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15.地味な練習を繰り広げよう


 ぺの練習試合やって、ピジュさんの工房に行ってとなんやかんやあってからの数日後。


 なし崩し的に、旧ペの練習場所兼試合会場、現冒険者訓練場の使用許可が下りたので、俺とルーナは、そこで『ぺ』なんとかの練習をさせてもらっている。

 端っこのほうで細々とではあるのだけれど。


 余談ではあるが、ペの発音について多少なりとも不自由を感じている俺は出来る限りありのままな発声を日々練習しているが、ようやく口に出せるのは、


『ぺぉいkあwせdrftgyふじk』であり、本来の発音とは似ても似つかないようで、それならばまだ『ぺの奴』とかいうほうが通じやすいといった状況だ。


 何故俺だけ、発音できないのだろう。呪いか?


 閑話休題。


 で、一応訓練場にお邪魔はさせて貰っているのだが、俺達は結構二人きりで細々と練習していることが多い。

 河原でやっているような、1対1でのボールの取り合い(危険な行為は除く)やパス回し、それからようやくできるようになったシュート練習などだ。

 俺のシュートはやはり精度が悪く、ほぼほぼ的を外すが、ゴール裏にはネットがあるので思う存分練習できてありがたい。


 冒険者さん達は、冒険者の訓練の合間にペを和気藹々とプレイして愉しんだりしている。俺達は参加させて貰えないので、生殺し状態でもある。


 それというのも、身体能力的なものも大きいが――子供と大人では、ぺの正式なルールにのっとれば、試合にも練習にもならない――、大人たちはちゃんとしたルールで真面目にぺを愉しんでいるので俺達の入り込む余地がなくってそっちのけ。


 あと、俺もルーナも防具も付けていない丸腰だから――試合の時にピジュさんから借りていた手甲は返してしまっている――、激しいゲームには参加できないという事情もあったりなんかする。


 そんな中でもゼヌアフさんなんかは、訓練の合間を縫って、あるいはぺで汗を流した後なんかにちょいちょい声を掛けてくれる。


「おう、坊主。手合せしてやるよ。

 かかってきな!」


 などと、気まぐれにやってきては、俺の蹴り技の練習台に甘んじてくれたりするのだ。


 ゼヌアフさんの武器は刃引きの剣。

 俺は完全無欠に丸腰だ。


「わかっていると思うが、ぺぉいgtfれdwさqでは相手にダメージを与えられない限り、そう簡単にディフェンスを抜き去ることなんてできないぜ」


「知ってますよ!」


 言いながら、俺はゼヌアフさんの横っ腹にハイ気味のミドルキックを放つ。


 が、そんな攻撃は、剣で簡単にあしらわれる。


「ほら、今のだって。

 俺が本気だったら、蹴りを受け止めるどころか、足を切断されてても文句は言えないぜ」


「そういわれましてもねえ……」


 実際のところ、いくら刃引きといえども、剣と俺の足がぶつかれば、軍配は刃引きの剣にあがる。


 俺の足にはしたたかなダメージが与えられるのだった。

 とはいえ、まれにゼヌアフさんが手を抜いて防御せずに俺の蹴りを食らってくれるが、それでも、鎧対生足では分が悪く、俺の両足には青痣が絶えない。


 受け止められたら痛い、クリーンヒットしても痛い。

 苦行以外の何者でもなかった。


「今日のところはこれくらいにしといてやるよ。

 まあ、成果としちゃあ、足技が多彩になってきたってことぐらいか」


 確かに。サッカー馬鹿で人を蹴る練習なんかはしてこなかった俺だが、ボレーの応用でのミドルキックのバリエーションとかが増え始めている。


「あと、理不尽な痛みに耐える根性が身に着きましたよ!!」


「そりゃそうだ。

 まあ、専用の防具が手に入るまでの辛抱だ。

 姉御が作ってくれてるんだろ?」


「まあ、そうですね。

 だけど、気合入れすぎて、まだ完成の目途は立ってないみたいです」


「気長に待つんだな。

 それまでは、辛いだろうが今までどおりの練習だ」


 そんな感じの練習風景である。




「兄様、お疲れ様です」


 ルーナが俺にタオルを差し出してくれた。

 あと、家から持って来た――母さんが差し入れてくれた――氷水で足を冷やしてくれる。


「真っ青ですわね」


 ルーナが俺の足の青痣を見て嘆息する。


「そりゃあね。剣を蹴っても鎧を蹴ってもダメージ食らうのはこっちだもん。

 なんだかなあって感じだよ」


「それでも何か得ているものもあるのでしょう?」


「まあね。剣を相手に足でどう攻撃するのか?

 どんなタイミングであれば相手の隙を狙えるのか。

 そんなのはちょっとずつわかり始めた気がする。

 あとは、小盾を組み込んだ手甲があったら、ゼヌアフさんにも攻撃してもらって防御の練習もできるんだけど。

 俺もルーナみたいに剣にしとけばよかったかなあ……」


 ルーナはルーナで可愛い幼女だということもあって、訓練場のマスコット? いやさ人気者になりつつあった。


 日替わりでいろんな冒険者さんに稽古を付けて貰っているのだ。

 剣同士であれば、つばぜり合いもできるし、相手がか弱い女の子だから攻撃はもちろんのこと寸止めだ。

 少女の柔肌には傷一つない。

 そんな楽な修行であっても俺よりもよっぽど早い速度で、剣士としての地力を身に付けつつある。


「あとは魔法だよなあ」


「そうですわね。お父様が早く帰ってきてくれたらよいのですけど」


 俺達の暫定の魔法の師匠は母さんである。が、店があるのでまだ何も教えて貰ってはいない。そんな時間が捻出できないというやむをえない事情がある。


 訓練場に来ている冒険者の中にも魔術が使える人は何人かいるが、初級ぐらいしか使えない人がほとんどで、それほどの技量を備えているわけでもなく、また、魔法の修行は時間と根気が必要だというのもあって。

 あと、変な癖をつけてしまっても悪いからという事情が絡み合い、俺達に魔法まで教えてくれる物好きは今のところはまだ名乗りを上げていないのであった。


 まあ、魔術の問題も防具の問題も時が解決してくれる系統のものなので焦る必要はない。


 目下のところ、俺が不安視しているのは、『スキル』についてである。

 今のところ溜まっているスキルポイントは10ポイント。

 レベルが1上がれば5ポイント程度のスキルポイントが手に入る。こないだの練習試合でのレベルアップで得たポイントである。


 多彩な選択肢の中から好きなスキルを自由に取得できるシステムであれば、俺も『格闘術』なんかを手に入れて蹴り技を向上させたりできるし、魔術だって簡単に覚えられるはずだ。

 だが、アンサガのシステムはそうなっていない。


 初期スキル(Lv1)を手に入れるためにはなんらかのきっかけが必要なのだ。

 一旦スキルを手に入れてしまえば、スキルのレベルアップはポイントを消費して実行が可能だ。さらに言えばある程度レベルを上げると上位スキルや派生スキルも候補に出てきて手に入ったりする。


 が、Lv1のスキルを手に入れるには、なんらかのイベントをこなさなければならない。


 つまりは、今のところユニークスキルでレベルとかの概念がない『太陽の加護』は置いておくとして、それ以外のスキルを手に入れるなんらかの行動や修行を行わなければならないっていうのが俺の置かれている立場。


 ルーナはなんだかんだで【剣術:Lv1】を取得してしまっているようだから、やはり誰かに師事するなりなんなりで基本的な技術を実際に身に付けるところからスキルの習得っていうのが始まっていくんだろう。


 魔術はなんとなく――母さんから教わると言う――目途が付いているものの。

 蹴り技の師匠なんてこの世界に居るのだろうか? 居たとして出会えるのであろうか? それはいつであろうか?


 というのが、目下のところの懸念事項である。


 いくらサッカー経験があって足技に自信があっても、『ぺ』で、つまりは対人格闘技術として使用できないのであれば、ほぼほぼ意味を為さない技術になってしまうだろう。


 うーん、悩みどころだ。


「兄様、今日のところは練習これくらいで切り上げようと思っておりますが」


 考え込んでいた俺にルーナが控えめな声を掛ける。


「ああ、そうだね」


 練習っていうのは結構体力を使う。

 体力は、怪我でもしてない限りは自然回復するのだが、子供で体力の少ない俺達は午前中の練習をするだけで結構疲労が溜まる。

 ゲーム内ではスタミナグラフとして表示されていた項目だが、この世界では不可視である。が、内部的にそういったパラメータも存在していてもおかしくはない。

 スタミナが切れると様々な障害、不都合が生じかねないので、あまり無理もせずというのが、今のところの練習での方針でもあったりする。


「そういえば、マーキュットさんのところに誘われてるんだっけ?」


 最近もルーナは結構な頻度で


「ええ、よろしければ兄様も一緒にいかがですか?」


「勝手に行って迷惑じゃないかなあ?」


「最近、マーキュットさんもぺぉいくjhygtfれwくぁに興味を持ち始めたようで、兄様のお話も聞きたいと申されておりましたので、喜んでくださると思いますわ」


「そう? じゃあ、行ってみようかな」


「是非に」


 そんなわけで、今日の練習は切り上げて、マーキュットさんの家に遊びに行くことになった。

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