朱田波美編・第3話:おうちデート、サメ映画鑑賞
水族館デートの後、朱田さんとの距離は少しずつ近くなっていった。今日は「おうちデート・サメ映画鑑賞」の日。
前日から張り切ってレンタルビデオを借りてきたり、部屋の掃除をしたりと、朝からずっとそわそわしていた。舞ちゃんはそんな私の落ち着かない様子に不信感を覚えたのか、朝からずっと機嫌が悪い。
朱田さんは19時過ぎ、マンションに到着した。玄関で出迎えた舞ちゃんに気づくと、朱田さんは一瞬だけ身体を強張らせた。「わんちゃん、平気なんですけど、ちょっと苦手で、、、」と苦笑い。舞ちゃんの方も、しっぽを振るでもなく、フンと一瞥しただけでそっぽを向いてしまう。この時の私は「人見知りなのかな」くらいにしか思っていなかったが、後になって、これが小さな伏線だったと知ることになる。到着早々、舞ちゃんに留守番をお願いし、二人で近くのコンビニへ。ソフトドリンクとお菓子を買って、すぐに部屋へ戻った。
戻ってみると、なぜかスリッパが裏返っている。きっと舞ちゃんの仕業だろう。あまり気にせず、その日にレンタルしてきたB級感満載のサメ映画3本立ての再生を始めることにした。ジャケットからして既に怪しい、竜巻に巻き上げられた巨大ザメがハイウェイを飛び回るという触れ込みの一本目からスタートする。
プラスチックの小さな四角いテーブルを挟み、横座りの朱田さんが色々と感想を語ってくれる。
「いっちさん、私サメ映画って、なんでもありで大好きなんです!」
「そう、そう、人生と一緒で何があるか予想できないよね、、。」
「いっちさん、でもね、サメが竜巻に巻き上げられて空を飛ぶのはさすがに無理があるんじゃないですかぁ、、、。」
「そう、そう、サメ映画は夢とロマンのファンタジーだから細かい事は気にしないで、、、。」
「いっちさん、サメに食われたことがありますか?」
「そう、そう、食われた事はないけど、乗船実習の時にサメのヒレを切った事は有るよ!」
「いっちさん、なんですか?ヒレって?詳しく教えてください。」
「中華料理の高級食材にフカヒレってあるでしょ、フカヒレって手の部分にあたるヒレとかしっぽなんですよ」
「海水浴してる時にサメが来たーって三角のヒレが見えて、皆さん食われるパターンのアレですよ!」
「いっちさん、はやくぅーもったいぶらずに教えてください!」
「まぁ、なんだ、それだ、遠洋漁業でマグロを釣る時にサメも釣れるから、、、。」
「いっちさん、説明を途中で切るの反則です!教えてください。」
「サメが釣れるじゃない。勿体ないからヒレを切って胴体は冷凍して、切ったヒレは船の外にロープを張って洗濯物を乾かす要領で乾燥させるんですよ」
「ヒレを乾燥させれば軽くなるしコンパクトにもなって、いっぱい保存ができるんですよね、遠洋漁業はヒレを持ち帰るだけで、乗組員全員に1〜2ヶ月分ぐらいのお給料額のお小遣いになるのが相場です。」
「いっちさん、本当なんですか?」
「サメ映画はファンタジーだけど、リアルなサメは大凡そのルートが定番ですよ」
「それでね、鮫肌って言われたりするでしょ?」
「サメの肌ってザラザラしてて、やすりのようになってるんですよ。」
「映画ではつるっとした感じに見えますが、ザラザラで本ワサビを削るおろし金ってサメの革で出来た物が最高級品なんですよ」
「いっちさん、適当な事言ってません?」
「イヤイヤ、本当かも知れない(笑)」
等と俯瞰する心が気仙沼地元愛の血を騒がせてしまった。
浮世離れした話で機嫌を損ねた朱田さんがサメ映画の話に持って行こうと少し必死になった。「いっちさん、いいの、こういうのはリアルな事よりツッコミながら観るのが正解なんです!でも、さすがにアタック・オブ・ザ・キラートマトには勝てないですけどね」と、変なところで冷静な評価を下す。
思わず「なるほど、なるほど」と黄金比を発動しかけて、いやいやこれはただの映画鑑賞だと我に返る。
私は、ご機嫌を伺うように「サメ温泉混浴秘湯編とか、成層圏を突き抜けて宇宙が舞台のスタージョーズシリーズができるらしいですよ、、、」などと言いながら、水野晴郎さんの物真似で、ちょっとオカマ言葉っぽく「いやぁ、サメ映画ってほんっとうにいいもんですね!」と締めくくる。二人でひとしきり談笑した。
——その時だった。
ガバッ!!
ずっと機嫌の悪かった舞ちゃんが、朱田さんに向かって突然ダイブした!
◆
「きゃっ!?」
飛んできた犬に驚き、勢いよく立ち上がる朱田さん。
その拍子に——足元へ、ペタッと何かが一個落ちた。
(ん……?なんだあれ……?)
私が目を凝らす間もなく、朱田さんは片腕で胸元を押さえ、右手は光さえ追いつかないほどの素早い動きで、それを拾い上げ、トートバッグへ叩き込んだ!かと思うと、震えてもいなければ光ってもいない、音も鳴っていない携帯電話を取り出し、パカッと開いてこう言った。
「もしもし、お母さん。嘘、お父さんが事故で輸血が必要?うん、すぐ帰る!」
そのままの勢いで、朱田さんは帰っていった。一瞬、一撃だった。見送ることすらできない状況に、私はただ唖然とするしかなかった。
サメ映画よりも凄い寸劇を見てしまった。感動した。
静まり返った部屋を片付け、布団に入ると、寄り添ってきた舞ちゃんに静かに語りかけた。
「舞ちゃん……言い訳はな、自己完結した方が勝ちパターンなんだよ……」
(次回に続く)
【ステータス更新】
誰も見てないのに一人で悲劇のヒロインぶってんの、マジでソロ活オスカー賞あげたいわ。
隠れ属性「ぼっちの神芝居」耐性、上昇。ハイハイ進んじゃお!




