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流浪の民  作者: 仲夏月
21/36

第21話


 一頭の馬に二人で乗って移動すること数日。


 ようやく帰営したセオフィラスとレオの姿を兵士の一人が見つけると大きな声を上げ、各建物から一斉に兵士が顔を出し、部隊長が真っ青な顔で執務室から飛び出し、二人を迎えた。


「子爵から、"近くの陣地に伝令にやったら帰ってこなかった"と言われたんだ。だからてっきり」

「予想通りですね」

「朝まで待っててくれれば戻ってたのに」


 サミュエルの顔色とは対照的な二人の晴れやかな表情に、部隊の面々も安堵の色を浮かべるやら人の気も知らないでと口をとがらせるやら、様々である。

 兵站の部隊は疾うに解散したと聞いて、じゃあ僕たち別に報告しに行かなくっても良いですよね、とセオフィラスがすっかり強気になった表情で嘯く。


「幽霊でも見たみたいな顔するかなぁって、見てみたい気もするけど」

「もう、俺あいつらと関わり合いになりたくないからいい・・・・」


 面倒事はもういやだとばかりのレオの表情に対して、たくましさすら覚えるセオフィラスの表情は少し意地悪だ。

 制服の埃を払うのもそこそこに、執務室に飛び込んだ二人から医官が聞き取った敵の情報を報告されて、サミュエルは顔を引き締めた。


「・・わかった。それについては後はなんとかする。・・そもそも、医官殿はどうやってその話を聞いたんだ?」

「医官殿は異境の言葉に詳しくて、捕虜になっている間に敵の話を聞き取ったそうです」

「捕虜になった医官殿から聞いたのか?・・・・・・ちょっと待て」


 最初は、少年兵の無事にただただ安堵してふんふんと二人の報告に耳を傾けていたサミュエルだが、徐々に冷静になると急激な違和感を感じたのか、いぶかしげに目を細めた。

 じいとセオフィラスとレオの二人の目を見ながら確認をする。


「お前達、医官殿から直接聞いたのか?」

「はい・・・ランド卿に土産話を持って行けって」

「お前達だけに直接そう言ったのか?補給基地の部隊長には言っていないということか?」

「・・・・」

「・・・・」


 そこで、急に押し黙った少年兵の様子に、部隊長の声が低く響く。


「まさか、伝令続いでにお前達で医官殿を奪還したとか、そういう事じゃあないよな?」

「ええっと・・・・・・」

「・・・・それは・・・・」


 レオは、そうっと視線を執務室の壁に向け、サミュエルの凝視から逃れようと顔をそらす。

 セオフィラスは顔の向きこそサミュエルを向いているものの、視線は明後日を泳いでいる。


 その様子に、部隊長とはいえ、まだ青年の顔がみるみるうちに蒼くなり、そして赤くなっていった。


「この・・・・・・・・」


 続く言葉を一瞬だけ飲み込んで、彼は躊躇した。

 若いとは言え、一応大人だからだ。

 冷静に、努めて落ち着いて諭さなければならない。


 しかし、この男はそれを長くは続けられなかった。


「このクソガキ共! 何て無茶しやがるんだ!!!!!」


 部屋全体を揺さぶるような怒髪天をつく大声に、セオフィラスとレオは耳を覆い、身を小さくする事しかできなかった。



------------------------------------------------------------



「なにも、あんなに怒ること無いじゃないか」

「・・・・全然反省してねぇって隊長に言いつけますぜ? リッテンベルグの坊ちゃん」


 疲労が酷いということで押し込まれた寝台の上でセオフィラスは不満そうに口をとがらせたが、世話を焼きに来たアマデオの一言で慌てて首を振った。

 セオフィラスと並んだ寝台に寝転んで、レオも遠征の疲れ以上の徒労感が声ににじむ。


「結果良好で良いじゃん・・・・」

「うん、レオ。お前も反省してねぇな?」

「反省してますっ、反省してますったら」


 ガキが生意気な事をするな。

 そういうときは、一度戻って報告するのが筋だ。

 たった二人で陣地に乗り込む事がどれほど無謀か、お前達はわかっていないだろう。

 絶対、俺は褒めてなんかやらねぇぞ!!


 たっぷり搾られ、なおかつ敵に使った魔術についてもレオは白状させられ、さらなる説教をうけることになった。


「レオ、あんまり質が良くねぇ魔術使ったんだって?」

「敵さんだってしょっちゅう使ってるじゃないですか」

「そういう問題じゃねぇよ。・・・戦が終わった後、宮廷魔術師か王立病院の治療師に見習いで紹介しようって隊長考えているのに。禁呪スレスレの変な術を扱うって噂が立ったら、受入先が無くなるかもしれないって、そういう心配をしているの」


 戦の後、と言われてレオは少しだけ体を起こすと、背中越しにアマデオを見やる。


「・・・サム様ってやっぱりお節介焼きですよね」

「そう言うなよ。・・・・お前さん達にもしもの事があったら、隊長にとっては一生モンのトラウマになる所だったんだぞ?」


 そこで、二人は少しだけ神妙な表情を見せ、寝台の上で居住まいを正した。

 サミュエルとは古くからの付き合いだという兵士は、ため息をついて静かに切り出す。


「あのな。・・・今回の件、隊長は大半自分が招いた事だって思ってるんだ。・・・少しばかり南方軍の中で自分の評価が上がったからって、いい気になって、増長した。・・・その、慢心が、年端もいかない坊ちゃんと、そもそも極東人でこの戦に何の因果も無くて巻き込まれただけのレオを窮地に追いやった、そう思っているんだ。あの子爵なら、隊長に直接ではなくてもっと弱い立場の者に累を及ぼす事はやりかねないってわかっていた筈なのにってな」


 セオフィラスもレオも、先ほどまでの調子の良さをしまい込み、固唾をのんでアマデオの話に聞き入る。

 アマデオは、淡々と、少年兵が不在の間の部隊長の様子について、告げた。


「・・・お前達が出発した後もずっと顔色悪かったし、一昨日子爵が帰ってきてお前達が帰営しなかった話を聞いた後の落胆ぶりは、正直見ていられなかった。・・・南方軍も、騎士すらやめるって言い出しかねないんじゃ無いかって俺は思ったんだけどよ?」


 だから、お前達が無事で、その上一人前の顔してあんな脳天気に戻って来たのを見たら、そら怒鳴りたくもならぁな。


 セオフィラスは、泣きそうな顔でうつむいた。

 レオも、膝にかけた毛布をぎゅと握りしめて、唇をかみしめる。


 やがて、二人は心の底から、小さくその言葉を口にする。


「・・・・ごめんなさい」

「すみません・・・」


 どうやら、本当に反省したような様子の少年達に、アマデオは人の良さそうな笑みを見せた。



「しっかり反省して、ちゃんと精進しろ。未熟者クソガキ












 

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