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22.華麗なプレイで圧倒しよう

 さてと。ボールを持って相手ゴール前。


 状況を軽く確認する。


 ゴールまでのルート上に残っているディフェンスは一人だけ。

 槍を持ったエルフの少年だ。


 さっき、オープニングでマーキュットのアタックオフシュートを防いだことから見ても、技術や反応速度はあるはずだ。


 それにポジショニングもいい。


 得意のループシュートを狙っても、リーチの長い槍では防がれてしまうような位置で待ち構えている。


 俺を倒さねばシュートなど打たせんという気迫漲る表情でこちらを見据えている。


 ドリブルのスピードを落としつつ、左右に方向を小刻みに振り、誘い出しを謀ってみるがつられない。


 堅実なタイプのようだ。


 となると、こちらも攻める手段が限られてくる。


 基本的には倒すか、躱すか。

 だが、躱すというのは、相手の実力をある程度に置いて認めたということにもなり、プライド高き『ぺ』の選手はなかなか取ろうとしない戦術だ。さらにいえば、観客への受けも悪い。


 俺はボールを転がしながら、相手を目がけて徐々に距離を詰める。


 先に攻撃の間合いを得たのは相手ディフェンス。

 超近接戦闘にしか対応できない俺の蹴り技より槍の方がリーチがあるから当然だ。


 魔術で俺が逆に先手をという作戦もアイデアとしては悪くはないのだが、二つの理由によって今は俺は魔術を使えないのだ。


 無策、無警戒で近寄ってくる俺に対して、相手は素早い槍さばきで突いてくる。

 それをとっさに手甲で受け流す。


 が、大振り気味でもあったさきほどの剣士の剣とは違い、この攻撃は突くという直線的な動き。

 さらには、相手は連続攻撃を初撃の段階から目論んでいたのだろう。


 態勢を崩すことなく、槍を引き、新たに突きを入れてくる。


 受け流すのが精いっぱいとなり、俺の足がピタッと止まる。


 周囲の気配にまた一瞬思考を傾ける。


 まだ大丈夫だ。俺と槍騎士の一対一の状況はしばらく余裕がありそうだ。

 近づく相手選手(・・・・)の気配はない。


 俺はボールを追い抜くと、一気に槍の懐に入るべく猛ダッシュを仕掛けた。


 突きではいなせないと判断した相手は、引き戻しつつあった槍を横に払い攻撃手段を切り替えて対処しようと目論んだ。


 が、それはもはや俺の優位が築かれたということである。

 通常の戦闘では槍にはもちろんその先端には切り裂く能力を備えた刃がついているが、これはスポーツ。

 物騒なルールだが、その先端は丸められ、刃は刃引きされている。殺傷能力という点ではほとんど機能しない。


 斧や、こん棒、あるいは剣であればその重量から刃引きされていようとも横薙ぎの攻撃はダメージ、あるいは一瞬の態勢崩れを覚悟せざるをえない代物であるが、今俺に振るわれているのは武器としての重量に欠ける槍。

 しかも、その高速で振り払われる先端部分ではなく中程から根本の部分まで踏み込んでそこで受けてしまえば威力はほとんど減衰してまったくもって脅威とはならない。


 払われた槍の穂先ではなく柄に近い部分を手甲で受けて、俺は相手の槍を持つ手を蹴りあげる。


 キイーンと金属同士がぶつかる音がする。


 ダメージは通らなかったようだ。

 あわよくば相手に武器を落させてということを目論んだ攻撃だったが。


 一撃でだめならもう一撃。


 と、蹴りどころを探すが、なかなかにして鎧に包まれた相手に有効な打撃ポイントは存在しない。


 ならば、と俺は一旦距離を取る。


 ボールを確保して、また槍の間合いへと下がった。


 俺の後退に虚を突かれた形になったディフェンスだったが、即座に槍を構えて、仕切り直しの一撃を繰り出そうとする。


 俺は身を反転させてその槍を躱すと同時に、ボールをドリブルしたまま相手に突進する。


 間合いを詰められたらさっきの二の舞だということを学んだ相手は俺ではなくボール目がけて槍を突き出してきた。


 賢明な判断ではある。

 ディフェンスがとるべき方策はふたつ。相手を倒すかボールを奪うか。

 前者がダメなら後者で活路を見出す。


 が、それは俺の読み通り。


 俺はボールをチップキックで浮かすと、足元に突き出された槍を大きく蹴りあげた。

 反動で相手のバランスが崩れる。


 このコンマ何秒のタイミングがあれば十分。


 シュートレンジでの攻防なのである。

 隙があればシュートが狙える。


 が、ボールは浮き球。ボレーではさすがの俺もゴールボードを的確に狙うことは難しい。のだが……。


 俺は、躊躇なくゴールへ向けてボールを蹴った。

 勢いよくではなく、相手をあざ笑うかのようなふわりとしたボールだ。

 いわば、ボレーでのループ気味のシュート。


 それは、即座に振り上げられた槍の間合いを逃れて、宙を舞う。

 あえて、間合いの外に蹴ったのだから、届かなくて当然。

 そして、ボールはわずかにゴールボードから外れた軌道を飛んでいく。


 そのままボールはゴールラインを割るかに見えた。


「フレア!!」


 が、そこには呪文の詠唱をしながら猛然と走り込むチームメイトの姿が迫っていた。


 フレアの放った魔術がボールの軌道を変えて、ゴールボードへと導く。


 火炎弾で方向を変えられつつ速度を増したボールがゴールボードに見事に突き刺さった。


「ナイスシュート!! (そして、ナイスアシスト俺!!)」


「決めた……」


 フレアがぼそりと呟く。


「ああ、良く決めてくれたな!」


「まだ。あと3点……」


 あと3点も取るって言うことか? この試合で? なかなかに積極的な奴だ。口数は少ないけど。


 それだけ言うとフレアは俺の出したハイタッチの手にもなんら関心を示さずに自陣へと引き上げていく。


「素晴らしいですわ! 二人とも! ナイスプレイですわ!!」


 相変わらずフレイルを振り回しながら、駆け寄ってくるマーキュットをするりと躱したフレア。


 マーキュットもそれは想定内のようで、向きを俺へと変えた。


「ちょ、その危ないのを一旦止めて!!」


「あら、興奮してしまって。

 ですが、見事なプレイですわね。

 相手を翻弄しつつ、効果的に得た得点でございますわ!」


「まあね、フレアが走り込んでるのが見えたから。

 どフリーだったから決めてくれると思ってたよ」


「この分じゃあ、楽勝ですわね」


「まだわかんないよ。相手だって一点取られて攻めに来るだろうし」


 と振り向くと、なにやらリグズレーのチームのベンチ前が騒がしい。


 控えの選手がアップを始めた。


 早くもメンバー交代を行う準備をしているようだ。


 小柄なダークエルフの少年が二人でボールタッチを繰り返している。


 秘密兵器の投入か? ってことは俺達のチームの力を舐めていた?


 あるいは、ブラフか。


 まあいい。とにかく、一点取ったんだ。


 このまま気を引き締めて、追加点を狙いつつも守りを固めて、逃げ切るのではなく、勝ちきってやろう。


 俺は自陣の奥で同じように喜びをあらわにしているまだ出番の無かったルーナとユピタにも手を振り上げてアピールしながら自陣に戻る。


「とりあえず、オフェンス陣は結果を出したぜ。

 相手は攻めに出てくるだろう。

 ルーナもユピタも気を引き締めてしっかり守ってくれ」


「了解ですわ」

「もちろん」


 さあ、幸先良くスタートが切れた。


 戦力差を考えるに、相手のディフェンスよりは俺達のチームのオフェンス力が若干上回っているかに思える。


 あとは、相手の攻撃力がどれだけあるか? と、ルーナやユピタでどこまで止められるか? ということだ。


 様子を見るために一旦俺は守備的なポジションを取る。


 相手は、オフェンス2人、ディフェンス3人といった陣形だった。


 そういう布陣を取れるということは、リグズレーももう一人のオフェンスも攻撃力には自信があるはずだ。


 そう固い守備では無かったからカウンター主体のチームでもなさそうだ。


 俺は気合を入れながら、試合再開を告げる笛を待った。





 


 

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