利益と冒険のブリゲージ2
3月8日
___BSF施設外 廃墟ビル
「ふぅー…」
何とか逃げることに成功し、安堵の息を漏らす。
でも、すぐにバレるだろうな。
施設を飛び出して、その真上に立地するビルの屋上で一息つける。
「(そうだなー…もうそろそろすれば……)」
「なにが、ふぅ……だ」
ほら、来た。マジシャンの手品のようにサッと、僕の後ろに現れて、呆れ顔でため息混じりに言った。ホント愛想無いなーゼノは。
とはいえ、これまでの逃走劇の中でゼノから逃げれたことは無い。
「うまく逃げれたと思ったんだけどなぁ」
「ふん…あいつに任せれば、お前の居場所なんてすぐに分かる」
「やっぱり?アマネは最強だなー」
ゼノの捜索力もスゴイけど、彼のオペレーターをしてるアマネという子が、そのズバ抜けた勘と才能をさらに引き上げていて、旅団内最強のベストタッグだと、噂になるほどにもなってる。
「うーん……じゃあ、今度はどう逃げれば捕まんないかなぁー」
旅団内最強タッグの捜索網をいつか必ずくぐり抜けてみたいなー、なんてね。
「はぁ…勘弁してくれよ……」
「ははっウソだよ、もう少し逃げたら戻るよ」
「すぐには戻らないんだな。」
「大丈夫だって、結果的に戻るんだしさ」
くだらない言葉のキャッチボール。それがとてつもなく無駄で楽しい。こんな時間がずっと続けばいいのにな……
続くはずがないことと分かっているからこそ、望んでしまう。人のエゴの一つだ。
「まったく…何で組織なんか立ち上げたんだか…」
「ははっ、面白いこと言うなぁーゼノは」
ほんと、面白いなゼノ。だから楽しいのかな?
でも、返す答えは決まってる。どうしようもない答えだからこそ。疑問詞を浮かべたそうなゼノに僕はこう答えた。
「理由なんて無いよ?冒険さ。冒険に理由は要らないだろ?」
「……俺には理解できないな。目的が無いのに何かをすることは無意味だ。」
「そうかなぁ…、ゼノはもう少し自由になろうよ?きっと楽しい傭兵ライフを送れるよ?」
「傭兵の時点で、血汚れの仕事だろ。楽しくできるか」
僕の答えを聞いたゼノの顔が少し怖くなってその場の空気が一気に固くなってしまった。やはり、どんなに楽しくても、この壁を壊すことは僕には出来ないみたいだね。
僕とはまた違う、ゼノが背負っているモノが彼の心を欠けさせて、沈めてしまっている。
「うーん…なんか話が固くなってきたね」
「……」
「そろそろ行くよ。仕事しなきゃいけないみたいだからさ」
「あぁ」
「んじゃあね」
そう言って別れを告げ、屋上の中心にある階段でゼノと別れる。
すれ違い様に見た彼の目は、寂しそうな、苦しそうな、そんでもってそれを隠そうとしている。
そんな透明感の無い目をしていた。
___BSF施設内 作業用通路B-4
なんか、言いすぎちゃったかなぁー…
自分の部屋に戻る通路を歩きながら少し反省する。
「あたっ…!」
そんな考えに更けていると鋼鉄製の太いパイプに激突。頭を強打し、しばらく動きが静止する。
「っつ~~!」
なんてドジっ子なんだ。って思った人はもう少し待って、僕の言い訳を聞いてくれると嬉しいな。
今のは別に天井が低いわけではなくて、単に僕が通っている道が本来の道ではないからなんだ。
それというのも、この旅団が拠点にしているのは廃ビルで、元は研究所だったらしい。
んーー……名前は…なんだっけな。忘れちゃった。
とりあえず、BSFはそのビルの真下にあった地下施設を再利用して活動している。
だから、本来の歩行用通路の上には至る所に通気口や、電気系統のコードとか色々なパイプを通すために小さな通路が張り巡らされている。
もちろん人が通るための通路ではない。
点検時に人が一人ギリギリ通れる、縦に長い点検用通路になっていて、今まさに僕はそこを慣れた道順で通っている。
何故かは見ての通り、見つからずに、もう少し時間を稼いでから部屋に戻るためだ。
実際、事務仕事が特別苦手って訳では無いけど、狭い部屋にずっといるのが我慢できないし、しょうに合わないんだよねー。
でもそんなことを少尉が許してくれるはずも無いから、こうして施設内をよく逃げ回るってわけ。
いっつも最後は捕まっちゃうんだけどね……
そんなこんなで、ぶつけた頭をさすりながら、薄暗いパイプだらけの道を進んで行くと、スプレーで目印を付けてある床扉に着いた。
この床扉の直下が自分の部屋になっている。
「(ふぅー…到着ー)」
ゼノには見つかったけれど、他の人に珍しく道中で捕まること無く、自分の部屋近くまで来ることができて少し勝ち誇った気分になり、そのまま疑うことなく床扉のレバーを開いて飛び降りる。
……が、少々クリアリングがあまかったみたいだ。
「やっと戻りましたか、旅団隊長」
あはは…やっぱ最後は捕まっちゃうんだね
「や、やあ…はは……」
「やっと戻りましたね、旅団隊長?」
ぅっ…敬語の中に多々怒りのオーラが…
「さ、さて働くぞー」
「心にも無いことを言わないで下さい」
………。苦し紛れの回避はあえなく失敗し、流石に逆鱗に触れたんじゃないかなと思い覚悟した。
「まったく…早く仕事に取り掛かって下さいよ?」
しかし予想は外れ、すんなり事が済んだ。
うーん、おかしい。いつもより優しすぎる気がする。慣れかな?
少尉はそのまま部屋を去ってしまったけど……
うん、でも大丈夫、それは取り越し苦労だったみたいだ。
あたりを見回すと答えはすぐそばに、出番を待っていた。
さすが少尉。机に目をやると、いまにも崩れてきそうな大量の紙の束がコンニチハーしてた。
「はは…やっぱりいつも通りだ。」