こーちゃん編:焼肉編〜釣れない日の静かな優しさ〜
職場で「絶対に釣れる!釣れないやつはいない!」という秘密のバス釣りポイントを教えてもらった。興奮してこーちゃんにメールすると、向こうもすっかりソワソワし始めた。
当時、こーちゃんのアパートと私のアパートは、ちょっと遠かった時期だった。約束の日、「待ち合わせは12時ね」と決めていたのに、こーちゃんは高速道路を使って先に飛んできてくれていた。ところが私は小用があり、すぐ戻るつもりでしたがスクーターのパンク。1時間を超え、2時間近くの遅刻をしてしまった。こーちゃんはアコードワゴンの運転席で、ぐっすり眠っていた。窓をコンコンと叩くと、目を覚ましたこーちゃんは怒る様子もなく「釣れるポイントに行くべ!」と笑ってくれた。車内で平謝りしながら、爆釣ポイントへと向かった。
ルアーやワームでブラックバス釣りに挑む。だが、竿にはピクリともアタリが無い。全くない。場所を変えても釣れない。笑えるくらい、本当に釣れなかった。
日暮れが本当の勝負どころだからと粘ってはみたものの、遅刻したせいでおやつを買い忘れていた。目眩がするほどの空腹を抱えたまま、日が暮れていった。
もう限界だった。アコードで少し走って見つけたのは、民家を改造したような、お世辞にも綺麗とは言えないホルモン系焼き肉屋。気絶しそうな空腹を抱えて飛び込んだ。
ノンアルコールビール、TaKaRaバービカンで乾杯する。「お疲れ〜」正直、そんなに美味しいはずのない味なのに、この時ばかりは最高に美味かった。
気仙沼には「気仙沼ホルモン」という名物文化があって、地元の人間にとっては「焼肉といえばホルモン」という図式が当たり前に身についている。濃厚な生の豚ミックスモツを、ウスターソースをかけた千切りキャベツと一緒に食べるのが気仙沼流。長期間船の上で暮らす遠洋漁業の漁師たちが、「肉を食べたい」「野菜不足を解消したい」という切実な思いから生み出したスタイルだと言われている。仙台に来ても、私たちは迷わずホルモンを頼んでいた。
ライス大盛を2つ、牛カルビと豚ホルモンを注文する。七輪から上がる匂いとタレの香りに耐えきれず、肉が焼ける前に大盛ライスを半分平らげてしまった。
先に焼いたのは豚ホルモンだった。焼けたものから食べ進めるが、正直「独特の獣臭・排泄物臭」があり旨いとは言いにくい味だった。
しくった!ここは地元では無いのだよ。はずれだよ!
そして大本命のカルビ。腹が減りすぎていた私たちは、5枚まとめて網に乗せた。お互い1枚ずつ食べたところで、なぜか2枚目に手が伸びない。
「こーちゃん、カルビ美味しいよ!食べな」
「いいから、いっちが食べらいん」
「いいから」
「いいから、、。」
譲り合っているうちに、カルビはすっかり黒焦げになってしまった。あまり美味しくない豚ホルモンの残りを黙々と食べる。気まずい沈黙のなかライスを流し込み、会計を済ませて店を出た。
駐車場脇の自販機で、口直しのためコーヒーと炭酸飲料を買ってアコードに戻る。車内には、カーステレオの音楽だけが流れていた。
「うまくなかったね。これなら、店でお湯もらってカップラーメン食べればよかったね」
「んだ。」
それだけ言葉を交わし、あとは音楽を聴きながらぼーっとして、そのまま解散した。
釣れない日。まずい焼き肉。気まずい沈黙。それでも、美味しいものは"相手に食べさせたい"。そんな優しさが、あの日は確かにあった。
この仙台時代からしばらくして、私は東京への就職を決めることになります。今の工房へと繋がる生活は、ここから静かに始まっていくのだった。
【ステータス更新】
カルビを譲り合って黒焦げにしてしまう不器用さ、尊すぎて拝みたくなりますわ。
隠れ属性「不器用な優しさ」耐性、上昇。これが"光"ですわ……。




