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20.なにはなくとも作戦会議しよう


「忘れ物ない? 大丈夫?

 あとで応援に行くからね~」


 と、ドキドキ保護者である母さんだったが、俺もルーナも落ち着いてはいた。


 父さんはこんな日でも店を開けるらしくて、出がけに「頑張れよ」と軽い一言の激励だけを戴いている。


「お弁当はいらなかったのよね?

 相手は、貴族のご子息でしょ? 失礼の無いようにね」


 矢継ぎ早に思いついた言葉を次々と投げかけてくる母さんだったが、『ぺ』の試合をするのに失礼もへったくれもないような気はしないでもない。

 確かに貴族の息子と試合をするってのは庶民からすればハードル高いけど。


 とまあ、そんなたわいもないやりとりを終えて。


「じゃあ、母さん、行ってくるよ!」


「いってまいります」


 とルーナとともに家を出る。


 街を歩くとあちこちから声がかけられる。


「頑張れよ!」「応援してるぞ」

「いいとこの坊ちゃんなんかに負けるなよ!」

「ひとあわふかしてやれよな!」


 などなど。


 俺達が試合を行うというのは瞬く間に街中に広がり、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっている。


 まあ、マーキュットが出場するのも大きいし。彼女は有名人だし、みんなに慕われているようだから。


 加えて言えば、リグズレーがマーキュットを(恋愛的に)狙っているらしいというのも周知の事実のようで。

 リグズレーはもとより、その父親であるヴァンファーレ侯爵があまり人気が無い――王的立場であるグリーブ公爵は人格者でこの街を治めているアミファード伯爵も信望が厚いからよけいに――ので、日頃のうっぷん晴らしとまでいかなくとも、俺達がリグズレーのチームに勝って、溜飲を下げたいみたいな雰囲気が薄々ではなくおおっぴらに広まっている。というのがこの街の現状。




 てなわけで試合会場となったいつもの冒険者訓練場に着く。

 さすがに、まだ試合開始までには間があるために、見学者はちらほらである。


 相手のチームもまだ顔を見せていない。


 ゼヌアフさん、教官さん、クラノさんと言った大人たち。

 それから俺達のチームの5人の少年少女だけがグラウンドの隅に固まった。


「こちらが、フレア・マーズリー。

 本日一緒に戦っていただくわたくしのお友達ですわ」


 と、マーキュットに紹介されたのは初顔合わせでもある、新メンバー。


 赤毛の少女だ。装備を見る限りローブ姿だから魔法使いなのだろうと想像する。


『ぺ』では、若干トリッキーで希少な存在だが、一切の接触プレイを避けて魔法だけでプレイするというプレイスタイルもあったりするのだ。


「はじめまして、よろしく」


 と、俺達はそれぞれに挨拶をするが、フレアは、ただ顔を見回すだけで一言も返さない。


「すこしばかり人見知りな人ですの。

 ですが、試合になればご活躍は期待していただいて構いませんわ」


 とのフォローに、


「シュート、撃つ、点、決める……」


 とだけ、フレアは俺達の顔も見ないで呟いた。


 オフェンスタイプってことか……。

 付き合いづらそうだけど、まあ他に人も居ないし、この5人で戦うしかないよな。


「で、監督? ポジションとか作戦とかは?」


 と、俺はゼヌアフさんに首を向ける。


「監督っちうな! コーチだコーチ!」


 とゼヌアフさんは否定する。


「まあ、どっちでもいいじゃない?」


 と投げかけつつ、俺はチームメイトのパラメータが見れるかどうかをチェックする。


 俺のステータスウィンドウはなんなく表示された。いつもどおりだ。


※※※※※※※※※※※※※※※

※ アッシュ・カヤーテル

※ レベル6

※ HP 75/55

※ MP 16/16

※ 体力 7

※ 筋力 7

※ 持久 6

※ 敏捷 8

※ 器用 9

※ 魔力 9

※ スキル:

※  太陽の加護

※  情報連携タイプD‐248:Lv1

※  火魔法:Lv1

※  風魔法:Lv1

※  (ファンタジスタ:Lv1)

※※※※※※※※※※※※※※※


 ってのが俺の現在のレベルとステータスで、新たに得たスキルが二つもある。


 情報連携ってのは、仲間、つまりはパーティメンバーとの以心伝心。相手の挙動がわかったり、位置がわかる。共感できて、通じ合える限定ニュータイプ能力のようなものだ。

 ルーナとセットで習得したスキルである。

【ファンタジスタ】というのは『ペ』でのみ有効なスキルで、突拍子もないプレイを思いついたり実行したりできるようになるという能力だ。ミスがミスにならなかったり、相手陣内にぽっかり空いたチャンスゾーンが可視化できたりとゲーム内では様々な恩恵があった。


 このふたつとレベルアップは地道に練習しているうちに身に着いたものである。


 ちなみにペのステータスはこんな感じ。


※※※※※※※※※※※※※※※

※ オフェンス  D

※ ディフェンス D

※ シュート   E

※ ドリブル   D

※ パス     D

※ カット    D

※ タックル   D

※ ブロック   D

※ パワー    E

※ スピード   D

※ スタミナ   E

※※※※※※※※※※※※※※※


 相変わらず寒いステータスだが、子供だから仕方ないよな。


 ルーナはレベル3になったがステータスはそう変わりばえしていない。

『ぺ』のステータスは、こんな感じだ。


※※※※※※※※※※※※※※※

※ ルーナ・カヤーテル

※ オフェンス  D

※ ディフェンス E

※ シュート   D

※ ドリブル   C

※ パス     D

※ カット    E

※ タックル   E

※ ブロック   E

※ パワー    E

※ スピード   D

※ スタミナ   E

※ スキル:

※  月の加護

※  風魔法:Lv1

※  情報連携タイプD‐248:Lv1

※※※※※※※※※※※※※※※


 この歳でドリブルがCなのは実は驚異的なのだとは思うが、見える化してしまうとどうしてもDやらEが多くて戦力不足が否めない。まあ、これは相手もこれぐらいのステータスだと考えるしかない。


 で、マーキュット、ユピタ、それからフレアのステータスもざっと目を通そうとステータスを開こうと試みたが、それは見ることができなかった。ついでに前には見れたはずのピジュさんのウィンドウも開かない。

 この辺の仕組みというかシステムがよくわからない。


 ともかく、作戦会議だ。


「アッシュさまには、お考えがおありでしょう?」


 と、口火を切ったのは、監督からコーチへの降格を自ら願ったゼヌアフさんに代ってマーキュットから監督代行を押し付けられたクラノさんである。


 そのクラノさんが、俺に丸投げをしたということになる。


「ええっと、そうですね。

 俺は、中盤で攻守の両方をバランスよく見るつもりなんで。

 変則ですが、2-1-2みたいなフォーメーションで考えてます」


「ほう、攻防両方に参加する中盤にひとり選手を置いて、あとは攻めと守りに二人ずつということですな」


「はい、で、オフェンシブなポジションなんですが……」


 と言いかけたところで、フレアが黙って手を挙げた。


「うん、フレアと……」


「わたくしも、攻撃がよいですの」


 とマーキュットが名乗りをあげる。


「攻め……? マーキュットも?」


「ええ、いけませんかしら?」


「だめってわけじゃないけど、マーキュットの武器って……」


「もちろん、これですわ!」


 とマーキュットが振り上げたのはフレイル。柄の付いた持ち手の先に鎖がつながりその先に鉄球が付いたモーニングスターの短い版というような武器である。


 どうにも繊細なボールコントロールには向いていない。


「元々、わたくしの得意とするのは鞭でしたのですけど、鞭ではボールをコントロールしにくいですので、わざわざこの日のために練習もしたのですよ」


 そうまで言われたら断りづらい。


 確かに何度か練習にも来てくれたし、なかなかに威力もあり使い勝手の良い武器だが、それはあくまでもディフェンスをする際や戦闘の時のことである。


 取り回しがしづらくシュートの精度は目も当てられないくらいだし、ドリブルにしてもたどたどしかったからまさか、攻め手に加わるとは思ってもいなかった。

 元々のプランでは、オフェンスの要にルーナを考えていたのだけど。


「ルーナとユピタは……、じゃあ護りでもいい?」


 ルーナが遠回しにごねてくれたら、それを理由にマーキュットに守備に回ってもらうつもりだったのだけれど、


「わたしは構いません」


「ボクもいいよ。おっかあと同じポジションだしね!」


 と二人は快くあっさりと了承してくださった。


 ってなわけで。


 前から、右フォワードが、マーキュット。

 左フォワードが、実力の定かではない魔術師のフレア。


 中盤の真ん中に俺がいて。


 左右のバックスにルーナとユピタという陣形となった。


 まあ、試合になれば流動的に動くんだし、ルーナもディフェンスはできる(はず)。

 ピジュさん譲りの才能を持つユピタが護りで活躍してくれたら、俺も守るし、どちらかというとカウンター狙いの守備に重きを置いたチームとして機能するはずである。


 チャンスになったらルーナに攻めさせてもいいし、フレアが前評判――マーキュット談――の実力を見せてくれたら、いい試合にはなりそうである。


 できれば、じゃなくって俺の『ぺ』道のためには勝たなければいけないのだけれど。


「じゃあ、ポジションはそういうことで。

 あとは相手の出方次第でこっちもそれに合わせて臨機応変に戦おう!」


 結局、相手のメンバーも明らかになっていないこの状況ではこれくらいが関の山なのである。


「そういえば、ちと小耳にはさんだのですが」


 とクラノさんが何やら神妙な面持ちで話し出した。


「相手のメンバーなんでございますが……」


「リグズレー以外の選手の特徴とかあるなら今のうちに聞かせて置いて欲しいですね」


 と俺は促す。


 リグズレーは正統派の剣士であり、地属性の魔法も多少は使えるということだけは聞いているがそれ以外の敵の情報は無いのだ。


 と、そこへ、相手の一団が入場してきた。


 なんの変哲もないお子様集団にしか見えないが……。さりとて、着ているものなどはお金持ちっぽいともいえなくもない。遠目にはそんな程度の情報しか得られない。


 それを見たクラノさんが顔をしかめる。


「やはり……、聞いていたとおりのようですな」


「どういうことですの?」


 とマーキュットが問いかける。


「あちらの選手。

 リグズレー様はともかくとして、それ以外のメンバーはおそらく種族的に言えばエルフなのでしょう。

 体格はお嬢様たちと同じようなものですが、年齢はかなり上かと。

 すなわち経験が違います。

 魔術を主として戦われるのなら少々厳しい試合になりそうかと……」


「そんな! 子供の試合に……」


 と言いかけたマーキュットさんだったが、ユピタの存在に思い至ったようで黙りこんでしまった。


 こちらも、10歳はとうに超えているユピタをチームメイトに加えてしまっている。

 オーバーエイジといえばオーバーエイジだし、その辺りの取り決めは曖昧に済ましてしまっている。ばれなかったらいいだろう? ってな安直な考えで。

 そもそもオリンピックでもあるまいし、オーバーエイジ枠なんて『ぺ』の草試合には無いのだし。


「おそらくは……」


 と渋々しくクラノさんが言う。


「こちらの情報が漏れたのでしょうな。

 ユピタ殿をメンバーとしていることが。

 であればあちらもエルフを出場させたとしても文句は言えませぬから」


 エルフは長寿で成長が遅く、だが、身体能力としては見た目年齢に比例し、魔力量も子供の頃から伸びるわけではない。


 そもそものアンサガのゲームではエルフ種は、成人後の年齢層であり――余談だが『のじゃー』キャラが多かったが、ロリではないので微妙な感じ――、子供エルフについての設定は結構適当だったはずだがなんとなくそんな感じだったはずだ。


 が、現実を考えると魔力量と体力は子供でも、培った経験はその何倍、あるいは何十倍も――純粋なエルフであれば――あるのだ。


 今後、俺達がこの訓練場でぺの練習ができるかどうかが賭かっているという大事な試合に。


 よりにもよって、そんなメンバーで乗り込んでくるとは。


 リグズレーの奴、相当なやる気、負けん気のようだ。


 

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