表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/29

23.守ったり攻めたりしよう

 さてと、幸先よく一点をもぎとって試合再開。


 敵の攻め手はオーソドックスな剣士が二人だ。


 一人はリグズレー。事前に得た情報によると、正統派の剣術を修めていて、地属性の魔術に長けているという。


 もうひとりの、エルフの剣士はまだ実力は未知数。

 リグズレーの腰ぎんちゃくなのか、それとも実力を伴った選手なのか。


 まあ、今にわかるだろう。




 相手オフェンスのアタックオフで試合が再開される。


 マーキュットもフレアもボールを持った敵には目もくれずに一目散に走りだした。


 マーキュットは相変わらずフレイルをぶんぶんと振り回しながら。ゴール前やや後ろのポジションまで。


 フレアはゴール前まで行き、一旦少し下がってまたゴール前へと走る。戻っては上がり、上がっては下がるという意味不明な往復を繰り返している。


 サッカーと違ってオフサイドなんてルールは存在しないのが『ぺ』だから、ディフェンスの向こう側に到達しているフレアも反則でも無意味な行為でもないのだが。


 仮にロングボールが通ればチャンスになるだろうから。


 それでも、球技としての『ぺ』に精通している人間は大人でも少ない。

 逆に言うと、『ぺ』をシステマチックな球技だと認識している人間がほとんどいない。

 これはあくまで格闘競技だというのが世間一般での認識だ。

 なので、マーキュットもフレアも戦術的には小学生レベルだし、チームとしての連携を深めるまでの練習はできてない。加えて言うとプロでもあえて同じような愚直な戦術をとることも多い。ショープロレスとも似た要素があるのかもしれない。


 ともかく、うろちょろして無駄に体力を使っているが、邪魔にはならないから、放っておくしかないだろう。

 ふたりが守備に貢献しようという気がないのが、ありありと伝わってきたのは懸念事項だが。



 ボールがリグズレーに回る。


 まだセンターサークルから少し出たぐらいの位置だ。


「来いよ! アッシュ!!」


 ゆっくりとしたドリブルで俺に対してそんな挑発を繰り出してくる。


 まあ、ご指名がかかったんだ。


 行ってやろうじゃないの。


 俺は、するするっとポジションを上げると、ドリブルで上がってくるリグズレーに対峙する。


 リグズレーの足が止まる。


 一対一だ。


 と、朝方母さんに言われたことを思い出す。

 たしか失礼のないように、だったな。


『ぺ』をプレイするのに失礼もへったくれもないちゃないのだが、それでも大怪我でもさせたら相手は超有力貴族のご子息様。

 あとでどんな難癖をつけられたり、嫌がらせを受けるかわかったもんじゃない。

 またその被害は家族――父さんの店など――にまで及びかねない。


 とそこまで考察した俺は、軽くあしらってやろうと意思を固める。

 まあ、リグズレーが俺より格下であると想定してのことだけど。


 やはり、リグズレーはボールを放っておいて剣を構える。


 俺との決闘を所望しているようだ。


 上段に構えられたその立ち姿は、確かに隙がなく、バランスの良い体制だ。


 そこそこ剣術の修行は真面目にやっているようだな。


 だけど、こっちは経験豊富な冒険者のゼヌアフさん(や、その他大勢)と練習してきたんだ。


 リグズレーが、俺に斬りかかろうと一歩踏み込む。

 俺のポイントアーマーは頭部の防御すらトレードオフして、素早さ重視にしてもらった特別性の防具だ。刃引きの剣とはいえ、無防備な頭に当たったらタダでは済まない。


 リグズレーの太刀筋は良く言えば正直で基本に忠実、悪く言えば平凡でありきたり。

 狙いは正確だが、面白味と速度に欠ける。


 軽く手甲で受け流す。


「やるな!」


 と、意気込んで二撃目に備えるリグズレーだったが、もうこの攻防で実力差は見えてしまった。


 さらに踏み込んでくるリグズレーの前足を足で軽く払う。

 柔道で言うところの出足払い。

 着地寸前の足をタイミングを見計らって払うことで、相手のバランスを崩す技だ。

 腕なり襟なりをもってコントロールしていればそのまま相手を転がすことだってできるぐらいに見事にリグズレーはバランスを崩す。


 とはいえ、俺の主力武器&登録武装は足の甲冑靴である。

 上半身は護りにしか使えない。


 が、それでもやりようは幾らでもある。


 バランスを崩しかけたリグズレーの今度は軸足。

 後ろに残っている足を軽く刈る。


 着地寸前の前足が払われ、さらには軸足を払われたのなら、もはや立っていることは困難だ。


 リグズレーがバランスをくずして尻もちを付きかけているのを確認もせずに、ボールを奪って俺は、ドリブルを開始した。


「貴様!」


 と背中に怒号が飛び、情報連携の効果で、尻もちを付いたリグズレーが俺に対して憎しみの視線を投げかけているのを感じたが、構っている場合じゃない。


 また、しばらくしたら遊んでやるよと心の中で呟いて、俺の意識は前線へ向く。


 さて、またこっちのボールだ。まだ自陣だからここから攻撃を組み立てなければいけない。


 控えのダークエルフの二人が気になる。おそらくはあの二人は攻撃要員であり、ともすれば秘密兵器、スーパーサブ的なコンビであろう。


 その実力が想像以上なのであれば、(未だなんの活躍も見せていない)ルーナとユピタには荷が重いかもしれず、そうなれば俺は守備的なポジションで二人をサポートすることになる。


 ならば、その際には攻撃は二人のフォワードに任せることになる。


 マーキュット、フレアコンビがどこまで相手に対してやれるのか。


 それを確認する意味で、今回は俺は完全にパサーとして、前線にパスを送る役目に徹することにする。


 だが、ゴール前ほど近くにいるフレアにも、マーキュットにもパスを出そうにもパスコースがふさがっている。


 ゴール前にロングボールを入れてフレアの魔術でなんとかしてもらうという戦術も悪くはないが、相手を崩してから綺麗にシュートに持っていきたい俺の矜持に反する行為だ。


「マーキュット、一旦下がってボールを受けに来て!!」


 と俺はまだ聞き分けのよさそうなチームメイトに向けて指示を出す。


 渋々と言った表情でマーキュットはディフェンスを振り切って下がってくる。


 パスコースが出来たのを確認して俺は、パスを出そうとするが、働きものの相手オフェンスが、俺の前に立ちはだかった。


 面倒だな……。


 どうも『ぺ』の試合ってのはテンポが悪い。

 まあ、一対一でのバトルがそこらかしこに挿入されるのは、観客にとっても見ごたえのあるシーンであるが、サッカーやバスケットのような流れるようなパスワークみたいな展開が起きにくいのだ。


 さりとて俺は元々サッカー選手。


 郷に入れば郷に従えとはよく言うが、あえてそれに逆らう。


 相手剣士の間合いに入るか入らないかの寸前で俺はボールを保持したまま華麗にターンを決める。


 背を向けてボールを隠し、まわりながら相手を抜く、マルセイユ・ルーレットだ。


 サッカーであれば、相手の至近距離を通ってきれいに抜きされるのだが、そんなことをすれば剣でぶっ叩かれる。

 だから、半径を大きめにとる。

 それでも相手の剣は俺のどてっぱらに向って振り襲ってくる。それを手甲で払いながら、相手を抜くと、一気にマーキュットへパスを出した。


「ゴール前にはフレアが居るから!

 適当なところでセンタリング上げて!!」


 とマーキュットへの指示も忘れずに。


「あら、次はわたくしが点を取る順番ですわ」


 とマーキュットは謀反の意思を伝えた。


 まあ、どっちが点を取ってもいいんだけど。

 フレイルよりかは火炎弾のほうが正確なシュートが打てるからあまり褒められた作戦ではないのだけれど。


 ともかく、マーキュットはフレイルで器用にドリブルを開始した。


 言うだけのことはあるようだ。


 で、立ちはだかる大盾のディフェンスと一対一になる。


 さっきどんぱちやって結局振りきれなかった相手だ。


 さて、どうするのか。


 あいも変わらず、鉄球を振り回して相手の盾に防がれる。

 相手は防御に手いっぱいで、攻撃の手数は少ないし、それすら鉄球の餌食だ。

 

 実力は伯仲している。そう簡単には抜かせて貰えないか?


 と、そこはマーキュットにも考えがあったようだ。


 魔術の発動。


 マーキュットの左腕から氷弾が迸る。

 小さなつぶてで威力は無いがその分数が多い。


 目くらましの効果兼相手がたまらず盾で顔面を護りに入ったその瞬間に、どてっぱらに鉄球をぶち込む。


 まったくもって、お嬢様とは縁遠い攻撃だが、相手を沈めて抜き去ることには成功した。


 さて、次はオーソドックスな剣の使い手で、複数属性の魔術を使える剣士が相手だ。

 マーキュットは同じように、氷のつぶてを放つが、それは盾ではなく魔術で相殺された。


「やりますわね!!」


 と意気込むマーキュットだったが、実は万策尽きたようで、鉄球振り回してなんとかしてやろうモードに切り替わった。俗にいう破れかぶれという戦術だ。


 これはフォローが必要か?


 と思っていると、いつの間にかフレアがマーキュットの放置していたボールを奪って杖でのドリブルを開始した。


 フレアはシューティングゲームのオプションのように自身の周囲に5~6個の火炎球を張り巡らせている。


 これでは剣士も近づけない。


 相手センターバックの槍使いとフレアの一対一となる。


 シュートも狙える位置だが、それはゴール前に敵がいなければ、という条件付きでの話。


 槍使いを躱さねば、フレアのシュートチャンスは生まれない。


 と思っていたのだが、


「極龍昇天撃滅波!!」


 フレアの口からとんでもない魔術名が飛び出した。


――極龍昇天撃滅波……


 それは、オンラインMMO、アンエターナルサーガにおいて、火属性では1、2を争う威力を持つ必殺の魔術攻撃である。


 繰り出した炎を竜の姿に変え、竜は上空高く渦を巻きつつらせん状に舞い上がり、そのまま敵陣に降り注ぐ。


 全体攻撃魔術。そこらの雑魚のみならず、最終ダンジョンの敵ですら一蹴しかねない高等魔術だ。


 まじで?


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ