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24.逆境こそがチャンスだと思おう


 フレアの周囲を巡っていた無数の火球がひとつに集まっていく。


 これは予兆だ。


 極龍昇天撃滅波の発動エフェクトそのものではある。


 アンエターナルサーガではその発動はムービーにして、1分強のド派手な魔術なのである。


 が、若干どころか、わりと違和感を感じる。


 フレアの周囲で巻き起こっているそれは、極龍昇天撃滅波の発動エフェクトには似ているが、スケールが違いすぎる。


 そもそも、極龍昇天撃滅波はある特別な場所へ行って特殊なイベントをこなさないと習得できない魔術のはずだ。ゲーム内では。


 フレアに魔術の才があるというのはわかったが、こんな幼い少女が使用できるはずもない。


 ブラフ? というか成りきりなのだろうか。


 ともかくも、フレアの周囲に炎のドラゴンが出現した。


 それは、本来の極龍昇天撃滅波の巨大なドラゴンとは一線を画す。


 口でボールを加えるのがやっとの小さな竜だ。


 それでも、竜はボールを捉えるとらせん状に渦を描きながら上昇していく。


 そして、一気に下降。狙いはもちろん、ゴールボードだ。


 あっけにとられて途方に暮れていた相手ディフェンスを横目に、ボールはゴールボードに突き刺さったと同時に龍はその姿を消す。


 そこで、律儀に審判の笛が鳴った。


 二点目が入った。


 俺は(どうせ、行っても無視されるフレアを放置して)マーキュットに歩み寄り顛末を聞き出そうとした。


「あれって何?

 極龍昇天撃滅波とか言ってたけど。

 フレアってそんなの使えるの?」


「本来の威力はもっとすざまじく、また消費魔力も比べ物にならないほど多く、そもそも威力が強すぎておそらくはぺぉいjhygtfれdwsくぁでは使えないいにしえの超高等魔術。

 それが、極龍昇天撃滅波ですわ。

 その力は天を貫き、地を焦がす。

 魔術師の憧れのひとつなのですわよ」


「それって、有名なの?

 フレアってば、それを使えるの?」


 的を外した回答だったので質問は二度手間となった。


「フレアはどこかでその魔術の存在を知り、そして思いのほか憧れ、独自に似たような魔術を編み出したと聞いておりますわ」


「じゃあ、本物の極龍昇天撃滅波じゃあないんだ」


 中二病的な奴か。


「まあ、そうなりますわね。

 でも、本来のぺおぃjhygtfdsくぁでは使えないような殺傷能力の高い魔術よりも、こっちのほうがぺおぃくjhygtfれdwさwのルールにおいては、使い勝手もよく決定力もありますわね」


「まあ、そうだな……」


 と、フレアの精神に根付く闇についてはともかくとして、幸先の幸先良く、二点目を奪取した。


 フレアの魔力量があれでどれほど消費したのかわからないが、二点あれば一応セーフティーリード。


 サッカーではよく2点差が一番怖いなんて通ぶる奴がいるけれども、護りを固めやすい『ぺ』では、2点の点差はかなり優位に試合が運べるスコアだ。


 その証拠にリグズレーがまっこと悔しそうに自陣に引き上げている。


 だが、このまま簡単に勝たせてくれるほど相手は生半可な気持ちで試合を挑んできたのではないはずだ。


 俺は一層気を引き締める。勝って兜をなんとやらだ。




 再び、相手ボールからの試合再開となる。


 と、それに先立って相手チームではメンバー交代が行われていた。


 オフェンスとディフェンスを一人ずつ引っ込めて、ダークエルフの少年二人を投入してきた。


 青い髪と、黒い髪。髪の色は違うが、それ以外は似たような背格好。

 武器は、短剣のようであり、それぞれが二刀流である。

 俺と同じく軽武装のポイントアーマー装着だ。


 ぺでは、リーチの短い武器は嫌われる傾向にある。


 いざというときにとっさにボールに届かないし、重さにも欠けるために戦闘でも不利になりやすい。


 もっともバランスが良いのは剣。


 もしくは、接近戦であらゆる武器への対処ができる自信と技量のあるプレイヤーは槍などの長い得物。


 そういった武器が好まれる傾向にある。

 あとは、ディフェンス特化のプレイヤーではハンマーや斧など。


 短剣使いというのは、あまり聞いたことがない。マーキュットのフレイルも異色といえば異色とも言える。特にフォワードが使うということに関しては。


 さて、それでも満を持して登場の二人。

 よほど体術や身のこなしの良さを自負しているのか?


 臆することもなくピッチで何やら相談を交している。




 ともかく、おそらく秘密兵器なのであろう二人組が加わった。


 それにともない、敵チームはポジションチェンジを行っている。


 ダークエルフコンビは、フォワードとして前線の左右に開き、ウィングのようなポジションをとるようだ。


 少し下がり目のセンターフォワードにリグズレー。


 俺のように中盤で試合を支えるような役回りはできなさそうだが、攻撃の要にはダークエルフが付くために、攻めたい気持ちを抑えて若干後ろ目に下がったという印象だ。

 それでも、チャンスと見れば一気に上がってくるだろう。要注意ではある。


 そしてさっきまで3バックだったディフェンスは2バックにシステム変更がされている。


 大盾を持った重武装の剣士と、槍を持った騎士が残っている。

 どうやら、二人でゴール前をゾーンで守るつもりらしい。


 となれば、こっちも相手の守りを崩すには相応の枚数がいる。


 とはいえ、ウチのオフェンスもマーキュットとフレアというそこそこに実力のある二枚看板だ。


 せんぞは、俺も加わって三人で相手を崩しにかかっていたが、その時は敵も三枚。


 相手が、守備の枚数を減らし、前がかりに攻めてきそうなので、俺はしばらくは攻撃を捨てて、守備重視のポジションを取る予定だ。




 審判の笛が鳴り響き試合が再開される。


 青髪のダークエルフから、黒髪のダークエルフにボールが渡される。


 と、黒髪から青髪へ。また、青髪から黒髪へ。


 なかなかにして流れるようなボールまわし。

 ゲーム内でも見られないような華麗なパスワークが披露される。


 手持ちが短剣であるために、ボールの扱いはしやすいのは予想がつくが、それにしてもボールコントロールの技量は大したもんだ。


 俺は、ゴール前を固めるルーナとユピタに指示を飛ばす。


「相手のパスワークに注意な!

 あのダークエルフ、二人とも相当なテクニシャンみたいだ。

 一人を止めにいっている時はもうひとりを常にマークしといて!」


「わかりました」

「了解」


 と威勢のよい返事が返ってくる。


 さて、お手並み拝見といくか。


 俺が万一抜かれても、後ろにはまだ二人残っているし、点差も二点ある。


 相手の実力を計るためにも、ここはしかけどきだ。


 俺はするするとポジションを上げると、ドリブルやパスワークで自陣に攻め入ってくるダークエルフコンビの間にジグザグの軌道で割って入る。


 さて、コンビプレイを徹底するのか。

 それとも個人技で対処を試みるのか?


 が、俺が近づくのをみると、ダークエルフコンビは、広げつつあった二人の感覚を狭めて二人ともコートの真ん中に寄ってきた。


 ダークエルフを底辺に、俺とで二等辺三角形ができる。


 俺はパスコースを殺すことを意識しながら、ドリブルで向かってくる黒髪のダークエルフに体を寄せて行った。


「僕らの間に割り込めると思ってるの?」


 黒髪ダークエルフはそんなことを呟く。


 気が付くと俺の背後には、もうひとりのダークエルフが迫っているというのがルーナからの情報連携で伝えられる。


 二対一?


 臆面もなく二人がかりで俺を抜こうっていうのか?


 まあいいさ。やれるもんならやってみろ。


 と俺は身構えた。


「かかってこいや!!」と叫びながら。


 本来ならば、それは、ボールを持った側が発する叫びなのであろうが、気合注入のためには細かいことにはこだわっていられない。


 青髪のダークエルフが俺の背後からとびかかる。


 大きく躱せば、それはボールをキープしている方に対して進路を開けてしまうことになる。


 俺は体を反転させて手甲で相手の短剣を受け止める。


「こいつ! 背中に目でもついているのか?」


 実際はそんなことはなく、スキルの恩恵なのだが。


 が、呑気なことはいっていられない。


 何せ相手は二刀流なのだ。

 受け止めた短剣とは別のもう一本が迫る。


 さらには、前面からは黒髪が飛びかかってくる。


 さすがに4本の武器を相手に一人で立ち回る――それを全て受け止める――のは困難だ。


 相手との間合いを取るために俺は、カンガルーキックで背後の青髪エルフを蹴り飛ばす。


 そこへ斬りかかってくる黒髪の攻撃をバク転気味に転がって躱す。

 距離を取ったのは攻撃への布石。


 短剣の間合いであれば、それはすなわち俺の蹴りの間合いでもあるということだ。

 一気に、距離を詰めて、蹴り倒そうと飛び込みかけて、背筋を冷たいものが走るのを感じた。


 とっさに身を捻ると風の刃が頬を切り裂く。


「遠慮するな! ぶったおしてやれ!」


 とは、ウォッチャーと化したリグズレーからの指示。


 二人がかりで、攻めらて、しかもこいつらは魔術の詠唱速度もなかなかのようだ。


 ちょっと、このままじゃまずい。


 かといって、ルーナやユピタに救援を頼むと、リグズレーにボールが渡ってしまった時に一対一の状況が作られてピンチを広げかねない。


 マーキュットもフレアも守りの意識は薄く、フォローに下がって来ようなんて気はさらさらないようだ。


 これは、奥の手を出す時がきたか。


 俺はウィンドウを開くと手早く操作を始めた。

 溜まっていたスキルポイントの使い時である。


 できれば温存しておきたかったが、このままじゃあ埒が明かないのも確か。


 どうせ、いつかは取ろうと思っていたスキルだ。

 その力を借りずにどこまでやれるか試してみたかった気持ちもあるが、相手も本気。


 ならば、ここで真の力を発揮するのはやぶさかではない。

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