「あのさあ、母さん。それにルーナ」


 母さんは俺を見た。ルーナは、


「なんでしょう?」


 と丁寧に答える。


「えっと、あれなんだけど……」


 言うべきことは決まっているのに、言い出せない。

 気まずいとかそういう問題じゃなくって単純に発音できないのだ。


「あの、ペあwせdrftgyふじこlp……」


 ほら、噛んだ。誰一人声に出して言えないふざけたネーミングなのだから。


 仕方なく迂遠な表現をとることにする。


「あの、ボール使ってやるやつあるじゃん?

 5対5でさ。

 自分のところと相手のところにボードがあって、そこにボールをぶつけたら一点入って……」


「兄様、もしかして『ぺぉいくjyhtgrふぇdwsくぁ』のことですか?」


 多少発音は怪しいがルーナは俺にとって難解すぎる競技名を躊躇なく口にした。


「ああ、『ペぉきじゅhygtfrですぁq』がどうしたの?」


 母さんはより明瞭な発音でさらりと言ってのける。

 どうなってんだ。こっちの異世界人の舌の構造は?


 それはともかく。


「そう。それなんだけど。

 ちょっと、興味があってやってみたいと思ってるんだ。

 誕生日のプレゼントはあれのボールにしてくれないかな?」


 と、俺は母さんにおねだりする。


「唐突ねえ」


 母さんは驚いたようだったが、拒絶的な反応はなさそうだ。


「別にいいけどね……」


 と軽く応じてくれた。


 あとはルーナを納得させよう。


「それに、あれなら、魔法も武器も使うし冒険者の修行がわりにもなるだろ?」


 と俺はルーナに向き直って説得にかかる。


「そうですか?」


「そうだよ。

 剣を使ってもいいし、それに普通に修行しててもつまんないじゃん。

 あれなら、楽しみながら強くなれるかなって思ったんだ」


「兄様がそういうのなら……」


 とルーナはしぶしぶ納得を見せてくれたようだ。


 とりあえず第一関門は突破だ。


「でも、ペぽきじゅhygtfrですぁqのボールなんてこのところ見てないわねえ」


 母さんが遠くを見つめるような目でいう。


 そう。それが気がかりだったことでもある。

 俺の国はその『ペ』なんとかどころではないくらい頻繁に戦いに明け暮れているのがここ数年の状況だ。


 もっと東の国々や帝国では『ペ』は盛んにプレイされているようだが、近所であれに興じている大人も子供も見たことが無い。


「まあ、ボールくらいならお店にひとつぐらいは残ってたかもね」


「じゃあ、取りに行っていい?」


「いいわよ」


 というわけで話はまとまった。


 俺とルーナの二人居て、ボールがあればとりあえず『ペ』の練習はできる。


 チームを作るには5人必要だが、まだそこまで考える必要はないだろう。

 まずは、俺の考えた将来設計の方向性が間違っていないか、なにか見落としがないか、さらに言えば、俺にその『ペ』の才能があるのかどうか。


 そんなことを見極めるために、ルーナとボール遊びに興じよう。

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