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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「黄金の大黒」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2025/12/10


落語声劇「黄金きん大黒だいこく


台本化:霧夜きりやシオン@吟醸亭喃咄ぎんじょうていなんとつ


所要時間:約30分


必要演者数:最低5名

      (0:0:5)

      (5:0:0)

      (4:1:0)

      (3:2:0)

      (2:3:0)

      (1:4:0)

      (0:5:0)



※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


彦兵衛:長屋ながやのリーダー的役どころの男。

    集められた理由を明らかにしようとしたり、羽織はおりを何とかしよう

    としたりする。


留公:長屋ながやのメンバーの一人。

   店賃たなちん(家賃)をかれこれ18年も滞納たいのうしているという、現代では

   ちょっとありえない男。

   まあ、そこまで滞納たいのうしても追い出そうとしない大家おおや大家おおやだが。


与太郎:落語の世界の与太郎はどの演目でも少し愚かしい、頭の働きがあ

    まりよろしくない役柄を与えられるが、このはなしでもそのとおり、

    店賃たなちん(家賃)はもらえるものだと思っている始末しまつ


梅吉うめきち長屋ながやの連中が全員集まるようにという話に疑問をいだき、番頭ばんとうから

   わけを聞いてくる、気のいた男。

   だがそのせいでこのはなしが幕を開けようというもので。


甚兵衛:長屋ながやが建った頃から住んでいるという、草分くさわけ的存在。

    ところが家賃やちんはその時に、しかも自分の親父の代に一回入れたっ

    きりという、とんでもない男。

    長屋ながやの中でただ一人、羽織はおりを持っている。


大家おおや長屋ながや三十六軒さんじゅうろっけん大家おおやさん。

   自分の家を建てようとしている普請場ふしんばで、自分の子供と長屋ながやの子供

   達が遊んでて黄金きん大黒だいこく様を掘り当てるという、とてもラッキーな

   人。


番頭ばんとう大家おおやの店の番頭さん。2セリフ。


大黒だいこく様:土中から掘り出された金無垢きんむくでできた大黒様。

    なんでそんなとこに埋まってたのかは謎。

    1セリフのみ。


住民1~8:長屋の住人ズ。

      各々1セリフずつ、1,5を甚兵衛役が兼ね、2,6を梅吉

      、3,7を留公、4,8を与太郎役がそれぞれ兼ねる。


語り:雰囲気を大事に。今回は1セリフのみ。



●配役例


彦兵衛:

留公:

梅吉・与太郎・語り:

甚兵衛・番頭・大黒様:

大家・枕:




枕:長屋ながやというのは昔から落語によく出てきます。

  貧乏長屋びんぼうながやと一口に言っても色々ありまして、例えば三日月長屋みかづきながや

  月見長屋つきみながやなんというのがございます。

  名前だけ聞いていると大変に風流ふうりゅうに聞こえますが、実態じったいはそうではな

  い。

  三日月長屋みかづきながやというのは、これはもう建物自体が大変に古くなってしま

  っていまして、上から見るってと三日月形みかづきがたってしまっていると、

  それをもって三日月長屋みかづきながやと言うんですな。

  月見長屋つきみながやというのは、屋根なんてものはもう飛んでいってしまってい

  て、うちの中にいながらにしてお月見つきみができてしまうと、そういう長屋ながや

  なんでございます。

  他にも戸無とな長屋ながやなんてのもあります。

  寒い冬になるってと、戸は大事だけど、それよりも火が大事だってん

  で、戸をはずしてそれを燃やして焚火たきびをしてしまう。

  で、戸がないからうちの中にいるのは寒い、じゃあおもてあったまろうとみんな

  ておもてへ出て行く、そんな長屋ながやは昔はずいぶんとあったんだそうで。


彦兵衛:なんでェなんでェ、朝っぱらからこうやって集まってよ。

    いったいどうしたんだ。


留公:うん、ほかじゃあねえんだ。

   大家おおやがな、皆そろって来てくれってんだよ。


彦兵衛:へえ?また花見でもやろうってのかい?


留公:よせよおい。花見は春だろうが。

   あれァもうりたからよそうじゃねえか。


彦兵衛:なんだか知らねえけどよ、こうしてみんな集まって来てくれって

    のは、「ちんたな」の催促さいそくかもしれねえな。


与太郎:なんだい、その「ちんたな」の催促さいそくってな?


彦兵衛:店賃たなちんのこったよ。


留公:まぎらわしい言い方するなよ。

   それで、店賃たなちんをどうしようってんだい?


彦兵衛:どうしようってこたァねえ、取ろうってんだろ。


留公:へえ、大家おおやの野郎が、店賃たなちんを、取ろうってのか?

   ふてえ野郎だ。


彦兵衛:ふてえこたァねえよ。

    しかし、今こうして店賃たなちんを取るつもりでいるってのは、どういう

    事だろうな?


与太郎:もう、長くないのかな?

    ろくな事がないね。


彦兵衛:なんだよおい。

    与太郎よたろう勝手かってな事を言ってちゃ困るよ。

    大家おおやだって苦しくなりゃ、ぜにが欲しいやな。

    何するにしたってぜにだよ。

    まあ俺の思うに、この中にまってる奴がいるんじゃねえかな?

    だから今から聞いてみようと思うんだがね。

    どうだい留公とめこう!お前さん、店賃たなちんの方はどうなってる?


留公:え、店賃たなちん!?

   【苦笑】

   …どうも、すまねえ。


彦兵衛:俺に謝ったってしょうがないだろ。

    どうすまねえんだ?


留公:うぅぅんんどうも面目めんぼくねえ。


彦兵衛:いや、どう面目めんぼくねえんだよ。


留公:どう面目めんぼくねえったって決まりが悪いや。


彦兵衛:なんだよおい、どうもはっきりしねえな。

    どう決まりが悪いんだよ。


留公:へへへ、なまじ一つやってあるだけに、どうも決まりが悪くって

   面目めんぼくがねえやな。


彦兵衛:なに言ってやんでェ。

    店賃たなちんなんざ月に一つ持って行きゃそれでいいだろ。


留公:よせよ。

   月々に一つ一つ持って行ってたら、あっしァ何もここで面目めんぼくねえな

   んて赤い顔して、ペコっと頭を下げてあやまる事はねえやな。


彦兵衛:まあそれもそうだな。

    おめえが面目めんぼくねえなんて言うからには、半年前かそこらに一つ

    持って行ったきりだろ。


留公:半年前?

   半年前に持って行ってたら、あっしァここで顔を赤くしてあやまる必要

   がねえよ。


彦兵衛:なら一年前か?


留公:一年前だったらどうにでもなる。


彦兵衛:二年前か?


留公:二年前だったらぐうとも言わせねえ。


彦兵衛:じゃあ三年前か?


留公:三年前に持って行ってたら、大家おおやの方で礼に来る。


彦兵衛:んなわけあるかい!

    三年前でもねえってんなら、いつ持ってったんだ?


留公:この長屋ながやに越して来た時に一つやったっきりになってるから、

   どうも面目めんぼくなくてよう。はは、恥ずかしいや。


彦兵衛:おいおいおいこの野郎~~おめえがしてきたのは古いぞ。

    どれぐらいになるんだ?


留公:そうだな、かれこれ十八年。


彦兵衛:かーッ、こりゃ驚いたねェ。

    十八年の間に一つだけってのはこりゃえれェもんだな。

    こうなりゃあきれ返るのを通り越して立派だよ。

    じゃあ、甚兵衛じんべえのとっつぁん!


甚兵衛:あいよ。


彦兵衛:おめえなんざ、長屋ながや草分くさわけだ。

    店賃たなちんの方は大丈夫だろうな?


甚兵衛:ああ、大丈夫。

    一つやってあるから。


彦兵衛:なんだ?同じのが出てきやがったぞ。

    まさか甚兵衛じんべえさんも十八年前ってんじゃないだろうな?


甚兵衛:あぁ、あたしの親父の代だね。


彦兵衛:おぉいおいおい、よけいにいけねえのが出てきやがったよ。

    おう与太よた与太郎よたろうッ!


与太郎:うん?


彦兵衛:おめえなんざぼんやりしてっけど、ぜにの事に関しちゃかてえから

    俺ァ好きだよ。

    店賃たなちんはちゃんとおさめてんだろうな?


与太郎:うぅん?


彦兵衛:いや、店賃たなちんはどうしたんだよ?


与太郎:うん、店賃たなちんてなんだ?


彦兵衛:よせよおい!

    店賃たなちんも知らねえ奴がここにいるぞ。

    これァあきれたね…大家おおやんとこに月々持ってくぜにだよ。


与太郎:うん、まだもらわねえや。


彦兵衛:この野郎、もらうつもりでいやがるよ。

    しかし驚いたね…どいつもこいつも同じようなもんだなァ。

    こりゃ聞いてもしょうがなかったよ。


    よし行こう!こういう時は行ってあやまっちまおう。

    頭下げちまえば小言こごとなんざスーッとその上を通っちまうからね。

    無いそでれねえんだ。さかさにったって鼻血も出ねえんだから

    しょうがねえや。

    無いものをとろうったって…おや、梅吉うめきちがやってきたぞ。

    どうしたんだい?


梅吉:ああ、行ってきたよ。


彦兵衛:どこに?


梅吉:いやね、急に長屋ながや三十六軒さんじゅうろっけんみんな集まれって言うだろ?

   店賃たなちんだったら困るからさぐり入れようと思ってね、タバコ屋のとこま

   で行ったら、大家おおやの店んとこの番頭ばんとうに会ったんだ。


彦兵衛:ほお、そりゃ助かるね!

    それでどうしたんだ。


梅吉:番頭ばんとうに聞いてみたら、長屋ながやの子供らと大家おおやんとこの子供が、

   大家おおやうちを建てる普請場ふしんばでもって、砂いじりして泥んこになって

   遊んでたんだ。

   そしたら土を掘ってる時になんかカチッと当たったものがある。

   何だと思って掘り出してみたら、大黒だいこくさんが出てきたんだと。

   家へ持って帰って洗ってみたら、これが金無垢きんむくだったってんで、

   大家おおやがたいそう喜んだんだ。   

   地べたから金の大黒様のご入来じゅらい、こんな年の暮れに来て目出度めでた

   ことはねえ、自分の所から出たので家宝かほうにする。

   それで祝いに長屋ながやの皆へご馳走ちそうするってんで、集まれってことだ。


彦兵衛:へええこれァ驚いたね。

    そんなことがあるのかねえ。

    おい皆、聞いたかい!心配することはねえよ。

    いやぁ何はともあれ、めしが食えるってなァありがてえじゃねえか

    。

    みんな、ご馳走ちそうだってよ!


与太郎:え、ご馳走ちそうてと、おまんまが出るのかい?


彦兵衛:うん?おまんまぐらい出るだろうけど、おめえんとこでおまんま

    食わねえのかい?


与太郎:へへ、もとは食ってたんだけどね…。

    ここんとこどうも景気が悪くてわらばっかり食ってたんだ。

    おかげでどうも目が赤くなって…。


彦兵衛:やだなおい。

    まぁいいや、みんな行こうじゃねえか!


梅吉:まあ待て待て。

   行くのは良いんだけどね、向こうが言うには大変に目出度めでたい席で

   ぜん付きなんてんだ。

   だから紋付もんつき羽織はおりの一枚でも着てぴたっと座って、おめでとうと

   祝いの口上こうじょうの一つでも言ってから席について欲しいと、

   こういうわけなんだ。


彦兵衛:えぇ…冗談じゃないよ。

    んなこと言われたってしょうがねえやな。

    そりゃまあ、向こうの気持ちも分かるよ。

    口上こうじょうぐらいなら口で済むこったからなんとでもなるけど、

    羽織紋付はおりもんつきなんぞ、長屋三十六軒ながやさんじゅうろっけんどこ探したってありゃしねえよ。

    ずいぶん前にいた噺家はなしかが持ってたけど、どっか行っちゃってそれ

    っきりだ。


    うーん、弱ったね…。

    どうだい、今ここに長屋ながやの連中が集まってるわけだが、羽織紋付はおりもんつき

    を持ってる奴はいるかい?


梅吉:話の途中だけどね…さっきから羽織はおり羽織はおりと言ってるけど、

   それはどういうものなんだい?


彦兵衛:え?そりゃ、着物の上に着るーー


梅吉:【↑の語尾に食い気味に】

   あぁ~分かった。

   着物の上に着る、前をこうひもで結ぶやつ。


彦兵衛:お~そうそう。


梅吉:で、そでが無い。


彦兵衛:ちゃんちゃんこだよそりゃ!

    そでがあるやつなんだよ。


留公:えぇじれってェ奴だな、ひっこんでろ!

   羽織はおりったら着物の上からこうスッと着るやつだろ?


彦兵衛:…なんだかさっきと同じようなのが来たぞ。

    まあ羽織はおるって言うくらいだからそうだよ。


留公:んで、そでがちゃんとある奴じゃねえかい?


彦兵衛:だからそでの無いやつは羽織はおりじゃねえよ。


留公:それだったらウチに一つあるけどどうする?

   持ってこようか?


彦兵衛:おっ、あるのかい!?じゃあ持ってきてくれよ。

    一枚でもありゃね、そいつを着て行って玄関先で口上こうじょうを言って、

    帰って来たらあとの奴がそれを代わるがわる着てまた行くんだ。

    で、最後に着て行った奴が、私だけ着てるのもなんですから脱ぎ

    ましょうか、とかなんとか言って、皆を呼んできてうわーっと

    上がってゴチになりゃいいんだ。


梅吉:でも、羽織はおり着回きまわしてバレやしないかい?


彦兵衛:わかりゃしないよ。同じようなもの着てるなって思うだけだ。


留公:うぅん、いいのかねえ…。

   もんが付いてんだよ。


彦兵衛:いや、祝儀不祝儀しゅうぎぶしゅうぎの場だったら、紋付もんつきの方がいいってもんだ。

    結構けっこうな事だよ。

    で、なにかい、三所紋みところもんか?それともいつ所紋ところもんかい?


留公:ううん、一つもんだよ。


彦兵衛:?一つってのはあんまり聞かねえな。

    そりゃどこについてんだい?


留公:背中に付いてるよ。こんな大きなの。


彦兵衛:背中?どんなのが付いてるんだ?


留公:丸に通るって字が書いてあるよ。


彦兵衛:バカ野郎、おめえそりゃ、印半纏しるしばんてんじゃねえか!


留公:えぇ、嘘だよ。


彦兵衛:嘘じゃねえよ。


留公:あれ紋付もんつきじゃねえの!?

   あっしァ紋付もんつきだとばっかり思ってたから、

   こないだ弟の婚礼の時に着ていっちゃったよ。


彦兵衛:しょうがねえなあどうも。

    ろくなのがいやしないよまったく。

    これだけ雁首がんくびそろってんだ。羽織はおりの一つくらいないもんかね?


甚兵衛:ちょいとごめんよ。

    結構けっこうなもんじゃないんだけどね、紋付羽織もんつきはおりならあるよ。

    どうかね?


彦兵衛:へえ、甚兵衛じんべえさんとこにかい?

    そりゃ結構けっこうな事だよ。

    で、品物はどんなだい?


甚兵衛:だね。

    あ、寒くはないよ。あわせになってるから。


彦兵衛:?あんまり聞かないね、のあわせってのは。


甚兵衛:夏場なつばで着てるけど、冬になると寒いから裏を打ったり、

    綿わたを入れたりしてるんだ。


彦兵衛:ほお、綿入わたいれってのはこりゃあすごいもんだ。

    一度見たいね。

    それで、もんは?


甚兵衛:もんは右が確か組橘くみたちばなで、左が丸に左三蓋松ひだりさんがいまつになってました。

    で、背中がーー


彦兵衛:おぉいおい、みんな違うのかい?


甚兵衛:しょうがないよ、集めもんなんだから。

    右半分は火事場で拾ってきたんだ。火事場へ行くとなんか落っこ

    ってるからね。

    左半分のほうは古着屋から持ってきたんだ。


彦兵衛:へえ、半分だけ置いてある古着屋のってのも珍しいね。

    で、どのくらいしたんだい?


甚兵衛:どのくらいって、別に金払ったんじゃないよ。

    声かけたけど誰もいなかったから、持ってきたんだ。


彦兵衛:そりゃ盗人ぬすっとじゃねえか。


甚兵衛:ええまぁ、そう言いやそういうことになるけどね。

    そう言う言い方はしない方がいい。


彦兵衛:なに言ってやんでェ。


甚兵衛:まあまあ、それを寄せ集めて羽織はおりが一着、出来あがったわけで。


彦兵衛:しかしまあ、よく質屋しちやに入れずに置いといたね。


甚兵衛:いや、実は質屋しちやに三度持って行ったんだ。朝日屋あさひやに。

    三度とも断られたんで、それっきりになってるんだけどね。


彦兵衛:ふ~ん、まぁなんでもいいや。

    じゃ、ひとっ走り行って持ってきてくれよ。


    あとは口上こうじょうだけど、こいつは弱ったね。

    この中で口上こうじょうを言えるのはいるかい?


留公:へへ、じゃああっしにまかしてもらおうじゃねえか。


彦兵衛:お?おめえにできるのってのかい?


留公:できるよォ。いいか、よく聞いてろよ。


   東西とざいォ~西ざいィ~~!!


彦兵衛:そりゃおめえ歌舞伎かぶきじゃねえか!

    しょうがねえなあどうも。

    お、甚兵衛じんべえさん、羽織はおり持ってきてくれたかい!


甚兵衛:ああ、これなんだけどね。


彦兵衛:どれどれ…。

    またずいぶんと汚いな。裏が古雑巾ふるぞうきんてのはどうなんだいこれ。


    まぁまぁ、なんとかなるだろ。

    ああそうだ甚兵衛じんべえさん、お祝いの口上こうじょうての言えるかい?


甚兵衛:あぁまあ、できなくはないよ。


彦兵衛:やっぱり、甚兵衛じんべえさんみたいな人がいてくれると助かるね。

    じゃ、ひとつお願いしますよ。


甚兵衛:わかったよ。

    それじゃ行ってくるから、皆さんひとつあとに続いていただくとい

    う事で。


    【二拍】


    ごめんください!ごめんください!


大家:はいはい、どちらさんかな?

   おや、甚兵衛じんべえさんじゃないか。よく来てくれたね。

   ささ、上へおあがり。


甚兵衛:ええ、本日はまことに結構けっこうなお天気でございまして。

    うけたまわりますれば、なんでございますか、お宅のお坊ちゃまと長屋ながや

    子供たちが普請場ふしんばで土遊びをしていた所、金の大黒だいこく様をり出し

    たとか。

    調べたら金無垢きんむくだそうで、これは何とも目出度めでたい、情け深い大家おおや

    さんだからこういう事があるんだろうなと、長屋ながやじゅうの評判で

    ございます。

    また今日は手前てまえどもにまでご馳走ちそうにあずかれるという事でござい

    まして、まことにお礼の言いようもございません。


大家:はっはっは…そんなにかた挨拶あいさつをされてはあたしも困るよ。

   さあさあ、とにかく中へ入っておくれ。


甚兵衛:そうですか、それじゃ失礼を…おや?

    あの、長屋ながやの連中は他には来ておりますか?


大家:いいや、甚兵衛じんべえさんが最初だね。


甚兵衛:あ、そうでございましたか。まだ誰も来てない。

    それはいけませんな。

    手前てまえのようなとしかさの者が先に来て座っているとさまになりません

    でな、一周ひとまわまわって、また長屋ながやの者を連れて参じましょう。


大家:おおそうかい。そうしてもらえると助かるね。

   ひとつ、頼んだよ。


甚兵衛:じゃあ、これで失礼をいたします。

    ごめんくださいまし。


    【二拍】


    行ってきたよ。

    どうだね?


彦兵衛:【手を叩いて】

    上手うまいッ!上手うまいねえ!

    このあと誰も行けなくなっちゃうくらい上手うまいよ。

    さすがは甚兵衛じんべえさんだ。

    じゃあ、このあと誰か行けるのはいるかい?


留公:おう、じゃ、あっしが行こう!あっしに行かして!


彦兵衛:留公とめこうォ?ほんとに行けるかァ?


留公:行ける行ける!いま聞いてすっかり覚えちゃった大丈夫大丈夫!

   あっしに行かしてあっしに行かして!


彦兵衛:…ほんとに覚えたのか?


留公:覚えた覚えた!しっかり頭に入っちゃったからほらほら羽織はおり貸して

   羽織はおり


彦兵衛:少し落ち着けよ留公とめこう

    …大丈夫かなホントに。

    じゃほら、羽織はおり着て。


留公:へへへそれじゃあの、ちょいと行ってくるからよ!

   あとに続いてもらって、ひとつ見習ってもらってよ!

   行ってくる!


   こんちわ!


大家:おお誰かと思ったら留公とめこうじゃないか。

   さぁさぁ、こっちへお入り。


留公:へへ、こんちわ!結構けっこうなお天気でございます!


大家:おぉそうだね、今日はまた大変にいいお天気になったね。


留公:明日もいいお天気でございます。


大家:まあそうだろうね。明日もいいお天気だろうね。


留公:明後日あさっては分からない。


大家:それは分からないね。

   それでどうしたんだ?


留公:【承りますれば、をうまく言えない】

   う、うけたまっ、う、ぅうけたかっ、うけたかたまにがたっ、

   うけけたかまっ、ちょちょっ、とにかく落ち着けっ。


大家:いや、お前が落ち着くんだよ。


留公:うっうけけたかまかりますっれっばっ、ははは…言えた。


大家:言えてやしないよ。

   うけたまわりますれば、って言おうとしてるんじゃないのかい?


留公:っそれそれそれ!

   そのあとなんて言うんです?


大家:いやお前が言うんだよ。


留公:ぁそうそうそうあのね、長屋ながやのお坊ちゃんと。


大家:長屋ながやのお坊ちゃんと?


留公:ぇ~お宅のガキだ。


大家:そりゃあべこべだろ。


留公:あ、あぁぁあべこべだった。

   え、ええぇとあの、金の大黒だいこく様をり出したってね。

   なんてがいいんでしょ。


大家:な、なんだいそのがいいんでしょってのは。


留公:だけどね、長屋ながやの連中も気がかねえってんだよね。

   その、大家おおやのガキをペーンと張り倒しといてね、その金の大黒だいこく様を

   持ってくりゃ、そいつをつぶして一杯やれたってんですよォ。

   また大家おおや大家おおやだってんですよねェ。

   そういう物を独りめにすることないじゃありませんかァ、っとに

   ねェ!

   そういうことをしてたら、将来ロクな死に方はしねえだろうなぁな

   んて、長屋ながやじゅうの評判でございやしてェっははは……

   、ここだけの話で。


大家:誰と話をしてんだいお前は…。

   まぁまぁ、お前の言う事にあたしがいちいち腹を立てるわけにも

   いかないな。

   さあさあ上がっておくれ。


留公:あの、長屋ながやの連中で他に誰か来てる奴はいますかい?


大家:うん?まだ誰も来てないよ。


留公:え、まだ誰も来てない?そりゃいけねえや。

   じゃああっしが長屋ながやをぐるっと一回りして、皆を呼んできますから

   。


大家:今それ、甚兵衛じんべえさんが行ってくれてるから、お前はかまう事ない

   上がって休んでておくれ。


留公:【焦っている】

   っあっしが上がると、あとの者が羽織はおりを着て来られないとでも思いま

   すかい?


大家:…?そんな事思いやしないんだけどね。


留公:~~…はばかり行ってきます…!


大家:うちのを使いなよ。


留公:えぇあいやいやいや!

   寸法すんぽうが合わないんですよォお宅のはばかりはァ!

   今ちょうどね、長屋ながやの共同便所からぜひ来てくれって知らせが届い

   ちゃったんですよ!

   だからこれから行ってきますからえぇどうもすいませんごめんなさ

   いィーーっ!


   どうだった?


彦兵衛:ダメだよあんなんじゃ!

    わかっちまうじゃねえか、しょうがねえなあ本当に。

    他に誰か口上こうじょう言える奴はいねえかい?


梅吉:ぺいッ!冗談じゃねえやな、本当に…ええ!?

   おめえ達ゃ江戸っ子だろうが!

   江戸っ子がぐだぐだぐだぐだ余計なこと言ってんじゃねえってんだ

   よ!

   ほら、羽織はおりを貸せ羽織はおりを!

   こういうのはな、パッと行ってくりゃいいんだよパッと行ってくり

   ゃ!

   よく見とけってんだ!


   こんちわ!!


大家:はいー?


梅吉:さよなら!!


大家:ん?んん!?えっちょっと…?

   …なんだかおもてでざわざわ言ってるぞ…?


   おぉいちょっと番頭ばんとうさん。ちょいとおもてを見てきておくれ。

   長屋ながやの連中がなんかやってるんじゃないのかい?


番頭:はい、なんだか長屋ながやの者全員集まって、一枚の羽織はおりを取りっこして

   ますな。


大家:なに、羽織はおりを?

   …番頭ばんとうさん、お前なんか余計なこと言っただろう。

   どうもおかしいと思ったんだ。

   別に羽織はおりなんか着てこなくたっていいんだよ。

   とにかく、いいから皆に上がってもらうように言いなさい。


番頭:わ、わかりました。


   あ~皆さん!


彦兵衛:!あっ!こいつはいけねえ!

    バレちまった…見られちまったよ…!


番頭:いや、さっきは私の言い方が悪かった。

   とにかくもういいから、みんな中へ入って上がって下さい。


彦兵衛:えっ、いいんですかい?


梅吉:なんでェ、必死こいて口上こうじょう言ってた俺たちがバカみてえだよ。


彦兵衛:おめえは挨拶あいさつしかしてねえだろ!

    まぁまぁ、口上こうじょう羽織はおりももういいって事だろ。

    じゃあこんなのいらねえや。

    ドブにでも捨てちまえ。


甚兵衛:ちょちょちょ、乱暴だな。

    羽織はおりをこっちへ返しとくれ。


彦兵衛:冗談だよ。

    よし、みんな行こうじゃねえか!


与太郎:へへへ、おまんまおまんま…!


彦兵衛:えぇどうも!大家おおやさん、こんちわ!


大家:はいこんにちわ。

   さぁさぁ、かまわないからどんどん上がっておくれ。


彦兵衛:あ、そうすか!

    どうも!


【以下、できればテンポよく】

甚兵衛:こんちわ。


梅吉:こんちわ!


留公:こんちわッ!


与太郎:こんちわぁ。


住人1(甚兵衛兼ね役):こんちわ!


住人2(梅吉兼ね役):クソジジィ。


住人3(留公兼ね役):こんちわー。


住人4(与太郎兼ね役):こんちゃッ!


住人5(甚兵衛兼ね役):死んじまえ。


住人6(梅吉兼ね役):こんちわあ!


住人7(留公兼ね役):ぜにおくれー。


住人8(与太郎兼ね役):こんちわ!


大家:…なんか三人くらい変なこと言った奴いなかったか…?まあいいや

   。さあさあ、どんどん入っておくれ!

   あ、梅吉うめきち梅吉うめきち


梅吉:へっ、なんです?


大家:いや、お前さんにあったら礼を言おうと思ってたんだよ。

   うちのせがれがのべつお前さんのうちに遊びに行くそうだね。

   あれもいたずらざかりだ、悪いことをしたら遠慮なく小言こごとを言ってお

   くれよ。

   大家おおやの子供だからって遠慮してるとね、かえってよく育たないから

   言わなきゃならないことはビシビシ言ってもらいたいんだ。

   なんだったらってもらったってかまわないんだからね。


梅吉:あ、そうなんすよォ。あっしもそう思うんだ。

   のべつお宅のガキ…お坊ちゃんがね、うちに来やがっ…おいで遊ばす

   んですよォ。

   こないだもそうですよ。お宅のクソガ…お坊ちゃんがね、

   うちにおいで遊ばした時にね、あっしはちょうど七輪しちりんに火を入れてた

   んで。

   そしたらまぁお宅のお坊ちゃんがね、「おじさん、この七輪しちりんの火を

   あたいのおしっこで消してやろうか!」なんてこう言う小生意こなまい

   可愛かわいらしい事を言う…おっしゃるんですよォ。

   あっしもカチンときたもんですからね、「消せるもんなら、消して

   …ご覧あそばせ!」ってこう言ったんだ。

   そしたらさすがは大家おおやさんのお坊ちゃんだ。

   人の言う事を疑うってのを知らないね。

   前をサッとまくるってと、小さいやつをちょいっと出してきて、

   シャー―っとね、火を消しちめえやがったんですよォ!

   こっちはあんまり腹が立ったもんですからね、思わずポンポンポー

   ンと三つばかりね、やったんですよ。


大家:【苦笑しながら】

   拳固げんこでかい?


梅吉:いや金槌かなづちで。


大家:えっ金槌かなづち!?

   おぉいおい冗談じゃないよ!

   道理どうりでこないだコブだらけにして帰って来たけど、ありゃお前さん

   がやったのかい!?


梅吉:【笑いながら】

   そォォなんですよォ!

   あれァあっしがやったんですよォ!

   別に礼には及ばねえ。


大家:そんな事に礼を言う奴はいないよ!

   しかししょうがない奴だね本当に。

   さあさあ、みんなどんどん入っておくれ!


留公:えぇ~お坊ちゃん、おりんごを一つ差し上げましょう。


大家:あぁあぁそんな事しなくたっていいんだよ。子供に物をあげないで

   おくれ。

   こういう場に来る時は手ぶらで来るもんだ。


留公:いえねぇ、いいんですよォ。

   今はばかりをお借りしましたらね、お宅の台所んとこにりんごが

   山のように積んであったもんですから、七ついただいて一つを

   お坊ちゃんに差し上げたんで。


大家:人のうちのもので何やってんだい。

   しょうがない奴だね。

   まぁまぁ、とにかくみんな奥からどんどん入っておくれ。


彦兵衛:ええ、それじゃ、座らしてもらいますよォ、どっこいしょのしょ

    っとォ。


甚兵衛:いやあ、これは豪華ですねえ…二のぜん付きてやつですからな。


梅吉:たいの塩焼き!こいつァ立派なもんだねえ!


留公:…面白おもしろくねえなァ。


梅吉:なんでェ?どうしたんだ。


留公:おめえのたいの塩焼きの方が大きいじゃねえかよ!


梅吉:なに言ってやんでェ、おめえのたいの方が厚みがあるじゃねえかよ!


留公:そうかい?

   まあでも、正直言うと俺ァ刺身さしみは食うけど、このたいの塩焼きてのは

   あんまり好きじゃねえんだな。


梅吉:そうかい。うちのお袋は塩焼きが大好きでよ。

   食わしてやったら寿命が延びるにちげえねえ。

   だからあっしにくれ。


留公:っとっとっとっとォ!!何しやがんでェ!

   俺のもんだぞ、手を出すんじゃねえよ!

   それにくれだァ?口のきき方を知らねえ野郎だな!

   欲しけりゃ値を付けろよ、値を!


梅吉:じゃあ十銭じゅっせん


留公:てやんでィバカ野郎!

   普通に買いや七、八十銭はちじゅっせん、ともすりゃそれ以上は取られよう

   って代物しろものだぞ!

   だが今日は負けてやらあ!うちのかかあが間男まおとこして逃げちまった

   記念日だ!

   さあ来い安くしとくぞ!


梅吉:なら二十銭にじゅっせん


留公:ダメでいッ!


梅吉:三十銭さんじゅっせん


留公:この野郎、ちびちびちびちびちび上げるんじゃねえよ!

   物を見て言ってもらおうじゃねえか物を見て!

   そんじょそこらでれるたいとはわけが違うってんだよ!

   三崎みさき本場ほんばれた目のした一尺いっしゃくと言いてえとこだが八寸五分はっすんごぶ

   さっきまでピンピンピンピン泳いでいて、たったいまご臨終りんじゅう遊ばし

   たってそういう代物しろものでェ!

   さあ来いッ!


梅吉:ん~、四十銭よんじゅっせん


留公;ダメでえッ!


梅吉;五十銭ごじゅっせん


留公:もう一声ひとこえッ!!


梅吉:六十銭ろくじゅっせんッ!


留公:売ったッ!!


梅吉:買ったッ!


大家:誰だそこでり売りやってるのは!

   ロクな奴がいやしないよほんとに…!

   お、寿司すしが届いたようだな。

   お寿司すしを奥の方へ持ってっておくれ!


彦兵衛:あぁはいはいはいはい!じゃああっしが預かりますよ!

    おうッ!食べたいものを言ってくれ!

    あっしが取って渡すからよ!


留公:おう、じゃあイカ頼むよ!


彦兵衛:お、イカ、イカね。

    じゃあそっちに渡すぞォったったッ!

    …落としちゃったよ。


留公:おいおいしょうがねえな!

   まさか拾ってこっちによこす気かい?


彦兵衛:とんでもねえ!

    落としちまったものを食わせたりゃしねえよ!

    これはあっしが頂戴ちょうだいして、と…むぐ、むぐむぐ……

    うん、うまい!

    お、そっちは何だい?


甚兵衛:それじゃ、コハダをお願いします。


彦兵衛:あ、コハダね!

    じゃそちらにコハダを渡すよォっったァーーッ!

    …また落としちゃったよ。いや、これはしりでできてるもんだ

    からね、つるっとすべっちまうんだよ。


甚兵衛:なんだい、そそっかしいね。

    いいからこっちによこしておくれ。


彦兵衛:いぃやいや!とっつぁんに落としたものは食べさせねえよ!

    これはあっしが頂戴ちょうだいするよォ、むぐ、むぐむぐ………。

    いやあ美味うまいねえ!

    あ、そっちは何だい?


与太郎:じゃあ、ゲソ。


彦兵衛:え、ゲソ?ゲソ、ゲソ…安いものが好きなんだね与太よたは。

    じゃ、そっちにィったったァァああ!!


与太郎:えぇぇ、また落としたの!?

    いいよ、よこして。


彦兵衛:いやいやッ!いくらなんでも落としたものを与太よたに食わせるわけ

    にはいかねェ!

    これはあっしが頂戴ちょうだいをォっむぐむぐむぐ…!

    【もぐもぐしながら】

    そっちは何だい?


梅吉:マグロもらえるかい?


彦兵衛:!マグロ!マグロマグロ…んふふふ…あっしマグロが大好物なん

    でェ!

    いまそっちにいっァアアアア落としたァァ!!!


梅吉:おいおいおいまたかよ!

   皆あいつに食われちまうぞ!


大家:何やってんだい…。

   寿司すしはまだあとからあとからどんどん来るんだから、皆めいめいに

   やっておくれ!


語り:さあそれからはドンチャンドンチャン大騒ぎ。

   お酒も入りましてはだかになって踊りだす奴が出てきます。

   これを最前からとこでじーっとながめておりました大黒だいこく様、

   何を思ったのかすくっと立ち上がりますと言うと、玄関の方へ

   とことことことこ歩き出したのでございます。

   驚いたのは大家おおやさんで。


大家:あっ、大黒だいこく様大黒だいこく様!どちらへ行かれるんでございます!?

   あまりに騒がしいんで、どこかへ行こうてんでございますか!?


大黒様:いやいや、そうじゃない。

    あんまり愉快ゆかいなんでな、仲間の恵比寿えびすも連れてくるよ。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


立川談志(七代目)

柳家一琴



※用語解説


祝儀不祝儀しゅうぎぶしゅうぎ

いわゆる、冠婚葬祭。


三所紋みところもん

背中と両胸に家紋が付いている。


いつ所紋ところもん

↑に加えて両袖に家紋が付いている。


印半纏しるしばんてん

屋号や家紋などの「印」を染め抜いた半纏のこと。

江戸時代には職人や商家の使用人が仕事着として着用。


夏物着物で使われる、織り目に隙間(絽目)がある透ける織物のこと。

通気性が高く涼しいのが特徴。


組橘くみたちばな

落語の世界における、三遊亭の定紋。


・丸に左三蓋松ひだりさんがいまつ

落語の世界における、立川流の定紋。


・はばかり

トイレ。


三崎みさき本場ほんば

主に神奈川県三浦市の三崎漁港を指し、日本有数のまぐろの水揚げ港と

して知られる。


八寸五分はっすんごぶ

約25.7センチ。

「目の下 八寸五分(めのした はっすん ごぶ)」は、真鯛まだい

最も美味しいとされる理想的なサイズを表す伝統的な言葉


一尺いっしゃく

約30.3センチ。





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