10.早速試合を開始しよう
「こっちの準備はおわったよ。
そっちもメンバーは決まったか?」
ずかずかと歩いていくピジュさんの後ろを俺達も控えめについていく。
「ああ、この三人だ」
答えたのはさっき、さんざん文句を言っていた冒険者の人だ。
手に持っているのは剣。スタンダードなプレイスタイルだろうということはわかるが、それ以上の情報はわからない。
試しに、相手チームであるこの人もステータスが確認できるか試してみたが、ウィンドウは開かなかった。
チームメイトならば見えるが、相手チームの人間のは見えないということか。
整理すると、ルーナは何故だか通常ステータスも『ぺ』ステータスも見れる。
チームメイトのピジュさんは『ぺ』ステータスだけが見える。
その他の人は見えない。そんな感じのようでいまいち法則はわからない。
教官にも試してみたがやはり見えない。
鑑定スキルなんかがないと相手の戦力までは見極められないってことだな。
そもそも、『鑑定』なんて手に入るのかどうかがわからないところが問題と言えば問題だが。
まあ、試合をしながらでも相手の力量は見定められるだろう。
対戦相手の残り二名。
ひとりは斧を持った巨漢。ディフェンス要員っぽい。
もうひとりはなんの変哲もない冒険者で武器は剣だ。特徴があるとすれば、冒険者に似合わず顔が青白く、若干細身というところぐらい。
ひょっとすればスピードに秀でているかもしれないが、これも試合開始後に見極めるしかないだろう。
「じゃあ、ルールの確認をするぜ」
男前なピジュ姉さんが、場を仕切る。
「相手は子供だ、よって接触プレイは禁止。
故意じゃなければ、反則には取らないが、くれぐれも気を付けてな。
お前らも子供相手に怪我でもさせたら寝覚めが悪いだろう。
試合は10分ハーフでいいだろう。
審判はあんたがやってくれ」
ピジュさんは、教官っぽい人に審判役を放り投げた。
10分ハーフか。
まあ、3対3だと点が入りやすいし、俺達子供の体力からすれば妥当だな。
「他に付け加えることはあるか?」
ピジュさんの問いに、相手チームは文句はないというように――というか、ルールがどうであれ勝つ自信たっぷりで子供相手にいちゃもんつける価値すらないという表情だったが――黙ったが、ルーナが一言言い添える。
「あの、できれば魔法の使用も無しということで、お願いできますでしょうか」
妙にへりくだった言い方だったが、すっかりわすれてたが、『ぺ』では武器の扱いもさることながら、魔法がとても重要だったりする。
ボールに魔法を当ててシュートしたり、パスやシュートを魔法で阻んだり。
高レベルプレイヤー同士の試合ともなれば、炎の壁みたいな、アニメ――イナズマなんとかイレブンとか――でしかお目見えしないような、技や、召喚獣による攻撃とかとか、カットインエフェクト満載のド派手な必殺技をを呈するのが『ペ』なんとかの本来の姿である。
にもかかわらず、俺もルーナも初歩の魔法すら使えない。ゆくゆくは練習に組み込む予定だが、未だに俺達の魔法の師匠となる予定である母さんに魔法の『ま』の字も教えて貰ってないのが現状だ。
この提案は必須だったような気がする。さすがルーナだ。抜け目ない。
「というわけで、魔法の使用も無しということで、異存はないな」
「魔法も無しなのかよ」
相手は文句を言うが、
「まあたった20分だ。休憩時間の余興とでも思って勘弁してくれ」
ピジュさんに促されて相手も、はあ……とため息をつきながらも納得したようだ。なかば子供の遊びに付き合いきれないという表情だが気にすまい。
ぶつぶつと、
「なんでガキのお遊びに付き合わなきゃならなくなったんだ」
なんて不満を口にしているが、聞こえなかったことにする。
ピジュさんも相手にしていないようだ。
こっちは、練習場の確保という目標もあるものの、試合ができるってだけでありがたい部分もあったりするのだから、多少の不満には目をつぶってもらおう。
ピジュさんが、何故かキャプテン役を引き受けてのコイントスの結果で、試合開始は相手ボールとなった。
どこから仕入れたのか、そもそも訓練場で必要なものだったのか、審判役の教官がホイッスルを鳴らす。
陣形を見る限り、斧使いは下がりめというのはこちらの予想どおり。
剣士と細剣士でキックオフならぬ、アタックオフだ。
「俺が止めに行く!! ルーナはフォローを!」
俺はボールを持っている細剣士に、向かって行った。
接触プレイが禁止されているから、足をあげてボールに触るしかない。
細身のほうの剣士は、器用にボールを打ち上げた。
落ちてきたところでなんとか足を届かせたいところだ・
が、
「そらよ!」
なかなかの剣さばきで、細剣士はボールをもうひとりの剣士に向ってパスを出す。
「ルーナ!!」
「はい、兄様!」
ルーナがチェックに行く。ボールを回されるのは想定内。
相手は『ぺ』のまったくの素人ではないようだったが、相手が子供というのもあり、走りながらのパス交換などという高度な技を使ってこない。
できないのか、やらないのかは知らないが。
ボールが剣士の元に辿り着く前に、ルーナはコースを切ろうとするが、そこは大人と子供の身長差。
さらには手持ちの剣の長さも手伝って、簡単にボールが渡ってしまった。
「女の子相手ってのはやりにくいな」
などと言いながら、剣士がボールを高く跳ね上げた。
真上じゃない。前方に向って。
と、同時に剣士は走りだす。
一瞬にしてルーナが引き離された。
ルーナの脚力じゃ追いつけない。
かといって、俺もルーナのフォローに入ろうと細い剣士へのパスコースを防ぎながらも剣士の方に向かって行っている途中だ。
突然の前への動きに対応できないでいた。
となれば……。
俺は、剣士を追いつつもゴール前に視線を送る。
そこには、どーんと構えるピジュさんが居た。
剣士はすでに、自分で弾いたボールの落下点間近まで移動している。
「止めてくれ!」
ピジュさんはその場を動かずに、剣を構えている。
まあ、ゴール前に陣取っているんだから、相手の剣士とすれば遠目からシュートを狙うか、もしくはピジュさんを躱してゴールに向かうかの二択だ。
あの距離からではよほど正確なボールコントロールが出来ない限り、シュートを打っても数十センチ四方のボードには当たらないだろう。
さらにいえば、ピジュさんの能力であれば、一対一ならなんとか止めてくれる。
あるいは時間を稼いでくれている間に、俺とルーナがフォローに駆けつけられる。
幸い、やる気がないのか様子見なのか、ゴール前を固めている斧戦士も、さっきパスを出した細い方の剣士も俺達のゴール前につめる意思はなさそうだ。
これなら、なんとかボールを奪って仕切りなおせる。
と高をくくっていたのだが。
「うらあ!!」
と剣士はそのままシュートを撃つ。
思いのほか狙いは正確だ。
が、ピジュさんの頭上を通過せざるを得ないコース。
ジャンプすれば届くはず。
「おらあ!!」
ピジュさんが、ボールを弾くべく剣を振りあげて……。
ゴールを死守すると思えたが、なんとまあ、ピジュさんの剣は豪快に空振った。
ボールはそのままピジュさんの剣に触れることもなく、ゴールボードにぶつかった。
教官が先取点を告げる笛を吹く。
「口ほどにもない。
力の違いを見せつけてやるよ」
と、剣士は吐き捨てると自陣に引き上げて行った。
「すまん、あたしのミスだ。
普段使っている大剣の間合いだと届いたはずなのだが」
と心底申し訳なさそうな表情を浮かべず、軽い調子でピジュさんが謝罪する。
なるほど。そういうことか。
今日の試合では、ピジュさんは慣れない剣でプレイしている。
ピジュさんの大剣はその刃の太さもさることながら、かなりの長さである。
いつもなら余裕で止められていたのだろう。
「いえ、簡単にゴール前にボールを運ばれてしまった俺達の責任でもありますから……」
先取点は許してしまったが、それくらいで諦めるわけにはいかない。
「まずは、一点返しましょう」
反撃ののろしを上げるぞ。
まだ一度もボールに触れていない俺達だが、その分勝算は残っている。
俺達のテクニックが通用するなら、マイボールで再開すれば同点、逆転への道はきっと繋がるはずだ。
なんか、なんとなくは書けると思ってたんですが、ルールもいまいちよくわからない試合書くのって難しいですね。
盛り上げられるかどうか不安になってきました……。