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秘密の会話 

side エリック(かまぼこ)

「みぎゃ!にゃう!んにゃぅぅ」

 まさかこんなに早く探知されるとは思ってなかった。それだけ魔力を消耗したのだろう。こんなもののために異界渡をしたのではない。焦ってペチペチ叩いていると兄さんは気怠そうに目を開けた。びっくりさせないでよ。


 しばらく真由子さんが看病をしていた。僕は、なんだかいつもと違い力の無い兄さんを観て少し後悔していた。が、その後あまりに「にゃうぅぅ、みゃう」(何をバカなことをしているんだとか帰るぞ)とか言ってくるので無視だ。うるさい。




 ーーーーーーーーー



 いつも過保護すぎなんだ。それに僕、知ってるんだ。



 僕は正妻、兄は側室の子。でも僕は王位継承権は第2位だからっていつも微妙な扱い。母様が身体が弱いのは仕方がない。


 そして僕は、当たり前のように力を持つ側室に妬みを持つ。そんな女の子供である兄を妬むのも当たり前。なんたって母様を日陰の存在にしたんだからな。



 兄さんは今、先の大戦後の各地での争いの沈静化・高官や貴族間などの後継者争い・金融政策など、最も重要で大変な問題をものすごい早さで解消させようとしている。



 ........僕が成人して即位する前に。

 恐らくあまり眠っていない。あまり食事も食べていない。たまに薬を飲んでる。どんなに余裕があるように見せても、僕は知ってるんだ。




 そんな兄は疎ましい存在であり、そしてまた......



 ーーーーーーーーー




 それにしても風呂場で洗われているところは見物だ。「フーッ!」(見るな!)と言われても、ねぇ。まぁ兄弟そろって女の人と入浴って変なシチュエーションならさすがに普段冷静な兄さんも動揺するか。ニャフニャフッ。これはスミスたちに見せたらさぞ滑稽だろうと想像し、異界土産にすべくこっそり魔術を使った。映像を記憶させるんだ。



 真由子さんが身体を洗っている間、


「真由子さんっていうんだよ。片岡真由子さん」

「兄さんより2つ年下の25歳」

「身体柔らかいよね。肌きれいだし」

「なんかいつもいい匂いがするんだよね。なんでだろ?」

「料理が美味しいんだ。城の食事とは全く違うしへたしたらそれより絶品」


 など色々と教えてあげた。水音で真由子さんには「にゃぁーみゃうー」って言ってても聞こえないだろうから。






 あっ、兄さんズルい!僕も真由子さんとお湯に入りたい!そしていつものように抱っこしてもらった。ゆっくりとお腹や背中を撫でてくれる。思わず顔を谷間にスリスリしてしまう。この柔らかい感触がいいんだよね。


「なぅーっ」


 極楽極楽。


 今夜は僕が寝る特等席(特等ベッド)を兄さんに譲ろう。あ、いいこと思いつーいた!




 ー*ー*ー*ー




 真由子さんがコンビニってとこへバターを買いに外へ出た瞬間、兄さんは静かに魔術を解いた。



「なぜ異界渡りなどした?それになんだ、あの女に対する態度は」

 怒り心頭の様子は、組んでいる両腕の握りしめられたシャツの皺でわかる。



 異界渡りは最高難度の魔術だ。その上にどこへ飛ぶか分からない。

 大抵なら失敗して自分たちの世界のどこかだが、魔術が高すぎる者は魔術の無い世界へ飛ぶことがまれに起こる。そうなれば位置を特定するの探知は難航し、異界渡をした者と血の繋がりがある者でないと連れ戻せない。



「だってさ、ヒマだったんだ。学校の課題も終わってるし。ギルが探してた?説教が待ってるだろうなー」


 自分も静かに魔術を解く。全然関係ないギルを巻き込んでしまったことやあっちへ帰った時のことを思い浮かべると少し憂鬱になった。

 今まさに、耳と尻尾が付いていれば確実にヘニョンとなっている。


「真由子さんはさ、ご飯を作ってくれるんだ。それに優しい人なんだよ?心からね。だからいいんだ」


 城に住んでいれば汚い人間を必然的に目にする。たまには自分の存在を無にしなければならないこともあるし、繕わなきゃ負ける。そんな中でこんなに温かに包み込んでくれる人はなかなかいない。自分を曝けても大丈夫と思える人間なんて滅多にいない。


 まぁ真由子さんは猫を飼ってる感覚なんだろうけど、僕は離したくないしね。



「単なる遊びではないだろう。何が目的だ?」

 怒りで渋い顔をしている兄はその強い瞳で心の奥底を探ろうとする。確かに遊びではないつもりだ。この異界渡りは発動させた者はかなりの間、心身を休めなければならないほど魔力の消耗を費やす。



「まぁヒマだったって言ってるじゃん。まぁお迎えが着たしそろそろ帰るよ」



「じゃあい.....「ただいまー」」


 今すぐ、という言葉に真由子さんの声が重なる。ナイスタイミング!



 ぼふんぼふん!

 舌打ちする兄。魔術がバレたら面倒くさいもんね。


「にゃうん、んにゅうぅ」

 お帰り、真由子さん。早く美味しいご飯つくって?



 ー*ー*ー*ー


 少しだけ時を遡る。




 朝焼けが小さな窓から差し込んできた頃、小さな黒猫はこっそり魔術を解いた。


 少しだけ背伸びをした後、そっと真由子の青い水玉模様のパジャマのボタンをはずた。そして疲れのあまり爆睡している社長をパジャマの中に寝かせまたボタンを閉じた。



 寄り添って寝る姿に目を細める。

 空を自由に飛ぶ鳥たちの鳴き声が聞こえてきた。自由に、何ものにも縛られるものなどなく。



「兄さんはもっと自分の為にも生きるべきだ」

 自由にするため、自由にする存在を見つけるために僕は異界渡りをしたんだよ。これはエゴかな?




 疎ましい存在である......けれども、それ以外の何とも言えない存在だ。人間は感情すべてに言葉なんか付けれない。そんな簡単なものじゃないよ、1人の人間が存在することって。


 しばらく眺めた後また猫の姿に戻る。いつか兄と真由子が本当に寄り添える立場になればいいと思いながら。





 *




 そしてこれももちろん、お風呂の時と同じ、映像記録済みだよ?


 ニャフニャフッ





真由子前限定で「兄様」といい子ぶるエリック君が好きです。次回はside オルベルトです。



いつもご訪問ありがとうございます*

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