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21.早速試合を始めよう


 いざ決戦のときである。

 メンバーでグランドに出る。


 相手チームの得物を確認するに、剣や槍といったオーソドックスなスタイルの戦士が多いようだった。


 が、武器は普通でもプレイスタイル、特徴まではわからない。

 その辺りのことは、試合をしながら読み取っていけなければならないだろう。


 俺はみんなを集めて試合開始直前に、最後の意思統一を図る。


「相手は、技術、経験で俺達よりも格上かもしれない。

 だけど、体力や身体能力、それに魔力量は変わらないはずだ。

 前半は少し下がり目で相手の能力を見極めつつ、守備を固めよう。

 ってわけで、マーキュットはフレアと俺の間に入るくらいの位置で。

 出来れば、こっちは前半は体力魔力ともに温存して相手の消耗を誘おう」


「わかりましたわ」


「うん」


「結構です」


「…………」



 ほんとにわかってくれたかな。と思わしきものが約一名居るが。


 とにかく、試合開始だ。


 俺達ボールから始まる。


 審判のホイッスル。

 

「おくらいなさいまし!!」


 げっ、キックオフならぬアタックオフシュートって!!


 マーキュットさんが、フレイルを振り回してシュート体制に入っている。

 あんな鎖のついた鉄球でボールを正確にゴールに向けて狙えるわけがない。

 

 前世で見たアニメじゃあ、ヌンチャクのクラブを使うプロゴルファーなんてのもいたが。


 とにかく、空振りするほどの技量じゃないからフレイル先端の鉄球はボールを捉えて相手のゴール方向に向けて飛んで行った。


 フレイルでのフルスイングにしちゃあなかなかの精度だが、ゴールボードに突き刺さるほどのコントロールはないのは歴然だ。


 マーキュットはなんでこんな無茶をしたんだろう?


 まあ、いい。相手ボールからの再開だ。

 しょっぱなに景気づけで勢いをつけるには良かったかもしれない。


 と、ボールの行方を目で追うのを止めようとした時に。


 フレアが、火炎弾を放つのが目の端に入った。


 いやいや、魔法でボールの軌道を変える? ゴール前ならともかくセンターサークルからじゃあ無理でしょ。魔力の無駄遣い……・


 と悲観的な考えに浸りかけていたら、あろうことか火炎弾はボールを的確にとらえてボールの進行角度を変えることに成功した。とはいえ、それでゴールに向かいて飛び出すほど『ぺ』は簡単な競技じゃない。


 が、撃たれた火炎弾は一発だけではない。


 二発、三発と連続して放たれて、軌道を微調整していく。徐々にボールの行方はゴールボードへと修正されていく。


「これは決まりますわよ!!」


 マーキュットが叫ぶが、相手もそれをほおっておくほど馬鹿じゃない。


 対抗手段は心得ている。


 はずなのだが、その敵ディフェンスに向けてフレアが走りながら牽制の魔術を次々とお見舞いしていく。

 それは、防御されて、あるいは躱されてダメージにはなっていないが、そのおかげで相手はボールに対してフォローをするのが遅れている。


 何気にチャンス?


 好機と見てか、マーキュットもフレアも前に詰めていっているようだ。

 つられて俺も上がりかける。


 ボールは既に敵陣のゴールボードの直前。

 フレアが放った後ろからの火炎弾が、その威力を増加してゴールボードへと一直線。


 が、かろうじてディフェンスの振り上げた槍がゴールボードへの針路を塞ぐ。


 ボールは槍にあたって弾かれてコートを転々と転がっていった。惜しいっ!


「まだですわ!」


 マーキュットはフレイルを振り回しながらコートを駆けあがる。


「おどきなさいませ! 邪魔立てする輩はこの鉄球の餌食に!!」


 その速度はともかく、マーキュットの周囲を旋回する鉄球に阻まれて敵は彼女の針路を防げずに居る。


「お、俺の中のマーキュット像がガラガラと音を立てて……」


 リグズレーがプレイ中にも関わらず嘆いていたが、気にすまい。


 が、ボールは相手のデフィフェンダーがキープした。


 アタックオフから、ほんの数十秒の出来事だ。


 まだ、相手は自陣に引っ込んでいて、攻める体制になっていない。


 敵陣深くでボールを奪い返せたら再びチャンスになる。


 フレアとマーキュットがボールを持った選手へと距離を詰める。


 こうなれば乱戦だ。

 ボールを持たないマーキュットもフレアも敵からの攻撃対象となる。多対多での入り乱れた戦闘になってもおかしくない。


 いくら、マーキュットがフレイルをぶんぶんと振り回していたとしても、相手だって接近戦ならば対処のしようもあるだろう。


 大盾を持ったディフェンスにフレイルを防がれて進撃がとまる。


 加えて言うなら、ボールを持った選手と一対一になったフレアは、ローブ姿であり中距離~遠距離の支援向きのプレイヤーで格闘には弱いはず。


 俺のフォローが必要だ。と瞬時に判断して速度を上げる。


 相手ディフェンダーの得意とする剣の間合いに入り込まされてしまったフレアはそれでも躊躇なく魔術を使用する。


 フィールド上に炎の壁が現れた。


 壁に阻まれて、ボールを持った選手はフレアを見失ったはず。

 が、炎の壁の一角が、割れる。

 相手も魔術は相当使えるようだ。

 炎に対して水系の魔術で炎の勢いを的確に削ぐ。


 その壁の割れ目から、フレアに向って突進。

 どうやら、パスではなく、ドリブルで抜くことを選択したようだ。


 それははた目に見ても正しい選択だ。


 味方の選手はまだ自陣であたふたとしているし、マーキュットと俺がパスコースを塞いでいる。


 ゴールボード前にいるフリーのディフェンスに一旦ボールを戻して落ち着かせるという選択肢もあったろうが、それは消極的である。


 それは、相手のチームカラーではないようだ。

 その証拠に、リグズレーは、好機とみてかポジションを一気に上げている。


 フレアが抜かれた時のために、リグズレーのマークに戻るか?


 いや、間に合う。


 俺は、疾走する。


 俺の装備。メタリックバタフライの羽でしつらえられたピジュさん特製のポイントアーマーは俺の敏捷ステータスを驚異的に向上させているのだ。

 俺が着たからそうなのか、他の誰が着てもその補助効果の恩恵に授かれるのかは不明だが、とにかく今の俺はそれでも手加減をしないと怪しまれるくらいの、変な噂が立ちかねないくらいの、6歳にはありえない速度を手に入れていたりする。


 で、繰り出した炎の壁を乗り越えられてしまった形となったフレアだったが、敵が攻め上がるとみると、進路を塞ごうともせずに、逆に道を開けてしまったようだった。


 確かに。剣を持った選手相手に杖だけで、しかも魔術師が戦うのは得策じゃない。


 結果的に俺のチョイスは正解となる。


 相手がパスを出すタイミングの直前にマークに着くことができたのだ。


 俺と敵剣士が対峙する。


 こうなれば正々堂々。一対一の力比べとなる。


 味方がフォローにこようもんなら相手の選手に阻まれるし、逆もまたしかりだ。


 何より、『ぺ』では一対一の戦いが重んじられている。


 残り時間が少なくなって負けている時などはパワープレイに走ることもあるが、序盤ではそれはなかなかしない。


 相手の力量を知り、また相手との相性を見極めて、試合全体を通して最良の策を取るための布石でもある。


 いわば、一対一でのプチ決闘はペの花形イベントでもある。


 その証拠に観客のボルテージが一気に加速する。


「いけえ! アッシュ!!」

「のしちまえ!!」

「けちょんけちょんに(ry」


 アウェイの声援にも物おじせずに敵の剣士がボールそっちのけで、俺を袈裟斬りに斬りかかる。


 が、俺も剣とは言わず、考えられるあらゆる武器を持った相手との戦いはこの一ヵ月間に冒険者の皆さんの協力で経験している。


 さらにいえばその中でもやはり王道武器である剣と接する機会が多かったし、重みに欠ける剣での攻撃は俺の戦闘スタイルにとっても最も相性が良い。


 相手の剣を弾くのではなく、手甲で受け流す。


 それだけで十分だった。俺にすればこれで勝負の趨勢は決している。


 相手は再び攻撃をするためには、剣を引き戻さなければならない。

 が、黙ってそれを見ているほど俺はお人よしではないし、それだけの時間があればやれることは多数ある。ましてやこれはペの試合である。


 俺は無慈悲に敵の太ももを蹴りつけた。

 蹴りあげるのではなく、振り下ろす。地味にダメージの残るローキックのお手本のような蹴りだ。


 相手の体がぐらつくのを見て、こんどは足を蹴りあげる。

 兜で覆われた顔面への蹴りは通用しにくい。

 だから、空いている顎を狙った。


「ぐふぅ!」


 第一線としては、これで十分。


 ひざを折るディフェンスを横目に見ながら俺はボールを確保してコートを駆けあがる。

 前の人生で、サッカーの試合では得られなかった興奮が俺の体内を駆け巡る。


 ああ、『ぺ』だってなかなか熱いし面白いじゃない。


「兄様!」


 突如、ルーナの声。なにがしかの危機を告げる警告だが、その短い言葉以上の情報が俺には伝わっていた。


 スキル【情報連携】の恩恵だ。

 俺の背後から、迫りくる魔術攻撃の気配を瞬時に察する。

 抜いたディフェンスが苦し紛れに放ったようだ。


 スキルのおかげで、ルーナの視界にある情報の一部も俺は感じ取れることができるようになっていた。いわば背後の目である。

 ルーナがディフェンスで後ろにいてくれたことがこの場面では活きたようだ。


 振り向かずに魔術の軌道までを感じ取った俺は、簡単なターンでそれをさらりと華麗にかわすことに成功する。


 馬鹿みたいな速度にならないように加減しながらも俺はドリブルのギアを上げた。


 相手の守備陣は一人を俺が抜き、ひとりはまだマーキュットが抑え込んでいる。


 ゴールまではあと一人。


 さあ、先制点をもぎ取って鼻を明かしてやろうじゃないの!

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