14.装備をそろえよう
昨日の試合から一夜明けての今日。
ルーナと二人で街を歩いている。今日の行先は河原でも訓練場ではなく、かといって洒落たカフェにでも突入するのでもなく、他に目的地があった。動機は純粋だ。
ピジュさんが、俺達のための防具を見繕ってくれるというのだ。
ピジュさんの本業は鍛冶師らしい。魔物が出れば戦うが、本業は鍛冶師らしいのだ。大剣の使い手だが、鍛冶師なのだ。
それはそうと、昨日行った10分ハーフの練習試合。練習だったのかなんだったのかは置いておいて。出たのは前半だけだが。
朝起きてステータスを確認すると驚くべきことが起きていた。
現状の俺のステータスがこうである。
※※※※※※※※※※※※※※※
※ アッシュ・カヤーテル
※
※ レベル3
※ HP 55/55
※ MP 6/6
※ 体力 5
※ 筋力 5
※ 持久 4
※ 敏捷 6
※ 器用 6
※ 魔力 5
※
※ スキル:太陽の加護
※※※※※※※※※※※※※※※
試合の影響でレベルが上がっている。ふたつもである。
しかもパラメータ爆上がりである。
スキルの『太陽の加護』の力で全能力が向上しているから、実際にはもう少し地力は低いのだろうがそれを含めた結果としてのこの数値である。
たった10分ほどの試合で相当な経験値が得られて各パラメータが上昇したようだ。
これも『太陽の加護』の取得経験値上昇補正の効果だろう。
ゲームでは、『ぺ』がプレイできるようになるのはゲーム中盤の少し前といったところだ。
その頃にはそれなりのレベルに育ってしまっているから、試合で経験値が得られたとしても微々たるものにしかならない。レベルが上がるなんてこともほぼほぼなければ、試合だけでレベルを上げていくなんて馬鹿馬鹿しくて誰もやらない。それくらいの微量経験値のはずだった。
が、レベル1の状態で考えたら一気に二つもレベルが上がるほどの経験値が手に入るということになるようだ。序盤戦においてはかなりの高効率だ。
ちなみに、パラメータの数値でいえば。
冒険者としてやってくには、だいたい各パラメータが10を超えた出すぐらいが実戦で通用し始める目途となる。
アンサガ(アンエターナル・サーガ)の序盤のゲームバランスは多少いびつで、レベル1とか2ぐらいだと、最弱のグリーンジェリーなんかを数匹倒しては回復のために始めの村に戻るなんてことを繰り返す必要があった。
もしくはポーションを買い込んでもう少し粘るか。
なかなか面倒なレベル上げ作業が必要で、レベル10くらいまではお使いクエストも満足に受けられないような感じだったのだ。
で、レベル10くらいになれば、冒険者としてようやく駆け出し。その頃には各パラメータも育っている。
ギルドランクでいえば『F』というようやく登録できたばかりのランクだが、戦闘ありきのクエストが受けられるぐらい。
弱い魔物しかいない地域なら半日くらいは戦って帰ってこれる程度の強さになる。
ちなみに、レベル15くらいで上手くいけばランクE。初級者。
レベル20くらいがランキDに上がってごく普通のありきたりな冒険者として認められる目安だ。
さすがに、そこまで――ギルドでクエストを受けられるほど――の力は身に付いていないが、6歳児にしては驚異的ともいえる能力を持ってしまっている。今の段階、現時点で。
さらに言えばある程度までは試合をこなせばこの先も経験値が手に入って徐々にではあるがレベルが上がっていくのだろう。希望的でもなんでもない観測だ。
ちょっとこの先の成長具合がやばい。気もしないでもない。
実力を隠して地道に練習を積むべきか。
それとも、ありの~ままに~♪ 力を惜しまずに発揮して神童とでも謳われるような活躍を見せるべきなのか。
そうそうに決めないといけないっぽい。
ちなみにルーナもレベルが一つ上がっていた。
ルーナの方はまだまだぎりぎり年齢相応とも言えるパラメータであるが、この先もどんどんレベルが上がっていくのなら、いずれ注目を集めてしまうこと請け合いである。
※※※※※※※※※※※※※※※
※ ルーナ・カヤーテル
※
※ レベル2
※ HP 35/35
※ MP 5/5
※ 体力 2
※ 筋力 2
※ 持久 2
※ 敏捷 3
※ 器用 4
※ 魔力 2
※
※ オフェンス D
※ ディフェンス E
※ シュート D
※ ドリブル E
※ パス E
※ カット E
※ タックル E
※ ブロック E
※
※スキル:月の加護
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『ぺ』のステータスは俺もルーナも相変わらず寒い。
ルーナはシュートがDに上がり、Dがふたつになったが、俺の方はドリブルだけがDであとはEのままである。
冒険者としては成長著しいが『ぺ』のプレイヤーとしてはなんだかなあの端にも棒にもかからない状態なのは、正式ルールで対応できるだけの力が無いってことなんだろう。
あとスキルポイントも10ほど手に入ったが今のところは保留中。ポイントを消費しないで見に付くスキルがあるならそうしたいし、あまり焦って歳不相応のスキルを得ても使用機会がむずいって理由で。
ともかく、ルーナと俺とでピジュさんのやっている工房を目指して歩いている。
明日にでも来いと言われて断わる理由もその勇気も無かったし。
「そういえば、なんでピジュさんって姉御なんて呼ばれてるんだろう?」
なんとなく疑問に思っていたことをルーナに投げかけた。
答えが得られるとは思っていなくて単なる世間話のつもりだった。
「ピジュさんは鍛冶師ですけど、冒険者登録もしていて、魔物相手に壁役としてとてもとてもご活躍されているようですわ」
「へえ。それで尊敬されているのか」
「あと、年齢的なものもあるでしょうけど」
「歳? でも、ピジュさんってどっちかというと若いほうだよね?」
女性の年齢について聞くのは本来であればマナー違反なのだろうけど、まあ俺は今は子供だし、相手がルーナだしで軽くそんなことを聞いてみる。
教官なんかも姉御って呼んでいたが、教官のほうがどうみても歳をとっている。禿げてはいないが。
「見た目はそうですけど。
ピジュさんはハーフエルフらしいですので。
ああ見えてかなりの年齢だということを聞きました」
何時の間に聞いたのか? それとも元々知っていたのかはともかく、ハーフエルフってそういうことか。
この国には珍しいけどこの世界はいろんな種族がいるんだったってことをすっかり忘れていた。エルフしかり、ドワーフしかり。珍しいところでは竜人なんてのも居る。多分いる。
エルフといえば、お約束のごとく長寿で成長も老化も遅い。
ハーフとはいえ、その恩恵を受けているってことか。
巨乳で鍛冶師――お約束ならドワーフの領分――ってのがエルフのイメージとそぐわないが、俺が気にすることじゃない。
「何歳ぐらいなんだろうなあ」
「兄様、それ、本人の前ではお聞きにならないでくださいましね」
「ああ、そうだね。肝に銘じておくよ」
なんてことを話していると、ピジュさんのやっている工房が見えてきた。
「ごめんくださいまし」
こういう時に躊躇なく先陣を切るのはルーナの役目だったりする。
俺は陰に隠れてルーナの後をついていくだけだったりする。
「はいはーい。なんの御用ですか?」
応対してくれたのは、俺達とそんなに歳も変わらないような女の子だった。
「昨日、ピジュさんとお約束してまして」
「ああ、おっかあのお客さんね」
姉御どころか、子持ちなのか。ってことはこの女の子もエルフのクォーターかな。
見た目どおりの歳じゃないかもしれないからちょっと気を遣うべきかも。
「呼んでくるよ、ちょっと待ってて」
そういうと女の子は奥に引っ込んだ。
その間に店内を見渡す。
剣、斧、短剣。ハンマーから。槍もあれば、こん棒やモーニングスターも。武器だけでも山盛りで。それだけじゃなく各種鎧に兜に籠手にブーツみたいなのまで。
なんでもござれのかなり幅広い品ぞろえの店のようだ。
「おう、ちょうど一仕事終わったところだ」
短パンにタンクトップシャツ一枚、頭にはタオルでねじり鉢巻きというラフな格好でピジュさんが出てきた。巨乳だからゆるそうなタンクトップだけど脇は甘くない。
「いえ、こちらこそ仕事中にお邪魔しまして」
ルーナが丁寧に頭を下げる。
「じゃあ、早速始めようか」
ピジュさんは腰に下げたメジャーを持って近寄ってきた。
「レディーファーストでな。アッシュは少し待ってろ。
はい、腕あげて。足をもう少し開こうか」
そう言いながら、ピジュさんはルーナの体をどんどんと計測していく。
「えっと、そんなに細かく測るんですか?」
「そりゃそうだ。オーダーメイドの鎧を作るときは体にフィットしたものを作るためにな」
確かにピジュさんには俺達の防具を見繕ってくれるという話を聞いていた。
だけど、不良品とか中古品とか、そんなのを手直ししたり、軽く改造するぐらいだろうって考えていたのが、オーダーメイド?
「もちろん、こっちで勝手に作るわけじゃない。
お前らの好みに合わせた防具にするさ。
それでも、手足はもとよりいろんな箇所のサイズがわかっているにこしたことはない」
次々と計測しながらメモに書き込むピジュさん。
やがてルーナの計測を終えて、俺の番。
為されるがままに、様々な箇所――脇の下から股間に近い所まで――にメジャーを当てられる。
「で?」
俺の分の計測も終えて、ピジュさんとともに事務所のようなところで椅子に腰を下ろした。
「粗茶ですが」
ピジュさんの娘さんが、お茶を出してくれた。
「こいつは、ユピタ。
あたしの可愛い一人娘でな。もっとも、こう見えてもお前らの倍は生きてるよ」
やっぱりかなりの高齢だった。まあまだまだ10代なんだろうから若いけど。
「ありがとうございます」
ほんのり香る、ハーブティーに口を付けて、いざ作戦会議、もとい制作受注相談が始まる。
「僕は防御力よりは、動きやすさを重視して欲しいと思ってます」
「となると、軽鎧か……」
「軽鎧でもいいんですけど……。
どっちかというとポイントアーマーみたいなのにしてもらうおうかと思ってるんですけど。
それより僕たちお金ないんですけど大丈夫ですか?」
「ああ、子供から金なんてとる気ないよ。趣味みたいなもんさ。
……ポイントアーマーなあ。ぺぉいくjhygtfれdwさqでは少数派だぞ?」
「でも、僕のプレイスタイルからしたら、やっぱり重いのってすごくデメリットになると思うんですよ」
「軽鎧でも素材次第ではそこそこの防御力と動きやすさを両立できるっちゃできるけどな」
「う~ん」
しばし悩む。
俺が描いている将来像は、ドリブルで相手を躱し、敵と対峙した時には蹴り倒すというプレイヤーである。あと魔術に長けていること希望。それは希望でしかないが。
それも倒し切るのではなく、一瞬動きを封じれたらそれでいいくらいの考えだ。その隙に相手を躱してどんどんと前に斬り込むようなプレイである。
だから、実のところ防御力はあんまりあてにしていない。軽鎧でも十分すぎる。
『ぺ』のルール敵の武器を防具で防ぐ分には構わない。盾を使用してもいいくらいなのだ。(実際には動きにくさと鎧でも十分なために盾の使用者は少ないが)
敵の剣なり槍なりを防ぐために多少大きめの――それこそ盾として使用するようなイメージの籠手というか手甲で攻撃を凌ぎつつ機会を見て蹴りを入れる。
そんな戦略で試してみてもいいかな。と漠然と思っていた。
そんな曖昧とも言えるイメージをたどたどしく伝えたがピジュさんはなんとなく受け取って理解してくれた。
「なるほどな。蹴り技で戦うんだから、腕は防御の手段として専念できるわけか。
ってことは、受け流すことも視野に入れた手甲と最低限の急所を護るポイントアーマーってのも悪くはないかもな……」
って感じで俺の装備はなんとなく形が見えてきた。
もちろん足には、動きやすさと攻撃力も兼ね備えた固い甲冑靴を発注する。
ルーナは全身くまなく覆うタイプの軽鎧を試してみるらしい。
元々は俺と同じようなポイントアーマーっていうのを聞いていたようだが、ピジュさんの説明で軽い素材というのに興味が引かれたようだった。
まだ制作に取り掛かっても居ないが、ぺの必需品である防具一式が格安どころか無料で手に入るという幸運に恵まれた。
どんどん後戻りができなくなっていくな……。
まあいいさ、俺は『ぺ』なんとかでなりあがるんだ!
俺の『ぺ』道はここからだ!
ご愛読ありがとうございました!
ではなくて、数日真面目に盆休みなので更新お休みすると思います。予定は未定。