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GLAYDATEREADE  作者: GRIME
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第二章 木銀竺麻

 俺は、シラハさんと出会う何年か前から、変わった病気を患っていた。

 知ったような口調なのは患者当人であるからなのだが、実際自分は知らないのだ。何の病気か、どんな症状のあるものなのか。

 知っているのは鷸鑼さんという、行きつけの病院でお世話になっている医師だけであった。それは当然おかしな話かもしれない。たった一人しか俺の症状を知らないのはもちろん、俺自身が、その不明なものであり、未だに治る様子もないと先生に言われている持病の正体をはっきりと知らないということだ。


        ↑↓


 昼に近づいてくると、代杜は出かける準備を始めていた。シラハを連れて行きたいのは山々なのだが、鷸鑼に一対一で話がしたいといわれたため、仕方なくシラハに留守番をしてもらうことになってしまった。

 鷸鑼が一対一で話したいと言うときは大抵、それなりの事情があり、それに従う代杜はそのくらいの信頼をしていた。過去にも何度かそんなこともあって、信じていくしかなかった。そうでなければいけない気がするのだ。感覚的、直感的、潜在的に。

 

 準備が終わった代杜は、少し予定とは早めに玄関に向かった。


「行ってきます。もし何かあったら、電話して下さい。携帯の使い方はさっき言ったとおりですから、覚えましたよね? まあ、とりあえず、くれぐれも家の外には出ないで下さいね。僕は外でたら、一応玄関の鍵は閉めていきますが、もしも不安なことがあったら直ぐ電話してくださいね」


 代杜は家を出る前に再度しつこく、シラハに言い聞かせる。

 靴を履きながら、自分に心配の言葉をくれる代杜にシラハが、口癖のように『ありがとうございます』と言った。

 

 それを背にして、代杜は玄関を開けて、改めて『行ってきます』と言い、外に出る。今朝から変わらず、天候は悪くなかった。日差しは強すぎではなく、控えめな感じがして風が流れる度に涼しくなり、ちょうどよかった。代杜は日差しを少しだけ鬱陶しく思い、目の上に手で傘を作った。振り返って、さっき言ったとおりに、玄関の鍵を閉める。


 正門を開けて、土地から一歩出たところ、気怠げにため息をつく。

 ーー無理だ。これほど酷い現実があるか。

 心底イヤだと言わんばかりに傘にしてた手で顔面を掴んでいた。

 ーーとりあえず今日は行っとかなきゃいけないところに行くとするか……。こんな事を信じてくれると無理があるかもしれないがなぁ……。

 代杜は鷸鑼に頼まれた事を裏切ろうとしていた。誰にも言わないようにと、三人だけの内密だということを、彼はなんの躊躇もなく、自分の状況を理解したときから決めていたのだ。ーー誰かに自分の状況を知らせておこうと。信じてくれるかは半信半疑ではあるが、言わないよりは自分にとっては言った方が気が悪くならない。

 ーー言うくらい迷惑はかからないだろう。それにアイツに言ってもあいつは何も変なことを起こさないから何も問題ないはずだ。

 あまりにも軽い考えをもちながら、向いている方角を変えた。

 

 ーーーー「だいとだ!」


 明るく、爽やかであり、まるで南国のビーチに流れる風かのような、そんな新鮮できもちのよい声が彼の名を発した。

 代杜は反射的に家へ後ずさろうとしたが、その前に何かに胴体が捕まれ体躯が崩れる。

「ぁぇっ? おい何だよ、いったい」

 倒れる前に状態を整えてから、自分の身体を見ると、人が代杜の身体を両手で捉えて、胸元に顔を沈めていた。

 

 代杜は、目眩の所為で押されるがまま後ろへとよろめき、塀に背中がついてから少しして自分の状況にやっと気が付いた。

 自分の胸元に、正面から顔を容赦なく横に振る人(顔が隠れていて性別の認識が出来ない)がいた。身長は、代杜《シラハ》より低く、見える限り、髪の色のメインが灰色で、所々疎らに染められていない地毛らしき黒か茶色に近い毛が混ざっていた。長さはだいたい二の腕までに延びているが、後ろ髪の方が、肩に少し掛かるくらいしかなく、耳より手前の髪の殆どが二の腕までにしか延びていない。ファッション誌でもまれにしか見かけなそうな感じだが、それが服装(黒を基本としていて、上は、薄い生地が二重か三重にされているような服で、その上に一枚の似たような生地の使用された薄いジレを羽織っている。

 ズボンもまた黒く、ポケットが八つくらい付いたやつである。ジャケットに隠れて始終が見えない(おそらくベルトに繋げられている)が、骸骨のシルエットをした銀色の鉛玉のようなのがチェーンのように繋げられ、前から後ろに延びている。因みに、顔を見ていると、髪が揺れる度に髪に隠れていた耳に多種のピアスがつけてあった。


「ーーっ」

 

 代杜が口から何か言葉を出そうとしたとき、胸元が蠢き、顔を向けると、見知った顔と目が合う。

 だが、その顔に、どこか切なく、抑えなければならないという責任感を代杜は抱えた。

 少年の表情・・はごく普通であり、顔の作りは綺麗に整ったものであった。だというのに、何か、顔の一部、いや、表情の一部に奇妙な点があり、虚(、)ろだった。感情というのは目によってもとらえることが出来る。確かな方向や、視線を表すことの出来るものであったのなら。

 彼は、どうだろうか。

 感情を伺うのは言葉の調子で分かるが、簡単に言えば彼の目は何処を見ているのかがワカらない。そのうえ、まるでオオカミのような、灰色の目をしていた。


「代杜久しぶりだね、何年ぶりだろう? 今日こっちで、午後からイベントがあるから、丁度いいから代杜ん家によってみようかなって思ってたんだけど、気づいたらこの道まで来てて周りを見回してみれば、見慣れた癖を持つ人を見かけたけど、考えてみたらここら辺にいる人で、その癖をもつの代杜ぐらいだなって思ってねっ、しょしかりゃっ!?」

 代杜は手で、無邪気に笑顔を飛ばしてくる少年の口をどこか切なそうな顔をしながら塞ぐ。

「分かった分かった。取り合えず落ち着いてくれ、まず俺らはそんな関係だったっけか?」ーーやべ、なんか言っときながら気分が悪くなってきた…………。

「偶然ていうのって、『実際は必然ではないのか?』なんて思ったりするときがあるけどよお……『必然だなぁ』、なんて言えないから一応『偶然だなぁ』とこの状況に対して言っておくが、俺も、丁度お前に会いに行こうとしてたところだったんだけどよ」

「もしかしてそれ、以心伝心的なやつかな!?」

「それは大きく違うな。もしそうだったらお前を避けるかもしれない」

「避けるまでは言い過ぎじゃないかな? 少しきずついたなあ…………」

「落ち込んじゃいねぇだろ、竺麻じくま

「たとえボクの目がこんな虚ろであっても、確かな感情を持ってるよっ。『ひどいなあひどいなぁ、代杜は卑猥だなあ』って思ってるよっ」

「そう思ってるんならいい加減俺から離れてくれ。それとあまり人の前で自分の目のことを言わないでくれ、なんか罪悪感を感じる……」

「そうだったね、ごめん……代杜」

「いや、単なる俺のわがままみたいなもんだから、お前がヤむ事はねえって。ああ、それよりお前、よく一目見てオレだと思ったな?」

「…………うん? だからさっき言ったじゃないか。家の前で顔に手のひら当てて、世の中に呆れたと言わんばかりに首を振ってるなんて。そもそも、小中高って、一緒によく遊んでたじゃないか。幼なじみの特徴くらい覚えていないのは可笑しいんだから、そんなことを聞くのは可笑しいよ? ところで代杜、髪のびたね、女の子みたいだよ?」

「首なんか振っていたか……? まぁいいや。手っ取り早く言うとだ、この身体はオレの身体じゃあない。女性の身体だ」

 誰が見ようと当然その姿は一目瞭然、女性の身体だ。それを目を通して理解してもらおうとは代杜の口からは感じられず、竺麻という少年ーーこれまた代杜以上の童顔をしているーーに、口で教えようとしていた。その説明は、まるで目でも見えていないような人に教えるように、詳しく。


 ーー木銀竺麻きがねじくま。それが少年の名前である。

 みためは代杜より竺麻の方が圧倒的に童顔で、声も幼さのある感じだ。

 服装は身軽そうな長袖に上着をかぶせて、首に十字架のアクセサリーが吊されていた。


 彼は、変わった症状をもっていた。

 目を見るとおり、彼には視覚の感覚が薄い。見えないわけではなく、視界に入るモノの認識が一定の位置に定まると、そのまま動かすことがない。瞳孔の周りが灰色になっていることの理由としては、見えるもの、見るモノを自身が指定した時にその指定したモノが、行幸を背景に受けたもののように陰に覆われた状態に見えているために、その本来・・われたからである。


「? ふぅん、それは珍しい話だね。夢の中なら、代杜には何でもして良さそうだな…………。うん、よし」

「まて、何考えてる。夢の中じゃねえ、そのまま何か変な事すればお前のことを通報してやるぞっ」

 ピシッと、柔和な音が鳴る。

「イタッ! なに代杜っ、いきなりでこぴんするとかっ!? …………ん、あれ? 夢じゃないの?」

「夢じゃねぇし、オレは事実を言ってる。嘘なんか無いからな」

「…………」

 少しの間代杜から目をそらして黙り込んだ。

「そうなんだ。まあ、僕にとってはあまり関係ないね。で、誰と入れ替わっちゃったの? 女性だと言うことだけは分かるけど、というか知らない人だね、僕が」

「俺も知らねえよ、この子は。昨日会ったばっかりで詳細不明だ。分かってんのは名前と歳だけ。学生らしい。ああ、それと家の方も一応分かってる……らしい」

「らしいって、それ大丈夫なの?」

「鷸鑼先生が色々とやってくれてるから、俺が出来ることは何もない、ただ面倒見てあげてるだけだ、やれるのは。それと午後から会う予定だ」

「医者には行ったって事だね。鷸鑼先生は僕もお世話になってるから信用できるよ。変なことしなければまともな人だよ」

「あの人でもお前のその目を治すことは出来なかったけどな」

「ううん、少し良くなったよ。子供の頃は色の認識も出来なかったんだから…………」

「ああそうだな、あの人の御陰でお前の視覚はまし……そこまで良くなった」


 代杜は少しばかり弱音でも吐くような息で、竺麻に言葉を紡いだ。

 

 木銀竺麻は、その声から明瞭と認識をする。

 代杜が作り笑いを作ったということを確かに感じた。一般からすれば同情同様だが、これを竺麻は寧ろ嬉しく感じる。それは、心配を混ぜた優しさで、気遣いなのである。これが、互いを知ってるからこそ出来る捉え方なのだ。


 そしてーー彼は視覚の悪い分、聴覚による認識が一般人よりも、ーー区別に紛れがなく、声に乗る感情を明確にとらえることが出来た。

 さらに、観察力までも持ち合わせ、先刻のように、代杜の動きの特徴によって、外見は全く解らない姿をしているというのに、中身を彼だと見抜いたのだ。髪の長さの認識は出来ていても、彼は幼なじみの癖を優先したのだ。

 またこれも信頼という奴だ。

 彼らは童顔さながら、人に対する疑いを持つことは滅多になかった。お人好しといったところだ。


 しばらく、竺麻に話しておこうと思っていた事を様々伝えながら、二人で路地を適当に歩き回り、竺麻が用事できた理由の時間に近づいてきたらしく、二人は別れた。

 代杜は、竺麻と別れた後に、鷸鑼との待ち合わせ場所に向かい始めた。


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