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13.試合を観戦しよう


「ナイスシュート!! いてッ!」


 なんとか立ち上がり、ルーナとハイタッチを交す。

 斧がぶつかった衝撃で足を痛めたようだった。

 が、転生後初試合、初ゴールだ。俺が決めたわけじゃないが、嬉しさが痛みを忘れさせる……。……ような気もしないでもない。


「初めてのシュートでど真ん中ってすごいじゃないか。

 シュート練習もろくにしてないのに!!」


「兄様のパスが良かったおかげですわ。それにディフェンスも引きつけておいてくれましたし」


 ルーナは謙遜交じりにそんなことを言う。確かに楽な場面ではあった。

 が、初めての試合で始めてのシュートを綺麗に決めきる技術、度胸、そして決定力は見習いたいほどだ。


「それより、兄様。

 足の方は大丈夫ですか?」


「ああ、うん……」


 今は左足に重心をかけているからそれほどでもないけど……。

 試しにちょっと、右足に体重を乗せてみる。恐々だからほんとにそおっとだ。


「痛たたた……」


 げっ、ちょっとプレイどころでないというか歩くのもつらいかも。


「どうした? どこか痛めたのか?」


「ピジュさん。兄様が足を痛めたようで」


「ちょっと見せて見ろ」


 言われるままに俺はゆっくりと座ってピジュさんに足を診てもらう。


 ひねったりなでたり、若干乱暴な扱いも受けて苦痛を漏らすが、男のだから泣かないのだ。


「まあ、骨には異常はなさそうだ」


 ピジュさんに医術の心得があるのかどうかはわからないが、それを聞いて安心する。

 ひねったり筋を痛めたわけでもないから、単純に打撲の延長だろう。


「おい、知ってると思うが試合中の治療は反則だぞ」


 斧のおっさんが、なにやら声を掛けてくる。物言いというか警告口調だ。


 ふとみると、プレイヤーだけではなく訓練場に居た冒険者のほとんどが集まっているようだった。

 さすがに、試合と関係ない人達は遠巻きにだけど。


「どうですか? 続けられそうなんですか?」


 教官が俺ではなくピジュさんに聞く。


「まあ、無理だな。それにこんな試合で無茶をすることもない。

 誰か、回復魔法の使える奴いるだろう、治してやってくれ」


 ピジュさんは決定事項のように言うが……。さっき、斧のおっさんから指摘もあったとおり、試合中の治療行為、特に魔法での回復はルール違反である。


 ルールに従えば試合中の怪我はそのまま引きずったままプレイし続けなければならない。ペは過酷な競技なのだ。

 さもなくば、選手交代ということになる。


「交代……ですか?」


 俺の問いに、


「馬鹿言うな。お前の代わりにプレイする奴なんているかよ!」


 と外野から声が入る。


 そりゃそうだ。物好きなピジュさんが、加わってくれたとはいえそれはほんとに僥倖であり、それ以外に俺達の賛同者ってのの存在確率は絶望的だ。


「まあ、そもそもが茶番だったんだ。

 ガキが勝手に怪我したんだから、これで試合は終了ってことでいいじゃねえか。

 引き分けだから試合自体が無かったことになるがな」


 斧のおっさんが、自分の行為を棚に上げて宣言する。

 まあ、故意じゃないだろうし、俺の方から――ついでに言うとピジュさんからも――は目を逸らしつつ言ったのだから、怪我をさせて悪いとは多少なりとも思っているようだ。


「さっさと怪我を直してもらっておうちに帰りな」


 なんて吐き捨てるように呟く。


「くっそ、ここまでか……」


 悔しさが漏れる。


「待ってください。兄様がプレイできなくてもまだこっちにはわたしとピジュさんが居ます。試合の継続は可能です」


「なんだあ? まだこんな茶番を続けようってのか?」


 ルーナはつっかかるおっさんを無視して、


「ピジュさん、お付き合いいただいてよろしいですか?」


 と、あくまで試合継続を望む。


「ああ、あたしは構わんが……」


 そんな中に割って入ってきたのは、剣士風の冒険者だ。相手チームの主力プレイヤーだった名もなきおっさん――とお兄さんの中間ぐらいの年齢?――だ。


「確かに茶番だな」


「だろう?」


 と斧のおっさんは我が意得たりとみてうんうんと大げさに頷いた。


 それに構わず剣士は言う。


「そもそもが、接触プレイ禁止なんていうルールがおかしい。

 ぺぉいうjhygtfれdwsくぁは、もっとハードでシビアな競技だ。

 こんな甘っちょろい競技でも、ましてやガキのおもりじゃない」


「まったくそのとおり」


「確かに練習ではボールさばきや陣形の確認のためにこういうルールを採用する時もあるが、あくまで特殊なケース。

 こんなルールで優劣が決まるわけがない」


「そうだそうだ!」


「そっちの坊主が怪我しちまったんなら、しょうがない。

 ついでにお嬢ちゃんのほうも引っ込んでもらって、普通のルールで試合を継続すべきだ」


「そうだ、そう……って何言ってやがる?

 頭おかしくなったのか? おい、ゼヌアフ?」


「坊主と嬢ちゃんが抜けて俺が入れば二対二になるだろう。

 まあ、他に入りたいって酔狂な奴がいるなら人数は増やしてもいい。

 前半の残り時間はほとんどないだろうから、後半の10分間。

 それで勝負を決めようじゃないか」


 雲行きが怪しくというか、その逆、急展開だ。

 俺達の訓練場の使用にまっさきに異を唱えていたはずの剣士――ゼヌアフさんが俺達のチームに入ると言う。ルーナも退かせて大人だけで正式なルールで試合を続けると言う。

 そうなれば試合はピジュさん&ゼヌアフさんVS斧のおっさん&細身の剣士の二対二ってことになって、なんだかもう俺達の手から離れて行ってしまっているような。


「おいおい、正気か? ゼヌアフ?

 ガキがうろちょろするのがうっとおしいのはお前も一緒だろう?

 まさか、久しぶりにぺぉいくjygtfれdwsくぁをやってその楽しさに目覚めたなんて馬鹿なことをいうんじゃ」


「まあ、似たようなもんだな。

 ピジュの姉御、文句はないだろうな?」


「あ? ああ、あたしか? あたしはそりゃ構わんが……」


「聞いてのとおりだ。

 ハーフタイムが終わったら後半戦を始めよう。

 ルールは魔法あり、攻撃ありの通常ルール。

 さっきも言ったが後半からでも試合に加わりたい奴がいるなら誰でも歓迎だ」


 敵役かたきやくのチョイ役っぽかったゼヌアフさんが仕切りつつ、話を進める。

 なんか試合中のテクニックもなかなかだったし、経験者っぽいし、実は名プレイヤーで俺の『ぺ』の師匠っていうかコーチポジションに収まるような変なフラグが立ってないよな。




 回復魔法が使えるという、たまたま居合わせたお姉さん魔術師さんにヒールをかけて貰っているうちに、なんだか話が転がったというかまとまっていってるようだった。


「大丈夫? これでほぼ完治したはずだけど……」


 ヒールを重ねがけしてもらったおかげで、腫れも収まり、痛みもなくなった。


 俺はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみる。

 うん、なんともない。さすが異世界。魔法はありがたい。

 ちなみに、骨折とか筋系を痛めたような大怪我は回復魔法でもそうそう簡単には治らないらしい。子供の体と精神だから、かなり痛かったがやはり軽い打撲だけだったみたいだ。


「ありがとうございます」


「どうしたしまして。

 それより、試合ね」


 促されて、コートを見てみる。


「5人ずつ集まったみたいですわね」


 ルーナの言うように、コート上には10人プラス審判一人の姿が見えた。


 ちなみに、前半審判をやってくれていた教官は何故か俺のチーム――今はゼヌアフさんのチーム? あるいはピジュさんのチームというべきか?――に入っているようだった。


「結局ね、みんな口ではなんて言っててもぺおぃくjhygtfれdwsくぁが好きなのよ」


 魔術師のお姉さんはそんなことを言う。


「そうなんですか?」


「だって、この世界での唯一といってもいいくらいの娯楽だもの。

 最近でこそ、この国でこそ廃れちゃってるけど、今コートに居るぐらいの人達ならみんな子どもの頃にはプレイしてたでしょうし、才能や実力があればプロのチームで続けたいって思ってた人も沢山いるはずよ」


 なるほど。世が世ならこの国でだって『ぺ』はもっと盛んだったんだ。

 生まれてくる時代を間違えたのか。生まれてくる場所を間違えたのか。


 それでも、そういう下地があるのなら、ひょっとすればひょっとするかもしれない。


 コートでは試合が再開され、俺はそのプレイに思わず目を見張った。


 目の前で繰り広げられる攻防。

 確かにプレイしているのは一流選手ではなく、本業が冒険者の人達が趣味のレベルでやっているからそれほど高い技術があるってわけでもない。

 草野球ならぬ――草ぺなんとかだ。


 だけど、それは俺がゲームの中で思っていた競技とは若干印象が異なっていた。

 ルールは一緒のはずなんだけど、なんていうか……熱い。


 正々堂々と、騎士が決闘を行うように繰り広げられる一騎打ち。

 あるいは、乱戦となり敵味方入り乱れてボールそっちのけで行われる攻防。


 魔術が飛び交い、剣が振るわれ、体が躍動する。


 ぶっちゃけ、魔物相手に戦うのと同じか下手をすればそれ以上の危険な競技でもある。

 ルールは決まっているが、それは大怪我や死人を出さないための制約であり、小さな怪我なんて厭わない。


 ああ、これが『ぺ』なんだ。甘く見ていたような。


 ゲームでは淡々とプレイが進むし、攻撃を食らってもあくまでHPゲージが減少するだけだ。が、実際には生身の体で、真実の痛みを伴う競技なのである。

 それを改めて思い知った。


 ルーナはやたらとはしゃいでいた。


「すごいですわ! 魔法をあんなふうに使えるなんて!」

「あの剣さばき! ボールを護りつつ敵の攻撃を受け、カウンターで活路を見出す!!」

「乱戦ですわ! 乱闘ですわ! でもそれもルール内の行為なんですわ!」

 

 心底楽しんでいるようであった。

 

「兄様の行ったとおりですわ! ぺぉいくjhygtfれdwさqの練習、すなわちそれは冒険者としての修行に相違ありません!

 合理的かつ、楽しみながら、飽きずに修行が出来る素晴らしい競技です」


 納得しまくっているようであった。


「ほんとにもう。あんなに真剣になって。

 怪我でもしたら誰が回復すると思ってるのよ」


 お姉さんは、口ではそう言いつつも、どことなく嬉しそうだった。


「普段の訓練はもっと手を抜いている人もいるんだから」


 とのことである。

 なんか大人たちが、真面目に体を張って遊んでいるようだ。


 しばらく観戦していると、ピジュさんが引き上げてきた。

 代りの選手が入るようである。


「どうだ、怪我は?」


「ええ、お姉さんの魔法で治りました」


「そりゃよかった。

 で、どうだ? ぺぉいくjhytgrふぇdwsくぁは」


「ちょっと圧倒されてます。

 てか、試合抜けてきちゃったんですね」


「ああ、あたしがいると試合にならん。

 それに、自分もやりたそうに眺めている奴がいたんでな」


 試合は5対1で俺達のチームが勝っていた。素人だらけのゲームだが、剣士のゼヌアフさんの技量が秀でているのが理由だ。

 また、ピジュさんの守備力も群を抜いていた。


 数人がかりの攻めを一人で食い止めて前線にボールを供給するから、相手の攻めがほとんどカウンターの絶好機となり、餌食になってしまうのだ。

 斧のおっさんがそれなりに守っているからこそのこの点差だが、試合は一方的だった。

 ペの推進派? とそれ以外でチームが別れているからこういうことになってしまったのだろう。


 残り時間を考えれば逆転されることはまずまずありえない点差だ。


 そこまで考えてのピジュさんの交代か? なんて思っていたら。


「アッシュ、礼を言うよ」


 なんてあらたまられた。


「え?」


「確かに、うちの国は魔物の襲来も多く、冒険者の育成、強化が急務だ。

 それがわかっているから、ぺおぃくjhygtdwsくぁの練習場も廃止になったし、みんな文句も言わず戦いの訓練に打ち込んでいる。

 が、心の底ではそんな状況に嫌気もさしつつあった奴も多かったんだろう。

 見て見ろ、あいつらの顔。

 楽しそうだ」


 確かに、みなさん溌剌とプレイしてらっしゃる。


 俺達のペの練習権を賭けての試合だったはずだが、そっちのけだ。


「まあ、試合はどうせあたしらの勝ちだから、練習場所の件は片付くだろう。

 それに、練習相手にも事欠かないってことにもなりそうだな。

 口ではどういおうと、顔とプレイの内容がそれを如実に表しているからな。あいつらも練習に付き合ってくれるだろうよ。

 もちろん、あたしも手が空いている時は稽古をつけてやるよ。

 前半のような生ぬるいルールじゃなくって本来のペぉいくjhygtfれdwsくぁの正式ルールにのっとってな。

 仮に将来冒険者になるとしてもそれは良い訓練になるはずだ」


 と、請け負われました。


「是非にとお願いします」


 ルーナが頭を下げる。心底それを願っていそうだ。


 いやまあ。『ぺ』がやりたいって言ったのは俺なんだけど。

 あくまでサッカーの代替ってのと冒険者になることから逃れるためのはずだったんだが……。


 実際に見てみると想像の斜め上を行くほどの激しい競技だったのである。

 冒険者を目指して修行するのとなんらかわりがないくらいの。


 まあ、いいだしっぺだし。責任とらなきゃならんよな……。


 練習場と練習相手の目途が付いてしまいそうである。

 まあ、年齢的に皆さんアレだから、将来的なチームメイトにはならないであろうが。


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