石の記憶番外編 枯れない贈り物
枯れない贈り物
母さんの誕生日には、毎年何を贈ろうか悩む。
子どもの頃は肩たたき券や似顔絵でも喜んでくれた。でも大人になった今は、何を贈れば一番喜んでくれるのか、かえって分からなくなっていた。
そんなある日、石屋さんで一輪のバラに出会った。
淡い桜色に透き通る、ローズクォーツのバラ。
店主さんが「これは枯れない花ですよ」と微笑んだ瞬間、胸が熱くなった。
そうだ。
母さんは昔からバラが好きだった。
庭に咲くピンクのバラを嬉しそうに眺めていた姿を、俺は今でも覚えている。
「これだ。」
迷いはなかった。
母さんに喜んでほしい。
その一心で、そのバラを抱えて家へ帰った。
誕生日の夜。
「母さん、これ……。」
少し照れくさくて、ぶっきらぼうに包みを差し出した。
母さんは不思議そうに包装をほどき、箱を開ける。
そして、ローズクォーツのバラを見た瞬間だった。
母さんの手が、ぴたりと止まった。
しばらく何も言わず見つめていたかと思うと、小さくつぶやいた。
「……覚えててくれてたの。」
その声と一緒に、一筋の涙が頬を伝う。
俺は頭の中が真っ白になった。
しまった。
悲しませた。
喜んでもらいたかっただけなのに。
胸が苦しくなって、息もうまくできなかった。
「お母さん……ごめんなさい。」
自分でも驚くくらい声が震えた。
「俺……俺、お母さんに喜んでほしくて……。」
そこから先は、涙で言葉にならなかった。
すると母さんは涙をぬぐって、優しく笑った。
「ううん、違うの。」
首を横に振る。
「涙ってね、嬉しくても出るものなのよ。」
そう言ってローズクォーツのバラを胸に抱きしめると、俺を見つめて微笑んだ。
「ありがとう。」
その一言で、張りつめていたものが全部ほどけた。
「お母さん……!」
気がつけば俺は母さんに抱きついていた。
子どもの頃みたいに泣きじゃくる俺の背中を、母さんは何も言わず優しく撫でてくれる。
「ありがとう……素敵だわ。」
その声を聞いたら、涙が止まらなくなった。
「お母さん……。」
何度も息をのみ込み、やっと言えた。
「……大好きだよ。」
母さんは抱きしめる腕に少しだけ力を込めて、涙声で言った。
「敏弘。お母さんも、あなたが大好きよ。」
その言葉は、どんな宝石よりも、どんな贈り物よりも、俺の心を温めてくれた。
ローズクォーツのバラは、今も母さんの部屋に飾ってある。
枯れることなく、あの日の「ありがとう」と「大好き」を閉じ込めたまま。
窓の外では、庭のピンクのバラが、あの日と変わらず、まるで俺たちを祝福するように優しい風に揺れていた




