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食事会

 そんなこんなで夕食時間になるまでエリック君と話をした。ここも現在春で様々な花が咲き乱れる中庭のテラスでお茶をしていた時、爆弾発言が飛んできた。


「しゃ、社長が第1継承者!?」

 思わず紅茶クッキーを吹き出してしまったが護衛中のスミスさんが見ない振りをしつつそっとハンカチを差し出してくれた。申し訳ない....



「うん。僕の腹違いの兄で名前はオルベルトってゆうんだよ、オルベルト・ヴァン・スーリアス。ねぇそういえばシャチョウってどういう意味なの?食べ物?」

 社長の意味を教え仕事ができて偉そうな態度だったから、と言ったらピッタリだと腹を抱えて笑っていた。



 分かったことは王様の側室・リリア様の子供が社ちょ、いや、オルベルト様で年齢的にも第1継承者。

 そしてエリック君は正室の子で第2継承者だが国政に興味はない模様。正室のアマーディア様は身体が弱いようでよく寝ていることが多いらしいけど.....本当に一夫多妻制ってあるんだ。何かショックだ。大まかな歴史や経済状況などを聞いた頃、肌寒く感じたので部屋へ戻ることになった。


 エリック君は今日、目を覚ました私が不安にならないよう魔術学校を休んでくれた。用事があってこれから学校へ行くので夕食は一緒にとれそうにないと寂しがっていた。






 部屋に入ると栗毛色の侍女がミルクたっぷりの温かい紅茶を入れてくれた。

 実際私はそんなにパニックや不安にもなっていない。今までどんないじめや問題も自分で解決して来たせいかどこか自分を冷めて見つめているという感じ。実感がないのかもしれない。なんでこんなに自分は強いんだろ?



「真由子様」


 ハッとすると私と同い年くらいの先ほどの侍女が、肩までのふんわりパーマを揺らし微笑んでドア付近に立っていた。


「わたくし本日から真由子様の専属侍女のミリアリア・ベルと申します。オルベルト殿下から真由子様のお世話を承りました。どうかミリアと御呼び下さい」



 専属侍女!さすがの私も遠慮したい。侍女なんか付いたらお風呂に1人で入れないという羞恥を再度味わうことになりそうな予感がした。それに殿下って社長じゃん。今までただの「猫」としか接してこなかったのにいきなり殿下扱いしなきゃいけないのに違和感がある。エリック君は.....かまぼこだし子供だし甘えん坊だからか、なぜかあんまり違和感はなかったけど。

「あ、いえ。侍女なんて申し訳ないです。ただの一般人ですのでお気遣いなく....」


「いいえそんな!!わたくし真由子様のお世話が出来て光栄です!今朝見習い侍女が足を滑らせてしまった際、あの場にわたくしもいましたの」



 そうだ。お風呂場で(無理矢理)エステをされていたところ、石鹸で足を滑らせて転んだ女の子がいた。その子も周囲の侍女も「粗相をしてしまい申し訳ございません」と慌てて謝っていたが、私はとっさにバスタオルを巻きその子の足を見て冷水で冷やした。少し腫れていて捻挫の可能性があるのですぐに冷やした方がいいと応急処置をし、その後は冷やしたタオルを足首に巻き付けてポカンと立ち尽くしている侍女たちに引き渡した。



「ミリアさんあの時いらっしゃったんですか。あの子は大丈夫でしたか?肘の打ち身も気になりますし....」



 ミリアさんを見ると身体を震わせ涙をレースのハンカチで拭っている。え、な、なんで?思わずあたふたしてしまう。

「真由子様はなんとお優しいんでしょう!さすがはオルベルト様が気にかけ.....あっいいえ。あの子は肘の打撲と足首の捻挫で2、3週間ほどで回復致します。真由子様がすばやい処置をしてくださったおかげですわ。あと、わたくしは侍女ですのでどうか敬語は控えミリアとお呼び下さいませ」



 ん?なんか途中で変なことしゃっべてたような?

「そ、そう。よかった。じゃあミリアと呼ばせていただきますね」



「それに加え昼食を御出しする際に私たちにも丁寧なご挨拶を述べてくださいました。真由子様の御付きを選定するにあたり立候補者がものすごく.....」


 ミリア曰く、昼食後の私付きの選定会なるものの倍率がすごかったらしい。社会人として普通にしているつもりなんだけど、この世界のしかもこの城内で客人としては私はとてもめずらしい人種みたい。確かに、こんな某ネズミの国の数十倍はあろう城に客人として来るのも貴族ばかりで世話をされることが当たり前の人達が多いだろう。


「さぁ、お話はここまでに致しましょう。これから夕食のお時間となります。本日はオルベルト様がご一緒にとのことですので御召しかえさせていただきます」



 ジリジリと距離をつめて来たうっとりした目のミリアに、裸にされ着せられ髪を結われ化粧直しも完璧にさせられた。




 ー*ー*ー*ー


「失礼します。お連れ致しました」


 私は大きな扉の前まで連れて行かれるとミリアはそう言ってその重そうな扉を開いた。壁に侍女が何人か控えていて、シャンデリアが中央に浮かぶ広い部屋には長いテーブルがありその端に1人の男が座っていた。


 スタバで私をひっぱったスーツ男はまさにこの金髪男だ。それに社長と同じ気高い雰囲気。シャンパンゴールドの耳までの髪と紫の瞳はまさに社長を人間にした感じぴったり。


 ミリアに促され席に着くまでの間、穴があくくらい見つめられいたたまれない気持ちになった。会社用スーツか家でのルームウェアじゃなくてこんな姿だからだろうか。




 いま着せられているのは深紅の膝下までのマーメイドラインドレス。膝からは細かいプリーツが入っていて歩くと揺れてとても綺麗で気に入ったが、肩が開いていて谷間ギリギリなのだ。同色の高いヒールで歩くのが大変だから嫌だと言ったけどこれが普通だと言われ納得せざるをえなかった。私の行動範囲は狭く、何より一国の文化は簡単にわかるものじゃない。その後片耳の近くで長い黒髪は結われ反対側の耳近くで白いラナンキュラスのような真っ白い花で留められた。化粧だけはせめて薄くと土下座しどうにか準備が整った。


 殿下といえどまだにゃんこのイメージである社長と食事というのに.....すでに疲れてしまった。色々あってキャパオーバーが近いのかな。




「片岡真由子です。本日はお食事のお招きありがとうございます、オルベルト殿下。それとこの国での滞在に関しましてとても良くしていただき感謝しております」


 ビジネスモードに切り替えて話し始めた私をまだ見つめていた殿下は、その美しい顔の眉間にシワを寄せテーブルの前で組んでいた手を持ち上げ顎を置いた。前菜が運ばれてワインを注がれ終わった時を見計らい、全員を退出させた。



「改めてだが、オルベルト・ヴァン・スーリアスだ。弟が迷惑をかけたな」

 前菜はチーズが練り込んであるパンと春野菜のサラダかぁ。なんだか見た事ないような紫色の星形の葉っぱもある。うーむ、と皿に目をやっていると声をかけてきた。恐らくこの国に強制的に連れてこられたことに対してだろう。



「いいえ、起こってしまったことはしょうがないです。それに言葉も文字も通じますし、殿下やエリック君が手厚く保護してくださるおかげで今の所何も不自由はございません」

 あ、思わずエリック君とか言っちゃった。様、を付けるべきだった。



「.....異界では世話になった」



 食事にはあまり手を付けずワインばっかり飲んでる。なんで不機嫌そうなんだろう。食事に招いたのはそっちなのに。形式的に必要だったのかもしれないな。私もワインを飲む。あ、この赤ワイン美味しい。

「いいえ。ただ猫を拾って世話をしただけです。まぁ、まさかこの世界に飛ばされるとは思っていませんでしたが」



 渋い顔になったようだが、こんなことにいきなりまき込まれたんだから少しだけ攻撃してもいいだろう。エリック君はまだ小さいので面と向かって責任を負わせたり出来ない。こればかりは彼の現在の年齢を考えた判断能力の問題だ。



「そういえばあのスーツはどうされたんですか?私をスタバから連れ去った際の」


 扉がノックされメインが運ばれて来た。ステーキとマッシュポテト、豆のスープだ。


「すたば?あぁ、男といたあの店のことだな。あれは魔術でそっちの世界の服装を真似ただけだ」

 そう言って彼は豆のスープを一口とステーキを数口食べただけでまたワインを飲み始めた。



「確かに私が住んでいた所には会社がいくつかありましたしね」

 私はもくもくと食事をした。味があまりわからない。恐らくなんだか疲れているのだろう。あまりしゃべりたくない。向こうも何をしゃべっていいかわからないのかも。社長、猫のままでいてくれればよかったのに。そう言ってやろうかと思ったがさすがにマズいかなと思いやめた。大体、仕事相手やフェミニストな人なら平気だが、私は男の人が苦手だ。



 沈黙の部屋に運ばれて来たデザートは肉料理の口直しにいい柑橘系のシャーベット。リキュールが少し入っていて大人の味がする。

 あまりの静けさに私はイライラしてきた。


「なにかしゃべってはどうですか?」




 すると今までの謙虚さが嘘のように、

「お前、この俺がめずらしく素直に謝罪の意を示したと言うのに。猫だった時と態度がえらい違うな。どっちが本性だ?」

 などほざいてきた。一人称変わってるし!



「どっちも私です。だいたい殿下に関係ありません」

 私は気を取り直しワインをぐいっと飲んだ。



「そうか、面倒くさい女だな」

 二重人格な殿下は相変わらず優雅な仕草でワインを飲んでいる。



「女だからってなんだって言うんです。だっていきなり飛ばされてきてしかもこんな場違いな所にいる。私の怒りや絶望はどこへ行けばいいんですか!?私はプロジェクトに関わる可能性はもうない。向こうでの恋愛もすべて意味のないものになった。友達にも家族にも....会えない」



 なんだか急に色々と不安になって涙が出た。そう、私は酒に弱いのにワイン3、4杯は飲んだ。お酒を飲むと「強い私」は「弱い私」になる。



 


 私は長いテーブルの向かいにいたはずなのに、気付けば「あぁそうだな」「へぇ」などという殿下の隣りに座り、グスグス俯き泣いて愚痴を言った。



 頭もポンポンしてくれたしいい人なのかな。猫になってといったら猫になってくれたので「社長ー!!」と抱っこして撫で回した。にゃうにゃう言ってたけどわかんないよ。




 そして.........


 私の記憶は曖昧になった。



 またか!




人気のかまぼこ(笑)の小話書きましたのでよければ活動報告をご覧下さい*


猫の甘えん坊丸出し気質なのがかまぼこですね。社長は優雅なツンデレ猫気質のつもりです。



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