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25.覚悟を完了させよう

 俺の切り札。

 実戦投入はまだ早いと、使用してない『アーツ』


 そのアーツ名は『刹蹴技』


 当然、蹴り技主体、いってしまえば魔術以外での攻撃手段がキックでしかありえない俺にとっては、必須のスキルだ。


 アーツといっても単独の攻撃技ではない。

 ゲーム内では特殊アーツと呼ばれたそれは、多彩な蹴り技のコンビネーションの総称を指す。


 多段連携を主とした攻撃手法。


 蹴り技の速度、攻撃力、連携、それらを一手に向上させる。


 が、ここまで一切使用してこなかったのにはそれなりの理由がある。


 それなりとは言葉が足らない。


 それは、『ぺ』で使用するにはあまりにも危険すぎる技でもあった。


――クリティカル率の極端な向上――


 つまりは一撃死の発生確率が格段に上がるのだ。


 俺は思いだす。


 練習の時に、ゼヌアフさんと交した言葉を。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


「どうだ、アッシュ。だいぶと慣れてきたようじゃないか?」


「まあ、ぼちぼちと。

 でも、ゼヌアフさんが手加減してくれてるからなんとか」


「まあな、ガキ相手に本気で剣を振るうようじゃ、俺も大人げないからな」


「なにより死んじゃいますよ……」


「まあ、ぺぉいくjhygtrふぇdwsくぁで死人が出るのは珍しいことじゃないが……、練習ではそこまではやらねえからな」


 俺はその言葉にひっかかりを覚えた。


「死人……」


「ああ、そうさ。

 お前も知っているとおり冒険者ってのは、魔物を狩ったり、依頼をこなしたり。時には命がけで街を護る。

 それは知っているだろう」


「ええ、まあ」


「だからこそ、無駄に命を散らせないために、普段からこうやって訓練をして危険を少しでも排除するために、努力してるんだ」


 ゼヌアフさんが、周りの冒険者たち――訓練している人と『ぺ』に興じているひとが半々くらい――に目をやりながら言う。


「そうですよね。命がけですもんね」


 俺の言葉にゼヌアフさんの目が強張る。


「それはぺおぃうjhygtfれsくぁだって同じことだ。

 これは競技でもあり、そして己の力を発揮するためのひとつの手段でしかない。舐めてかかっているようなら、今のうちに考えを改めるんだな」


 どういうことだ? ゲーム内の『ぺ』では負傷はしても、死ぬなんてことはありえないシステムだったが……。


「刃を引いてあるとはいえ、先端が丸められているとはいえ、武器は武器だ。

 当たり所がわるけりゃ死んでしまう。

 さらにいえば、ぺぉいくjhygtfれdwsくぁで使用される魔術は、詠唱速度の問題、フレンドファイアを防ぐためといったような理由から初級魔術に限定されてしまうことが多いが、また、魔術耐性の無いプレイヤー相手に使うことはほとんどないから、死ぬほどのダメージを受けるなんてことは滅多にないが……」


 そこで、言葉を切ったゼヌアフさんは、ぼそりと。


「それでも、魔力が尽きた時なんかにくらいでもしたら命は危うい」


「みんな命がけってことですか?」


「そういうこった。ぺおぃくjyhtgrふぇdwsくぁの試合中に死んでもそれは不可抗力。罰せられることもなければ、それで試合が終わるわけでもない。まあ相手チームから恨まれて的にされることはあるだろうがな」


 思っていたよりも、数倍、いや何十倍も厳しい世界だ。


 たかが球技に命までかける?

 それは、サッカーをやっていた俺にとってはありえない。


 命がけで頑張るなんて言葉は存在するが、それで実際に命を落とすわけじゃない。


「まあ、さっきもいったように、急所は防具で守られて、魔術はお互い耐性がある程度ある。

 よっぽどのことが無い限り大惨事にはならねえが……」


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


 多少のためらいを感じつつも俺はアーツをアクティブに設定する。


 これで俺の攻撃力、攻撃速度は向上し、さらに今までとは違う蹴り技が繰り出せるようになる。


 魔物相手に使うのならば、運がよければクリティカルヒットが発生して一撃で仕留められると考えるところだろうが。


 相手は俺と同じ人間。急造かもしれないが『ぺ』のプレイヤー。

 クリティカルの発生を喜んでいられる相手ではない。


 仮に相手を殺してしまったなんてことが起これば。

 それは一生その十字架を背負って生きていくことになるだろう。


 だが……。


 だけど……。


 俺が選んだ道である。


 自分で決めた道なのである。


 迷いを振り切り、全力を出す時は今。


 結果がどうなろうと、俺は俺の道を行く。


 そのための第一歩。


 刹蹴家としての俺の目覚め。


 それが、俺の人生を大きく狂わせることになろうとはこの時はまだ知らなかった。

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