1.まずは目覚めよう
本作はあの名作『やり直してもサッカー小僧』を読破した感動と勢いと感動で思いつき、書き始めましたが、タイトルはそれっぽくなりましたが(あんまりなので変更しましたが)、それ以外では特に関連ないのと、おちょくってるとかそういうこともなく、どちらかといえばリスペクトしまくりで、かといってそんなにオマージュするわけでもなく、他の人に比べたら真面目には書かないような気もしてますので、あまりサッカー小僧さんの熱烈なファンの方に読まれると厳しいものがあると思いながら、タイトル変えようかなとかもおもいつつ、今に至ってます(至ってない)ので、その辺りを生暖かくご了承下さる方のみお読みいただければと思います。
カチ・カチ・カチ……
カチリ……
アッシュ・カヤーテルは、奇妙な音を夢の中で(と本人には思えていた)聞き、うっすらと目を覚ました。
それはなにかの歯車がちょうどかみ合う時の音だったのか。
時計の針が一秒ずつ進んでいく際の音だったのか。
あるいはその両方か。
それとも運命の輪が回り始める助走が奏でた序奏だったのか。
その時のアッシュにはあずかり知らぬところであったが、それは彼が6歳になる日の深夜0時ちょうどの事だった。
同時に、アッシュの脳内に大きな変化が起こった。
この世界で暮らしてきた6年間の出来事以外の記憶、別の人生がアッシュの頭に甦ったのだ。
彼は六年という歳月をこの異世界ともいうべき――つまりは剣と魔法が存在し、魔物で満ち溢れた――世界で過ごしてきた。
そんな記憶と並行して彼の頭に溢れ出したのは前世の記憶であった。
彼は、元々はこの世界、異世界の住人ではなかったはずだった。
広い宇宙の太陽系、地球、日本で生まれた何の変哲もない一人の男。
その人生がアッシュの頭を駆け巡る。
少年時代よりサッカー選手を志して練習に励み、プロ選手までもう一歩というところまでたどり着いた。
そんな折に選手生命にかかわる怪我を負い、夢を絶たれた。
彼は、その際に自分の愛するサッカーに固執することを選ばなかった。
トレーナーやコーチ、あるいは評論家やライターなど、サッカー関係の仕事に就くという選択を取らなかった。とれなかった。
彼がそんな決意を抱くには彼は若すぎた。
彼は暴力的にこそはならなかったものの、腐り、病み、闇に堕ちた。
ありていな表現をとるならば彼はいわゆるニートと化したのだった。
漫画を読み、アニメを視聴し、WEB小説を読み漁り、ネットゲームに明け暮れた。
彼の地球上での記憶は、そんなニート生活の最中に深夜に空腹を満たすためにコンビニに赴き、猛然と迫る暴走車のヘッドライトに照らされたところで終わっていた。
――前世の記憶か……
ベッドの中でアッシュは一人ごちた。
思えば、あれはつまらない人生だった。
輝いていたのはサッカーをやっていた時までだ。
それ以降の人生には何の意味も見いだせない。
やり直せるものならやり直したい。
常に頭のどこかでそう考えながら生きていた。
その想いが結実したのか。
それとも長い夢であるのか。
アッシュは思い起こす。
――そういえば、怪我で選手生命を絶たれたサッカー選手が子供の頃からやり直せるって話があったよな。
サッカーを始めたその日に巻き戻り、元々は無かった能力を得て活躍して(U-17とはいえ)日本代表になって世界一に辿り着くって話が。
それは、元々サッカーをプレイしていた彼が偶然――あるいは必然か?――出会い、夢中で読み進めた作品であったが、結局のところでは彼の心を癒すものではなかった。
所詮自分には訪れない幸運だ。物語の中だけに存在する都合のよい事象、フィクションの産物だ。
そう考えていた。自分の人生とは切り離して考えていた。
あんな夢のような状況が都合よく訪れることはない……と。
が……。
似たような機会、幸運が自分にも訪れている……ようだ。
蘇った前世の記憶、それが真実であるのなら。
記憶を持ったままの生まれ変わり。
転生、あるいはやり直しというチャンスが到来したということだ。
ただ……。
あのWEB小説の主人公と違うのは、やり直せるのが自分の人生ではなく。
異世界での、まったく違った人間の人生であるということだ。
――こっちの世界にはサッカーは無いんだよな……
あるのは『ペぉきじゅhygtfrですぁq』というふざけた名前で発音不可能――実際にアッシュを含めた誰一人はそれを正しく発音できたことがなかった――な球技ぐらいのものである。
――だけど……
――やり直せるんだから……
――『ペ』なんとか小僧になるっていうのも悪くないか……
微睡の中でアッシュは再び目を閉じて眠りに落ちた。