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12.チームプレイで追いつこう

「(かくかくしかじかで)……ごめんな」


 と、俺はルーナに声を掛ける。


 まずは、調子に乗って一人で攻め上がったことと、決定機を得ながら得点できなかったことを謝罪だ。


 それから相談を持ち掛ける。これは、さっきのプレイで得ることができた情報に基づく作戦案の事前情報の説明からだ。


「で、実際に撃ってみて気付いたんだけど、俺のシュートの精度じゃ10本撃って1本入るかどうかって感じなんだよなあ」


 と素直に状況を説明。ルーナ相手に虚勢を張っても仕方ないから少し控えめに。

 フリーなら、10本も打てば2本、うまくいけば3本くらいは入りそうな気もするが、相手もそれなりの対応をしてくるだろうし、下手をすれば外し続けることもありそうだから。10分の1ってのはまずまず妥当な数字だと思う。


「では……」


 とルーナが俺に先を促す。


「うん、一緒に練習してるときのパスの精度とか、ボールさばきから見ても、ルーナのほうが現時点では決定力がありそうだよな。あ、決定力ってのはシュートを確実に決める能力ってことな。

 だから、俺はルーナへのパスを供給するほうにまわろうと思うんだ」


「それで、わたしがシュートを狙うっていう作戦ですか?」


「そういうこと」


「わかりました。期待に応えられるかどうかわかりませんが、やってみます。尽力します」


「頼むよ」


 と、相手チームをあまり待たせても悪いので俺とルーナはさっさと守備に着く。


 別れ際に、


「で、ボールを取りに行くときは極力二人でかかろう。

 パスコースは制限しつつだけど。

 できるだけ相手の陣内か、自陣でも浅い位置からプレッシャーをかける。

 抜かれた時はピジュさんを信頼するってことで」


「了解しましたわ」


 と、ディフェンス面での簡単な決め事も伝えて、試合が再開だ。


 前半の残り時間はまだ半分くらいはあるだろう。


 敵チームはそれほど攻めに意欲を持っていないようだった。

 1点あれば上等と考えているか、そもそもこんな試合で疲れるなんてごめんだよとでもいうかのように。


 のろのろとドリブルしてくる細くないほうの剣士。相手チームのキーマンはこいつだ。

 ポジション的には、左サイド寄りだから、本来であればルーナとのマッチアップになるが、二人がかりで取りに行くっていうのはさっき決めたところだ。


 今、フリーの細い方の剣士にボールが渡ってもゴールまでは距離がある。

 ルーナ一人に任せるのも気が引けるって心情もある。


 というわけで、俺はボールを奪いに剣士に向って行く。


 先に、チェックに行ったルーナ相手に、


「来な、遊んでやるよ」


 剣士はそういうと立ち止まって剣でボールをリフティングし始めた。


 ルーナがボールを取ろうと剣を伸ばすが、相手の方がリーチが長い。


 追いついた俺もディフェンスに加わるが、足でしかボールを触ることができない俺にできることはほぼほぼ無かったという寒い状況だ。

 俺がボール取れる率ほぼほぼ皆無だ。


「おっさん、地味に巧いじゃない?

 ひょっとして経験者?」


 負け惜しみまぎれに聞いてみたが、


「これくらいできなきゃ冒険者なんて務まらねえよ。

 剣士をなめんじゃねえ」


 否定はするが、どこまで真実かはわかりかねるし測り兼ねる。


 事実として言えるのは、この剣士のおっさんがボールを持っていると俺達子供には簡単にはボールを奪えないってこと。


 なんたって、剣士のおっさんは、振り上げた剣の先でにボールを乗せてそのまま保持するなんて芸当までやってのけるのだ。


 それをやられたら、足でのプレイを選択した俺はもとより、6歳児(正確にはあと少しの間は5歳であるが)の平均的な身長で、ショートソードしか装備していないルーナにも届きようがないのだ。


 そのまま剣士が歩けば、反則――『ぺ』ではボールと接触したままで歩くことをルール上し禁止している(二本の剣で挟んで持ち運ぶなどというプレイをさせないためのバスケでいうトラベリングみたいなもので一歩でも歩くと反則)――だが、歩いていない以上は手を出しようがない。


「まあ、練習場は諦めて、さっさと家に帰るんだな!」


 余裕の剣さばきで、剣士はもうひとりの剣士にパスを出す。


 げっ! 浮き球をこんな簡単にさばけるか?


 しかも、まだちょうど俺達の陣内に入った細剣士の居る場所ではなく、ピジュさんとの中間あたりに。


 まずい。ロングフィードでカウンターで、サイドチェンジだ。

 三拍子揃ったキラー的パスだ。

 こいつ絶対経験者に違いないと愚痴を吐いている場合ではない。


 ピジュさんはどうせ動かないだろうから――動いたとしてもピジュさんと細剣士のスピードからすれば、先にボールに触るのは細剣士だと計算した上でのパスとも言えるが――、フリーでボールを渡してしまうことになりそうだ。


「任せな!!」


 ゴール前から動きはしないが、ピジュさんはそう請け負った。頼もしい。

 さっきはやられたが、ゴール前で仁王立ちする風格は、守護神的なオーラも醸し出している。


 細剣士はボールに追いつくとそのままドリブルしながら、ゴール前へと運んでいく。


 なんでこっちの世界の人間はみんなあんな器用にボールを扱えるのか?

 謎は深まるが、俺チームが大ピンチであることには変わりない。


 パスを出したばかりの剣士も、フォローに向けてゴール前へと走りだす。


 ゴール前では、ピジュさんと細剣士の1対1。


 パスの供給先が出来てしまうと、相手に攻撃の選択肢を増やしてしまうことになる。


「ルーナ! パスコースを塞いでてくれ!!」


 と、無茶ぶりして俺は、ボールを奪いに走った。


 一方その頃ゴール前ではピジュさんと細剣士が向かい合って対峙している。


「ここは簡単には通さん!」


「……」


 いまいちキャラの薄い細いほうの剣士は、ノリが悪い。


 無言のまま。睨み合いになっている。


 なんかゴール前まで来て一旦静止するなんてテンポが悪いようだが、本来の『ぺ』はこんな感じである。


 みんな甲冑を付けているのでそんなにスピードが無い。


 相手を躱すのではなく叩きのめして抜き去るのが常套手段。


 防御側は、逆に攻め手の足を止めるために暴力的な手段に訴える。時には魔法も使う。


 それが、『ぺ』なんとかの基本的な攻防のありのままの姿だ。


 特別ルールが敷かれたこの試合ではできないが。

 今の光景は『ぺ』の風物詩と言ってもいいくらいのありふれた状況なのだ。


「死ね!」


 ピジュさんは、有無を言わせず剣で相手を斬りつける。


「うおう!!」


 さすがのクールな細剣士もこれには声を挙げる。

 彼は意表を突かれた格好となり、ボールそっちのけでピジュさんの剣を受ける。


 なるほど、防御させておけば、ボールはさばけなくなるし、(体に対する攻撃禁止という)ルールからも外れない。

 頭脳プレイっちゃ頭脳プレイだ。

 相手が剣で防げなかったときはどうなっていたのか想像しがたいが。


 とにかくピジュさんの一撃でボールはこぼれた。


 フォローに回ろうと戻りかけていたのが功を奏してボールに一番近いのは……、俺だ。


 これで、前線に人が残っていればカウンターという絶好機なのだが、あいにくとルーナも自陣の深くまで下がってきている。


 俺は、ボールを保持しつつ、手を振り上げて、ルーナに上がれと合図を送る。


 さあ、改めて反撃開始だ。


 俺はドリブルでコートを駆けあがった。


 追いついてきたルーナはフリー。マーカーであるはずの剣士をいつの間にか振り切っている。


 一旦ルーナにパスを出す。


 俺達がチームプレイもできるってところを見せてやろう。それをしたところでスカウトの目も光っていないようなこんな試合じゃなんの意味もないっちゃないが。


 ルーナの武器、剣で扱いやすいように&攻めのスピードを殺さぬように前目の胸の位置へと正確にボールを供給できた。


 弾むボールをルーナが剣で弾く。


 一旦地面に弾ませて追いついてまた弾くという、『ぺ』のお手本とも言える綺麗なドリブルでルーナは進んでいく。


 そのまま進めば、斧のおっさんと一対一になるが、か弱い&かわいい妹にあんな武骨なおっさんの相手はさせがたい。


「ルーナ!」


 と、声を掛けて一旦ボールを返してもらう。


 弾んだボールが俺の足元に綺麗に収まった。


 さっきとは違い二対一。


 斧のおっさんは、一応ボールを持った俺に対して警戒しているが、ルーナもちゃんと視界に入れている。


 さっきみたいに出てきてくれたら、ゴール前でフリーになったルーナにパスが出せるんだけど。

 あいにくとそんなうかつな行動には出ずにゴール前を固めている。


 ここは俺が、注意をひきつけるしかなさそうだ。


『ぺ』にはオフサイドはないから――といってもゴール前で張っていたら警戒されてボールは渡りにくいのが本来だが――、ルーナがゴール前に到達した瞬間にパスが渡るようにすればいいはずだ。


 俺は斧のおっさんとの距離を近づけていく。


 相手の剣士も細剣士も子供二人ぐらいは、一人でなんとかしろと言わんばかりに全力では戻ってこない。

 1点勝っているというのもあるのだろう。

 とにかく舐められている。逆に言えばチャンスである。


 相変わらず斧おっさんはゴール付近で動かず釣り出せそうにない。


 さっきみたいにループシュートを狙ってもいいが、精度に不安があるばかりか、おっさんの斧のリーチであればよほど浮かせないと防がれそうだ。


 俺は、おもいっきりおっさんの腹部を狙ってボールを蹴った。

 ラフプレイだが、そもそもラフプレイが罷り通るのが『ぺ』なんだし、ミスキックだと思って貰えたらそれでいい。

 さらに言えば、厚い鎧で覆われたおっさんにこんなボールでダメージが通るはずもないし。


 おっさんは、


「なにしやがる!」


 と、怒りをあらわにする。


「ごめんなさい!!」


 口では謝りつつも――心では一切謝罪していない――、こぼれたボールへと向かう。


 おっさんも、距離的に微妙に俺より先に触れそうだと判断したのか、ボールへと向かっていく。


 確かに、普通に走って蹴るのであれば、ボールに先に触ったのは斧のおっさんだっただろう。


 が、こっちにはサッカーで鍛えた足技がある。


 勢い任せにスライディングを敢行する。


 一瞬早くボールに触ったのはかろうじて俺の右足だ。


 滑ってのことなので、正確なコントロールは望めないが、ボールを繋ぐだけならこれで十分。


「ルーナ!!」


 ボールの先には、ゴール前に走り込んだルーナがいる。


 遅れて俺の足に衝撃が走る。


 おっさんの斧が激突したようだ。


 痛みをこらえながらボールの行先を目で追う。


 華麗に剣を操るルーナの姿が目に入る。


「任せてください!!」


 左の剣でボールを浮かしてゴールボード前までボールを上げて、右腕の剣を一直線に振り抜いてシュートを放つ。


 ボールはそのまま、ゴールボードの中心に向かって吸い込まれていった。


 審判が笛を吹き、得点を告げる。


兄様にいさま! やりましたわ!!」


「どうだ!! これで同点だ!!!!」

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