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流浪の民  作者: 仲夏月
18/36

第18話

 前線ヘの補給兵站の部隊が編成されるという事になった。


 部隊長は、以前レオに嫌みだけ言いに来たあの子爵である。

 珍しく自分が先頭に立つ気らしい。


 少し大がかりの部隊になると言うことで、複数の部隊から兵士を動員し、構成されるという。

 サミュエルの部隊からは、何故かレオとセオフィラスを動員せよということになった。


「魔法使いが必要だから俺というのはなんとなくわかるんですが、・・・なぜセオフィラス様を?」

「何時までも子供扱いしても良くない、この戦である程度功績を積まねば王都に戻っても家督を継ぐのに差し障りが出よう、ともっともらしいことを言い出したんだ」


 会議から戻ってくるやいな、レオとセオフィラスを執務室に呼び、説明したサミュエルの表情は冴えなかった。

 未成年の少年兵を部隊長の元から離して動員するのはいかがなものか、と他の数人の部隊長と共に反論したが、子爵の取り巻きの部隊長達も多く、多勢に無勢であったと言う。

 男爵で他の者より一段低い身分の上、まだ三十路にも届かない若輩者であるサミュエルがあまり強く言えなかったのは無理も無い。


「・・・申し訳ない。俺の力が足りないばかりに」


 肩の力を落として、二人に謝るサミュエルを前に、レオもセオフィラスも互いに一度顔を見合わせた後、明るい顔を見せる。


「サム様、その子爵様のご意見も尤もですよ。人より若く爵位を継ぐからには、子供だからと言って甘い処遇を受けては後々さわりになるでしょう。僕自身、後年あのときは子供だったから碌な功績も無しに爵位が継げたんだと誹られたくはありません。それに、レオさんも一緒だから心づいよいし。往復10日の兵站遠征ですから。そんなに長期でもないですよ、大丈夫ですって」

「俺は元々最前線の衛生兵ですし、派遣先の部隊の事を少しは知っています。久方ぶりに医官殿に顔を見せるつもりで行ってきます」


 同様に明るい声と言葉は、サミュエルが少しでも負担に思って欲しくないが故のセオフィラスとレオの同じ気持ちからだった。

 少年達の無邪気さに、だがサミュエルは苦渋の色を浮かべたまま暫く黙り込んだ後。


「・・・無理をさせる・・」


 その一言だけを呟いて、うなだれた。



------------------------------------------------


 編成された部隊の中では、レオは子爵とその取り巻きから極東人と呼ばれるようになった。

 正直、良い気はしないが、ここで一々取り合っても面倒なので、レオは逆らうこと無く従うようにしていた。

 部隊の中でさぞや無理難題こき使われ揚げ足を取られるだろうと内心げんなりしていたが、予想と違いお門違いな指示はされない。

 レオの魔法使いとしての資質や、身の軽さを踏まえた上での仕事を振られ、他の兵士も特に彼に難癖を付ける様子もない。

 セオフィラスは伯爵家の子弟でもあるから、ことさら他の兵士とは違う処遇を受け、子爵の身辺で他の騎士達から適切な指示を受けて仕事をしている。


 実はサミュエルが絡まなければ常識人だったかと、セオフィラスもレオも内心予想が外れるやら、先入観にとらわれたことを恥じるやら、であったが、暫くすると子爵の取り巻き達から、レオは今まで聞いたことの無い言葉を投げかけられるようになる。


「お前のような卑しい極東人の身の上で子爵様に取り立てていただける名誉に感謝するんだな」

「子爵様の御仁徳の高さをその身にとくと感じることだ」


 なんだそれ、とは顔に出さずにいたが、流石に意味不明なので後でこっそりセオフィラスに問うと、彼の表情が思い切り不愉快と描いていた。


「あの子爵、そういう思想の持ち主だったんですか」

「なんですか?思想って」

「東方王国の一部の貴人にいるんですよ。砂漠とか草原とか、極東とかの異国人をことさら重用することで自分がさも徳の高い人間であることを標榜するって考え方」

「・・・だから、俺を一見ちゃんと扱っているように見せてたんだ」

「一見ちゃんと付き合っているように見えて、根本的に違う考え方ですからね。・・・私の父がとても嫌っているんです、異国人だから付き合うのも、排除するのも意味が一緒だって言って」


 まぁその実、と意地の悪い表情で少年の口元がつり上がる。


「商売上手の砂漠の民とか、空気の読めない武闘派の草原の民とか、世界観の違う矜持を保っている極東人とか・・・、良いように扱われて利用されている人も多いんですけど」

「"徳の高い自分"に酔っちゃうのか。確かに茶番ですね」


 ウッカリ笑いかけて、レオは表情を引き締めた。


「・・・・当事者として気持ちが良いわけでは無いですが、この遠征の間だけと思えばなんとかしのげます。正直、もっと嫌な扱いされると思っていたから、まだいいや」

「冷ややかに見てあげてください。・・・・国の一部の人のせいでレオさんに東方王国の者がどういう人物に見えるかと思うと、正直腹に据えかねますが」

「サミュエル様やセオ様、そして部隊の皆も東方王国の人だって、俺はわかっていますから。それに、ああいう手合いは東も西も関係なく居るものです。そういう意味では極東はもっと閉鎖的です」


 遠征の往路は、そのようにして過ぎていった。


 基の駐屯地から数日かけて戦の最前線にほど近い補給地点に到着すると、予定された通り補給物資を運び込む作業のさなか、レオはセオフィラスと共に子爵に呼び出された。


「お前は、ここから一番近い前線の陣地のことはよく知っているだろう?」

「よくという程知っているわけではないですが、最初に配属されたところです」

「リッテンベルグのご子息と共に、そこに伝令に行ってくれぬか。補給物資の到着の連絡の他に定期連絡もあるからな」


 少し、戦況は落ち着いていると聞いている。

 然し、それでも、自分はともかくあの状況にセオフィラスを連れて行くことに、レオは躊躇した。

 従って、命令とはいえ、正直に承服しかねるという顔を見せる。


「・・・・俺一人でも・・」

「子息には前線をご覧頂く良い機会だと思うが?」

「はい、承知いたしました。部隊長殿」

「セオ様っ」


 隣で、レオの葛藤をものともせずに承服したセオフィラスを自然とがめるように呼ぶことになる。

 なにも知らない少年従騎士は、努めて冷静な態度で子爵に礼を述べる


「このような機会を頂き、御厚情に感謝いたします」

「ここから数刻程度離れた場所だ。日没までには戻ってこれるだろう」

「はい、身支度をしてすぐに出発致します」


 セオフィラスは、隣のレオの視線に一瞥もくれず、子爵の命に服する。


「貴方は、あの前線を知らないでしょ!」

「だから見に行って来いって事じゃ無いですか」

「伯爵家の子息が物見遊山で行くところじゃないんですよ!」


 テントの中で、装備品を確認する手を止めて、セオフィラスはレオを軽く睨む。

 その表情の冷たさに、レオは自らの失言に今更気がつき、身を小さくした。


「僕が、この戦に物見遊山で参加しているって言いたいんですか?」

「・・・・そんなこと思ってないです」

「だったら、今の発言は僕に失礼だと、わかっていますよね?」

「・・・はい、申し訳ありません」


 子供っぽいとサミュエルは言うが、14の少年にしては随分と胆力があると思う。

 年上の筈だが、いつの間にか自分が気圧されていることに、レオは気がついた。

 剣を帯びながら、レオに背を向けて、セオフィラスは震え声で呟く。


「僕だって怖いですよ。・・・だけど、伯爵家って言ったって名ばかりで、その実あの子爵の家の方が寧ろ国内での発言力がある。僕だけの問題で戦場ここにいるんじゃないんです。この戦で、僕がもう当主としてちゃんとやれるってところ実績として見せておかないと、僕の家はますます追い込まれるんだ」

「・・・・・」


 そこまで言って振り返ったセオフィラスの表情は、いつもとように少年らしい無邪気さに満ちているように見えた。


「行きましょう、レオさん」



 補給基地での兵士達の作業を横目に、セオフィラスとレオは隊服の上に羽織ったマントのフードを目深に被り、目的とする陣地へと出発した。

 少し進んで、林の中に入ると二人を呼び止める声がある。

 補給基地に属する兵士だった。

 乾燥した携帯食料と少しの薬草等の細々とした物を二人に渡す。


「いくら何でも、あんた達みたいな子供に行かせるところじゃないって、言ったんだけど」

「・・どういうことですか?」


 兵士の表情から、ぞわりとしたものを感じて、レオは顔を曇らせた。

 後ろめたさに堪えられなくなったらしいその兵士は、胸の前で重ねた手を少し震わせている。


「ここ数日、あの陣地と連絡がとれないんだ。・・・数人だが、この近辺にも敵の気配がある。伝令も来ないし、何かあったんじゃ無いかっていう話になったときに、伝令にうってつけの者がいるから此方から様子を見に行かせようって、あの部隊長が言い出したんだ」


 それがこんな子供だなんて、と兵士はため息をつき、顔をあげると二人の顔をそれぞれ見つめる。


「無理をするんじゃ無いぞ。おそらく、その陣地はやられている。様子がわかったらすぐに戻ってくるんだ。・・・あの部隊長はあんた達が戻る前に、基の基地へ出発するつもりだ」



 なるほどね



 セオフィラスのつぶやきが小さくレオの耳に届く。



「これ、サミュエル様への嫌がらせでしょうね」






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