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流浪の民  作者: 仲夏月
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第14話



「お前か、レオと呼ばれる極東人は」



 とある日である。


 見知らぬ男は、彼を見るなりこう言った。

 たいそう身なりの立派な男である。

 周囲に取り巻きが幾人も居る。

 サミュエルより上官のように見えた。

 かなり良家の出なのかもしれない。


 同じ部隊に所属する兵士達と、兵舎に荷物を運んでいる最中のことである。

 

 誰だっけ・・・なんか偉そうだけど。ひょっとしたら貴族かな。

 レオは、目の前で、しみひとつ見つからない綺麗なマントを一瞥し、続いて抱えていた荷物を下ろした。

 このあたりの軍属の者で、これほど綺麗なマントは見たことがない。

 あまり前線に出ている様な地位の者にも見えなかった。

 

 "俺以外の上官風の者にあったら、ぼろが出ない程度にはしておけ。くだらない面倒事は好かぬだろう?"とかねてよりサミュエルから言われていたので、それなりにそつなく、兵士の挨拶を行う。

 

「はい、俺がレオですが」


 そう返事をしたら、ふんと鼻で笑われた。


「元衛生兵が良いご身分だな。お前のような卑しい身分の者を近くに置くサミュエル・ランドの気が知れぬ」


 あの、と困惑した表情で相手を見る。


「何か、御用でしょうか・・・」

「うぬぼれるな。貴様なんぞに用は無い」


 聞いただけなのに、ものすごく嫌な顔をされた。

 お前ごときに、この私が興味持ったと思われては不愉快だという雰囲気が如実に伝わってきたので、彼はそれ以上ぼろが出てはたまらないと口を閉ざした。

「昨今うわさの極東人がどんな顔をしているか、我が部隊を見に行くついでに寄ってやっただけだ。普段なら、貴様ごときがこの私の目に触れるだけでもめったにない機会だ」

「はあ、それはどうも」

 その返事は、当人よりもその取り巻きを激高させた。

「折角お声をかけてくださったものを。その態度は無礼だぞ!」

「まぁ、良い。所詮東の涯ての異国人だ。礼儀なぞ知るはずも無い」

 そういうと、ふっと口元だけで笑われた。

 目は、笑ってるというより、嘲りの笑いだ。


 なんか、昔、修道院にいたタイプに似てるなぁ。


 そりが合わないわけだ。とレオは納得する。

 へりくだるわけでもなく。恐れるわけでもなく。

 ほとんど興味を持っていない様子で貴族の笑みを見ていたレオに、相手は嫌そうな顔をした。

 恐れるか、こびへつらうか、愛想笑いをするかすると思っていたものと見える。

「サミュエル・ランドに、最近ご活躍がめざましいようだが、足元をすくわれぬようにお気をつけあれと伝えておけ」

「はい」

 最後に、もう一度レオを一瞥して、男は綺麗なマントを翻し、取り巻き達とともに去っていった。


「何?あれ・・」

「別部隊を率いている子爵様ですよ。自分より身分が下のサミュエル様の株が最近上がってるから、気に喰わないんでしょう」

 首をひねっていると、従騎士のセオフィラスが声をかけてきた。レオになにかと好意的にかまい、周囲からはレオになついているといわれているまだ14歳の少年だ。年下と言っても、レオもまだ18に届かないので、他の兵士から見れば年齢が近い子供同士でじゃれているように見えるらしい。半年ほど前から騎士に同行している。

「貴族で騎士といっても、サミュエル様の爵位は男爵ですから。何かにつけそのことを引き合いに出されて絡むんで、見てて気分が悪いんですよ。ここのとこ、特に」

「はぁ・・・」

「最近、軍の中でサム様の評価が上がってるから、自分の邪魔されたって思ってるみたいなんですよ。それに、レオさん、やっぱりちょっと目立つから・・。それで顔見に来たんじゃないですか? でなきゃ、わざわざこんな前線近くまで出てきませんよ。あんな染みのない天鵞絨ビロードのマントで戦が出来ますか」

 從騎士の少年が、珍しく鼻息荒く憤慨している。


 うわぁー、面倒くさそうー。


 サミュエルの気苦労がなんとなく想像できてレオは顔をしかめて頭をかいた。

「俺、目つけられましたかね?」

「気をつけたほうがいいでしょうね。レオさん。お名前も爵位も聞かないで、まーったく興味なしって顔してましたから。ちょっとあの方のプライドに触ったかも」

「・・・早く言ってくださいよ。それ」


 こういう所がトラブルの元だよな、俺。


 頭を軽く叩いて、まいったと息をついていると、そっと肩が叩かれる。

 

「はい?」

 顔を向けると、見習い騎士はにこっとレオを見上げる。まだ、成長途中でレオの肩くらいの背でしかない。

 帯びた剣がバランス悪く、大きく見えた。

「レオさん、暫くサボりませんか?」

「え・・・・?」

「夕方まで、僕、自由にしていいって言われたんです。折角なので、出かけたいのですが、一人で行動するのは外聞が良くないのでお供をお願いできませんか?」

 見習い騎士とはいえ、彼は何れ爵位を継ぐ者らしいとは他の兵士から聞いている。貴族たる者、供も連れずに出かけたりしてはいけないと周囲の者にとくとくと言い聞かされている少年の顔が期待に満ちている。

 なぜか、この顔にはかなわない。

 しらず、表情が和らいで、レオは首をかしげた。

「貴方のお供なら、仕事の内ですかね?」

「そうですね。僕の命令で供についたことにしておいてください。僕は駐屯地の移動以外で外に出ないし、実家に居るときもめったに外出などしたことがありませんでしたから、機会があれば市場などを見てみたいと思っていたのです。だけど、レオさんがなかなか捕まらなかったので」

「そういうことなら、わかりましたよ。お供になります」

 頷くと、少年は人懐っこく目を細める。

 

 そのときに、騎士の声が響いた。

 

「レオ、すまんが、少し付いてきてくれ」


 その声に、セオフィラスの顔がしゅんとなる。

 レオは、すみません、と苦笑いを見せた。

「どうやら、サム様のお供をしないといけないようです」

「その様ですね。残念ですが、またの機会にお願いします」


 少年は、屈託なく笑うと、レオとサミュエルを見送った。



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