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19.それはそれとて準備をしよう


「コホンっ!」


 とクラノさんが咳払い。


 多少ヒートアップしつつあった自分に気付いたのか、リグズレーもマーキュットさんもきまり悪そうな表情を浮かべ黙り込んだ。


「リグズレー様。

 本日はあまりお時間がないのでは?」


 とクラノがリグズレーに真なる要件を促す。


「ああ、そうだね。

 今日は近くに寄ったから挨拶に立ち寄らせて貰っただけなんだ。

 ああ、つまらないものだけど」


 と、持っていた花束をマーキュットに差し出す。

 まあ大した用事もなかったようだ。ご機嫌伺いというところだろう。

 こまめさは恋愛にとって非常に重要だが。


「まあ、綺麗! ありがとうございます」


 と、マーキュットさんも平常運転というか、貴族令嬢としての振る舞いで応じる。


「クラノ、あとで部屋に飾って置いてくださる?」


「はい、お嬢様」


 と、まあ一応表面上は取り繕ったところで。


「じゃあ、僕はこれで」


 と、リグズレーが退去を申し出る。俺達の存在に居心地の悪さを感じたのだろう。


「わざわざありがとうございました」


 と、マーキュットさんが立ち上がり、見送りに向う。

 クラノさんもそれに続く。


 俺達は、一応立って礼はしたが、そのまま部屋に残った。


「はあ」


 と、ため息。


 人当たりもよくて、なんとなく好意ももってくれてるマーキュットさんはまだしも、いけすかない貴族の若造の相手は疲れた。

 例えごくごく短時間であっても。


「試合できたらいいですのにね」


 ところがルーナはそんなことを言う。


「え~、あいつと?

 やりにくそうだなあ」


「でも、この街ではチームの5人を集めるだけでも大変ですわ。

 ましてや、子供であるわたしたちと試合をしてくださるような方がいるともおもえません」


「まあ、そうなんだけど。

 防具が出来て、魔術もちゃんと使えるようになったら、ゼヌアフさんとか、ピジュさんとかが相手してくれるかなって思ってるんだけど」


「それでもいいですが……。

 折角ですから、出来れば同年代のプレイヤーと試合して力を試してみたくありません?」


「まあ、ないことはないかな?」


 と、そんな話をしていると。


「お待たせいたしました」


 と、マーキュットさんが帰って来た。


 で、開口一番ならぬ、開口二番で。


「試合が決まりましたわよ!」


 と。


「えっ? どういうこと」


「リグズレー様からの申し入れです。

 10歳ぐらいまでの子供でチームを作り、きちんとしたルールの元で試合をすることになりました」


 まじで?


「といっても、ひと月ほど先の話になりますけど」


「相手のチームは?」


「リグズレー様が集めるようですわ。

 首都であるグリーブラットと我が街、アルセレアの対抗戦ということになりそうです」


「アルセレアでチームを作るったって……」


 まあ、直接試合を申し込んだのはリグズレーがマーキュットさんに対してではあるが、挑まれたのは俺だろうな。

 で、ルーナも出ると言うだろう。さっきも試合がしたそうだった。同年代と。


 で? あとはどうする?


「ご心配なく、アッシュさんと、ルーナちゃん、それにわたくしを入れてすでに3人。

 後二人には心当たりがございますから」


 ああ、そう。


「防具は、ピジュさんの工房で頼んでいるのでしょう?」


「まあね。一月ひとつきもあればそのうちには出来上がってると思うけど……」


 防具の問題はまあなんとでもなる。最悪とってつけたようなものでも試合には出れるから。

 魔法もなんとか目途が付きそうだ。

 クラノさん曰く、きっかけさえつかめば個人練習で事足りるようだから。


 問題はチームの連携か?


 そもそも、子供の少ないこの街で。ぺのプレイヤー候補なんてほんとうに後二人いるのだろうか?


「では、折角ですから、魔術習得の続きをいたしましょうか?

 ぺぉいくjhygtfれwsくぁにおいても非常に重要な戦術のひとつですからな」


 とクラノさんがまた張り切りモードに復帰する。


 とはいえ、地味な行為だった。


 ひたすらに、炎を出したり消したり。それを飛ばしたり。

 ルーナのほうは風属性で同じようなことを。


 一度コツを掴んでしまえば簡単なことである。


 俺はその日のうちに火属性とついでに風属性の魔術の基礎を。

 ルーナは風属性の応用までを。


 あっさりと習得してしまった。






「聞いたぜ? ヴァンファーレ侯のガキと試合するんだってな?」


 練習場に着くなり、ゼヌアフさんが寄ってくる。早耳だ。


「まあ、成り行きで……」


 というか、どこで仕入れた情報なんだろう?


「そうか、だが厄介なことになっちまったな」


「えっ? どういうことですか?」


「なんだ? 聞いてないのか?」


「ヴァンファーレ候が文句を付けてきたようでな。

 うちの訓練場だよ。

 知ってのとおり、この街は魔境と接する最前線といっても過言じゃねえ。

 冒険者の育成には、公的な資金……わかるか? いわゆる税金って奴だ。

 それが国からも支払われているんだ。

 いわば、俺達冒険者といえども、気楽な商売じゃねえ。

 国に仕える身分みたいなもんだ。

 だがな、視察と称してふらりと立ち寄った侯爵のドラ息子が親父にたれこんだらしい」

 たれこみ? リグズレーが?


「ここの冒険者は訓練もせずに『ぺぉいくjhygtfれdwsくぁ』で遊んでるってな。

 まあ、たまたまだが。確かにぺぉいくjhygtfれわqに興じていたのは確かだ。

 しかし、練習もかっきりやってる。

 が、おかみの連中はそうは見ねえ。

 ここに元試合コートだった時の名残でゴールボードがあるのが元凶だってな。

 遊びにうつつをぬかして訓練をかまけていると映っちまったらしい。

 近々取り壊しになるらしいぜ。あのゴールボード」


 ゼヌアフさんは視線でゴールの方角を指す。


「ほんとですか!?」


 手痛い情報だ。

 せっかく、見つけた練習場だというのに。あのガキ。裏でそんな嫌がらせを?


「というわけで、頑張れよ!」


「というわけ?」


「ああ、今度の試合の勝敗いかんでは、取り壊しはお流れっていうこともあるって聞いた。

 教官からの又聞きだがな。

 勝てば、現状維持。負ければ取り壊しってことだ」


 リグズレーの奴ってば。どこまでヘイトを溜めこめば気が済むってんだ?


「でもなんでまたそんな救済措置がとられたんですかね?」


「そこはあれだよ。うちの名領主がいるじゃねえか。

 アミファード伯はさすがにわかってくれてるよ。

 俺達が遊んでるわけじゃねえってな。

 ちゃんと魔物の討伐にも出かけてるし、訓練だってさぼっちゃいねえ。

 それどころか、ぺぉいうjhygtfれdwsくぁのおかげで普段パーティを組んでない相手との連携なんかが上手くいってな。

 いい効果が出始めているくらいだ。

 その辺りのことを具申してくれたわけだ。わざわざ憎まれるのを覚悟の上でな」


 ああ、マーキュットの親父さんか。

 おかげでなんとか首の皮一枚繋がったということなんだろう。

 で、多分その裏ではマーキュットさんが手を回してくれたりしてるんだろうな。

 あと、クラノさんとか。


「で、もちろん簡単に負ける気はないよな?」


「ええ、そりゃあね」


「というわけで、特訓だ。

 アッシュと、ルーナのお嬢ちゃん。

 それから、マーキュットお嬢が、集めたメンバーに短い期間でだが、ぺぉいうjhygtfれdwさqの基本を叩き込んでやる」


「ゼヌアフさんが?」


「俺だけじゃねえよ。経験があって、手の空いてる奴はみんなさ」


「あたしも、忙しい身だけどな」


 背後からの声に振り向くと、ピジュさんの大きな体があった。

 いつものように反り気味で仁王立ち。

 今日は鎧を着ていないので、大きな胸がこれでもかといわんばかりにはちきれそうに強調されている。


 その背後から、


「ええと、アッシュとルーナちゃん。

 よろしくね」


 と、確かピジュさんの娘さんのユピタだったっけ?

 ちょこんと立っている。


「娘のユピタだ。

 こう見えていい年なんだが、なんせ四分の一とはいえエルフの血を引いているからな。

 見た目はアッシュたちと同年代だろう?

 こっそり混ざればばれないだろうからって、試合に出ることになった」


「一緒にプレイしてくれるってことですか?」


「うん、だからボクはよろしくって言った」


 と、ユピタは腕を差し出してくる。

 ルーナと握手を交わし、そして俺の番。


「おっかあほどは上手くないけどね。

 精一杯頑張るよ」


「あとは、マーキュットの御嬢さんと、もうひとりなんだが。

 あれでも御嬢さんは忙しい身だからな。

 練習に出れる機会は少ないだろうな」


 まあ、メンバーを手配してくれてとそれ以前にもいろいろ動いてくれているようだし。

 それだけでも十分といえば十分。

 そもそもマーキュットさんが居なければ、練習用のゴールボードの取り壊しも、試合の話も起きなかったのではないか? ということはさておき。


「じゃあ、あともうひとりは?」


 と俺は聞く。そう、まだメンバーは4人しか確定していない。


「そいつは俺も聞いてねえが責任もって連れてくるって話だ」


「誰がですか?」


「そりゃあ、マーキュットの御嬢さんがだろうよ。

 なんせ、言いだしっぺなんだろう?」


「はい……そうですね」


「ユピタもあたいの仕事の手伝いがあるからな。

 そうそうは練習にはこれないが、時間が取れる限りはあたしともども参加させてもらうよ」






 とまあ、急展開で着々と準備が進む。


 クラノさんに師事し、やりかけだった魔術を初級レベルまで引き上げてもらい。

 ピジュさんのところで防具を受け取り。


 ルーナとともに訓練場で汗を流す。

 冒険者のおじさんたちにこっぴどくしぼられながら。


 一対一、二対一でのボールの奪い合い。

 シュート練習、パス練習。などなど。


 魔術を如何に上手く、そして効率よく使用するか? ってなことまで。


 まあ、俺はアンサガ時代に、ぺはそこそこやり込んだから基本的なことはおさらいという感じだったし、ルーナはルーナで母さんから貰った教本で熱心に学んでいたから問題はなく。


 あるといえば、母親似で、地力はあるが不器用なユピタに多少の問題があったということぐらい。とはいえ、実年齢は俺達よりもかなり上である。

 あまり練習には参加できなくとも、それなりに技術、知識を向上させているようでもあった。




 あっという間の一ヵ月。


 俺もルーナも著しく成長した。ユピタもそこそこではあるが戦力と数えられるようにはなった。


 懸念事項といえば、ユピタはともかくマーキュットさんはほとんど練習には来なかったということ。

 それに加えて5人目のメンバーとの顔合わせすら済んでいないこと。

 

 だが、時は来てしまった。

 交流試合とはいえ、本ちゃんの試合である。


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