だい嫌い
雨が地面に叩きつけられる、ざあああといった攻撃的な音はもう二日前から続いていた。窓の外の景色はもの凄い勢いで落ちる水滴にかき消されてよく見えない。温度差で氷結した水分が、雨の子供みたいに窓を滑り落ちていった。
マシンガンみたいだ、と潜り込んだ掛け布団の中で風祭は思った。マシンガントークという言葉があるのならばマシンガンレインなんて言葉があったっていいのではないか、とも同時に思った。実際のマシンガンの音なんて聞いたこともないが、風祭の中のイメージとしては雨と凶器なんて大して変わりはしないものだった。もしかしたら雨のほうが怖いのかもしれない。凶器は自分が持てば武器になる。しかし雨は。雨は誰の味方もしないのだ。ただ雲から降ってきて、空を地面を世界を自分を濡らして何事も無く去ってゆく。抵抗のために人類があみ出した術なんて、せいぜい傘と屋根くらいのものだ。勝てるはずが無い。
風祭はずるずるとキングサイズのベットから這い出し、顔をしかめて耳を塞いだ。被っていた布団をとってしまったせいでより雨の音がクリアに聞こえるのがたまらなく不愉快だった。だから今は雨をかき消せるような音楽が聞きたくてたまらない。あまり音を大きくしたら隣の住人から注意を受けるかもしれなかったが、もう今はそんなことどうでもよかった。
山のように積まれたCDケースの山に近づき、漁り始める。へヴィメタルバンドのCDを二枚見つけ出し、どちらにするかを数秒考えてから、右手に取ったほうの中身をステレオにセットした。再生ボタンを押すと耳に馴染んだ金切り声のヴォーカルが部屋の中に響き渡り、風祭はようやくほっとした気持ちで紅茶を入れにかかった。
キッチンに向かう途中で腕時計を見てみると、あれだけベットに転がっていたというのに、午後になってから一時間も経っていなかった。今日はこれからどうするかとお湯を沸かしながら考える。風祭には予定というものが仕事しかない。その仕事も雨の日にはしないと決めている。従って、雨の日には風祭は音楽を聴くか紅茶を入れるか、気まぐれに買った本のページをめくる事しかしない。料理すらしないのだ。大体雨の日には紅茶以外を口にする気なんて、これっぽっちも起こらない。どこにも不都合は無い。
淹れ立ての紅茶を飲みながら一昨日のことを考える。雨の降り出した日だ。それはつまり、事故が起きた日から雨雲は消えることなく活動を続けているということだ。何年何ヶ月振りの記録的な豪雨なのだとニュースキャスターが淡々と告げていたのを思い出す。被害の映像が流れた瞬間、ほとんど反射でテレビのスイッチを切っていたから、そこから先の天気予報を見れていない。
一体いつ止むのだろうとため息をついた。もう一秒だってこの雨の匂いを嗅ぎたくない。
ああ、何だっていつもこんなときに雨は降るのだ。
ドアベルの鳴る音がした。