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十三

 この方法をためしたい。


 そう思ったのはテレビ番組だ。


強風で枝が折れた老木を再生させるため、樹木医がミズゴケを使っていた。


だからその日まで、せっせと乾燥ミズゴケをお小遣いでたくさん購入したのだった。


ホームセンターのレジの人は綾音を覚えてしまって、あきれたような感心しているような表情で「また三十個も? 全部で二百個以上になるんじゃない? 何に使うの? うちはもうかってうれしいけど」興味津々に綾音をのぞきこんだのだった。


「老木の根をこれで守るんです」


 真面目な調子で綾音は返答したが、その老木が木霊大御神だとは口にできなかった。


天然記念物だし、炎天下に低山とはいえ尾仁ヶ岳の山頂までミズゴケを運んでから水まきをする……などと聞けば止められるか、バカにされるのがオチだ。


実際、自分でも愚かなことをしている……と思う。


根を撤去する、と決まったことだ。そう決めたのが、県か、町かは知らないけれど。


乾燥しているから重量はたいしたことはないが、リュックにつめこむと固形パックのミズゴケはかさばった。


なにしろレンガ状に固められ、ビニール包材でパッキングされているのだから。


緑野学習塾で夏期講習がある日もない日も、綾音は大きくふくれたリュックを背負って木霊大御神が待つ場所まで登った。


数日かけ、何往復もしてミズゴケを運ぶ。


木漏れ日の部屋と名付けた洞の中に入れて、ビニール包材をはぎとって落ち葉にまぎらせ水を注ぐ。


そんな固形ミズゴケを百五十六まで数えたが、あとは分からなくなった。とにかく、あと一回往復すれば購入した分は全部、巨樹のもとへ届け終わる。


「十日以上、雨が降らない……」


 額の汗をぬぐって、木立の枝でさえぎられている空を見上げた。


 そばに木霊がいる気配を感じる。でも、姿は見えない。声も聞き取れない。


もうすでに、仮の姿をかたちづくる力さえ失っているのだろうか。声を風にまぎれこませる力さえも。




遊歩道入り口のベンチに置いておいた、最後のミズゴケが入っている紙袋が見えてきた。そこに四人の少年少女がいた。


「花蓮、大仏くんたち……それに、田原崎さん」


 思わず駆け寄る綾音に、花蓮が手を振る。ちわっす、と声をかけたのは大仏亮だ。そして、いきなり本題に入った。


「木霊大御神までの山道だけどさー、おれら五人がバラバラに水を入れたバケツを運ぶんじゃなくてさー」


大仏亮が言わんとしている内容を、兄の大仏大が監修して補う。


「尾仁ヶ岳、標高三二五メートル。ここ登山道入り口はおよそ二五メートル地点にある。だから頂上に根を降ろしている木霊大御神まで、三〇〇メートルを登らねばならない。つまり、ぼくたちはおよそ六〇メートル間隔で待機し、沢の水を入れたバケツを順次、受け渡しする。名付けて『すごく間隔があいているけど五人でバケツリレーがんばろう計画』だ!」


「え?」


「くりかえすよ、諸見沢さん。ぼくら五人で、『すごく間隔があいているけど五人でバケツリレーがんばろう計画』を実行しよう!」


 この日も炎天下だ。首筋に日差しが痛い。


 綾音はまじまじと四人をながめた。


 大仏大と田原崎哲子はどちらも敬明学園のロゴが入っている長袖のジャージ姿。イルカマークが入ったおそろいのキャップをかぶっている。


 ドレッドヘアをアップにまとめてサンバイザーをかぶっている西山花蓮は白い柔道着。ちなみに黒帯だ。


大仏亮もまたキャップをかぶり、真新しい純白の柔道着だった。帯と同じく。


 綾音は紺色のデニム製キャップをとると、首に巻いていたタオルでこめかみに流れる汗をおさえた。背中の空リュックをベンチに降ろす。


「手伝ってくれるの? すごくうれしい」


 笑顔を広げると、大仏大の頬が上気した。


だが、なぜ『すごく間隔があいているけど五人でバケツリレーがんばろう計画』とネーミングを? それに柔道着って?


「でも、どうして? わたし、みんなに呼びかけたわけじゃないけど……みんなだって色々と忙しいでしょうに」


「諸見沢さんへのサプライズです」


 田原崎哲子がポンと綾音の肩に手を置いた。


「まず、ご説明します。わたくしと大くんは共同で夏休みの自由研究に選択したテーマがございます。それは『分断はSDGsで克服できるか?』というものです。諸見沢さんは当然、SDGsには十七個の目標があることをご存知ですよね?」


「はあ」


 世界規模で起きている気候変動、貧困や紛争、感染症を克服し、人類が地球で安定して生活し続けるための『持続可能な開発目標(SDGs)』だ。


二〇三〇年までに達成すべき目標を十七個にしぼっている。


「落雷で傷ついた老木を水やりで再生することは、すなわちSDGsの十五番目の目標『陸の豊かさを守ろう』に通じます。しかも、老木の再生活動により、山の西側を大規模メガソーラー建設推進派と反対派で分断している地元の世論に、どのような影響が生じるのか……を知ることができるでしょう」


できるのか? 知ることが。


「……そう……かもね」


 曖昧な綾音に、田原崎哲子が勢いづく。


「同意していただけますね? もし分断が解消されれば、SDGsの目標十一番の『住み続けられるまちづくりを』に通じますし、木霊大御神が再生できたあかつきには、鎮守の森を流れる川から海へ運ばれる腐葉土の養分が魚のエサであるプランクトンを養いますから、やはり目標十四番目の『海の豊かさを守ろう』も達成できるのです」


「ぼくからも、手短に説明しよう」


 大仏大が肩を割り込ませる。そして口元に拳を当てて、こほんと咳ばらいをする。


「森はダム、という言葉がある。例えば森は洪水のとき水の量を減らし、流れる時間を遅らせる、ダムに似た自然の機能がある。そして森林土壌についても一言。地表は落ち葉などが分解されて、上質な有機物を大量に持っている養分をふくんだ土……これが森林土壌。その養分が川から海へ流れ、プランクトンのエサになり、プランクトンが稚魚のエサになる。だから海が豊かになる。しかし、むやみに森を伐採すると森林土壌は崩壊し、土砂をふくんだ雨水が山肌を荒らして削り取り、一気に海へ流れ込んでしまう。土砂災害をこうむると、浅海域の魚の産卵場も崩壊してしまうんだ。ぼくらの祖父は漁師で、『森を守らなければ漁獲高が減る』と言って、植林をはげんだこともあり……」


「タンマ。充分長いスピーチ、ありがとね~」


西山花蓮が両手を顔の前でバツ印に交差させた。そのバツ印を保ったまま綾音に顔を向ける。


「あたしは自由研究とか課題とかじゃなくってね。……こないだ綾音がラインしてきたじゃん? 木霊大御神が枯れていないって証明できれば、根っこが撤去されないんじゃないか……って。それを亮に伝えたの。で、亮が兄貴の大くんに。大仏大くんが田原崎てっちゃんに知らせた。で、いまここに集結したってわけ」


「わたしが知らないうちに、みんな色々と考えて……動いてくれたんだね……」


 感動している綾音に、花蓮と亮がうなずいた。


「まぁね。綾音が一人でがんばってんのに、手ぇ貸さないわけにいかないじゃん」


「うれしい、ありがとう……。でも、どうして二人は柔道着?」


「気合だよ、気合」


うなずいて鼻をこすったのは亮だった。


「おれ、まだ入部してねえけどさ。部活の一環で老木に水やりってカッコいいんじゃね?」


そうだろうか?


「とにかく、ぼくら五人は心を一つにしてがんばろう」


大仏大が声をかけ、拳を空に突き上げた。


「いまここに『諸見沢綾音さんと共に木霊大御神の根っこを再生させる会』結成だ!」


「そ、それは……」


 あまりにも恥ずかしいネーミングでは、ないだろうか……。


視線を感じてそちらを見ると、田原崎哲子のメガネが白く光っている。


 ささっと綾音を集団から三歩引き離すと、田原崎哲子が耳打ちした。


「お気づきですね? あなたのお名前が入った会を立ち上げた大くんは、まだあなたに深い憧憬と敬意を持っているご様子……。ですが、お忘れなきように。この課題テーマを思いついたのは、わたくしだということを! そして、肝に銘じてください。今はワンチームであっても、大仏大くんと自由研究を発表するおり、彼の隣に立つのは、わたくしだということを!」


「う……うん」


 ぎこちなくあごを引いた綾音に、満足そうに口元をほころばせてメガネのフレームを直した田原崎哲子だった。


「あの……手順というか、ちょっといいでしょうか」


 それぞれ渓流と山道に散ろうとしていた四人が、綾音の周囲に集まった。


 紙袋からリュックにレンガ状の物体を詰めこみ、その内の一つのビニール包材をはがしながら綾音が説明した。


「これ、乾燥したミズゴケなの。ホームセンターとかで売っている……。三百メートルくらいの低山でも、みんなで水を運ぶにしても、かなり負担だよね。効率よく根が水を吸収できないかもしれないし……。でね、テレビでこのミズゴケを使って傷ついた樹木の根をくるんでいるのを見かけたの。だから、これまでわたしはたくさんのミズゴケを木霊大御神の木漏れ日の部屋に」


「木漏れ日の部屋?」


「どこのこと?」


 四人を前に、あわてて綾音はうなずいた。


「勝手にそう名付けているの、わたし。あの巨木の幹が大きな洞になっているでしょ。あの洞のこと」


「ああ、三人くらい楽に入れるスペースになっちゃっているからね。天井はおっきな裂け目だけど」


「だから木漏れ日が入ってくる部屋か~」


納得してもらえた喜びが、じんわりと綾音の胸にしみる。


「ミズゴケをほぐして部屋の中や外の根元に広げて、そこに水をふくませればどうかな? って考えたの」


「いい方法だと思うよ、諸見沢さん。ミズゴケがスポンジになって水を吸うから流失しないし、時間が立てばそのミズゴケ自体が肥料になる」


「水と肥料兼用ってか。おまけに乾燥しているからたいして重くねーし」


 固形の乾燥ミズゴケを綾音から受け取って、ひょいと空中に放り投げて受け止めた亮が笑う。


「じゃ、まずはみんなでこれを木霊大御神のとこまで持っていこうか」


 花蓮がうながすと、すかさず田原崎哲子が空バケツ四つを重ねて亮と大の双子に手渡した。


「わたくしたち女子がミズゴケを運びます。男子はお水をお願いしますね」




 遊歩道では数人のハイキング客とすれ違っただけだった。


渓流の大岩を目印に、リュックや水筒を置く。


「荷物、盗まれないかな?」


「スマホと財布、定期とか貴重品は肌身離さずポケットかポーチに入れて移動。四リットル入りバケツは全部で四つ。女子はミズゴケ担当だから、ぼくと亮が水をくんだ二つのバケツを運ぶんだ」


「うひゃー、兄貴。人使い荒いぜ」


「つべこべ言うな」


「じゃっ、頼んだよ男子諸君」


 花蓮とハイタッチすると、亮は大からバケツを受け取った。


重いバケツを両手に下げた男子。乾燥ミズゴケをリュックでふくらませた綾音。同じく、ミズゴケを両手で抱えた花蓮と田原崎哲子が続く。


全員が橋を渡り切った。


群生するオカトラノオが白い花房を重たげに揺らしている。シダの茂みにヘビが這いこむ。


下草を踏んで木霊大御神が見える場所までには、頭上の枝を走り去るリスが三匹数えられた。


幹に大きな洞をかかえた巨樹が沈黙している。


樹皮がうねり、ところどころ黒ずんでささくれている。こぶのようにふくらんだ根の一部が地表に露わになって、落ち葉や落ち枝がくぼみに吹き寄せられていた。


(木霊さま……)


綾音は心の中で、そっと呼びかけた。


(あなたを助けたいと思っているのは、わたし一人じゃないんです)


木漏れ日の部屋に入った。


さっそく綾音たちは、ミズゴケを下ろして両手でもむようにしてみた。固くてぼさぼさだ。しばらくすると指先が痛みだす。


「水の中でやった方がよくね?」


亮に言われ、バケツの水につけて柔らかくする。今度は簡単にちぎれそうなほど扱いやすくなった。


「ほんとに部屋みたいだね」


 花蓮が感心して木漏れ日の部屋を見回した。


「秘密基地って感じだよな~」


「子どものころ、ぼくはこういう環境の勉強スペースに憧れていた」


「わたくしも……」


 上から降り注ぐ日差しを受け、四人がそれぞれの感慨をこめて吐息をつく。


 外では男子二人と花蓮が大地を這う根をミズゴケでおおうことになった。綾音と田原崎哲子は木漏れ日の部屋の内側を担当した。


「きゃっ」


 しゃがんでいた田原崎哲子が声を上げた。


 洞の内側の、暗がりを指さした。


「虫……虫が湧いていますわ……」


「木だから仕方がないよ」


 綾音がなぐさめ顔でささやいた。


「本で調べたけど、傷を負った樹木はその部分に雨水がしみ込んで、腐ったりかびたり、虫に食われたりするんだって」


「わ、わたくし、大くんと一緒に外で作業します」


「うん、お願いね」


 そそくさと去っていく田原崎哲子を見送り、綾音は木漏れ日の部屋の内側をそそり立つ樹皮を縁どるようにミズゴケを置いていく。


外と洞の内部にすべて湿ったミズゴケを配置し、バケツに余った水もまき終わった。


木漏れ日の部屋の入り口で、五人は集まった。


「さて、まずは第一段階が終わった。あとは『すごく間隔があいているけど五人でバケツリレーがんばろう計画』を実行するのみ」


 大仏大が腰を伸ばして左右をながめる。


「バケツを運んでみて考えたんだ。渓流からくんだ水を運ぶとき、どうしても多少はこぼれる」


「マジか」


「マジだ」


「じゃ、どーすんの」


「たっぷり四リットルなんて欲張らず、八分目くらいの水位で運ぶ。なにしろ六〇メートル間隔だ。負担は軽い方がいいと思う」


「おれら男子が女子より負荷があってもよくね? 運ぶ距離、長めに取ろうぜ」


「あたしはトレーニングになるから負荷ナシでいいよ」


 双子と花蓮がかけ合いの言葉を交わしつつ、妥協点をさぐっていたときだった。


「君たち、何をしているんだ」


 作業着姿の男が二人、こちらへ歩を進めてきた。脇にアイパッドを抱えている。どちらも胸に下げたプレートには『土木課』とあった。頭にヘルメットをかぶっている男は五十歳くらいに見え、タオルで髪をくるんでいる方は三十代だろうか。


 バケツを下げている綾音たち。木霊大御神の根をおおっているミズゴケ。それらをながめ、ヘルメットの男が言った。


「わたしたちは県の職員だ。この木は天然記念物に指定されている老木だ。勝手なことをしてはいかんだろう。なんのいたずらだ」


「ぼくらは敬明学園中等部の生徒です」


 大仏大が前に出た。


「実は夏休みの自由研究テーマに選んだ『分断はSDGsで克服できるか?』を試すために『諸見沢綾音さんと共に木霊大御神の根っこを再生させる会』を結成し、『すごく間隔があいているけど五人でバケツリレーがんばろう計画』を実行するところだったんです」


その恥ずかしい『計画』と『会』の名を、堂々と口にした。


「老木にいたずらなんかしていません」


二人の大人は顔を見合わせた。


「つまり、夏休みのガーデニングかな? とにかく帰りなさい」


「あなたたちは……県庁の人ですよね」


 大仏大の影から、そっと綾音が大人二人に声をかけた。一歩前に出る。


「この木を、丸ごと撤去するとニュースになっていますけど」


「そう、撤去作業の手順を決めるため事前調査に来たんだよ」


 割と気安い性格なのか、それとも中学生の五人に親切を示す必要を感じたのか。土木課の年配の男は腰に片手を当てて、アイパッドをもう一人に渡した。


 髪をタオルで包んだ男は、木霊大御神の根をアイパッドで写真を撮影しはじめる。


「ミズゴケ、か。ずいぶんと張り込んだもんだ。こんなにたくさん……かなりかかっただろう?」


「はあ」


 貯金していたお年玉も、いままでのおこずかいも……と綾音は金額を告げそうになってすぐ首を振った。


「根の撤去なんて、どうしてです? だって、完全に枯れたわけじゃないのに」


「うーん、痛いところを突かれたな。とにかく県議会で撤去が決まってしまった。どうしようもないね。……おい安田、幹の腐ったところと一番やっかいそうな太い根っこを撮影しろ」


「はい、課長」


 安田と呼ばれたタオルで髪をおおった男が返事をし、木霊大御神の裏へと去っていく。


「作業員ばかり貧乏くじだよ。この猛暑に山登りをした挙句、この巨木と格闘しなきゃならないんだから」


 不満そうな独り言をつぶやき、改めて顔を五人に向ける。


「さあ、分かったら君たちも山を降りなさい。ミズゴケはそのままでいいよ。どうせ落ち葉にまぎれるから。バケツは持って帰ってね」


 不承不承に顔を見合わせただけで、誰も動こうとはしない。


「さあ、早く帰るんだ。仕事の邪魔だよ」


業を煮やしたらしい課長の語尾が強くなる。


「待ってください」


綾音が食い下がった。


「会議で撤去の決定がされた決め手ってなんです?」


「土砂崩れの危険、山の外観を損なっているし、なんといっても枯れている。そう判断されたんだ」


「枯れている? そんなのうそです。この木は枯れてません。……樹木の幹は中央が『髄』。髄をくるむようにして、根から吸い上げた水や養分が通る『道管』があります。その外側にあるのは、葉が光合成で作りだした養分の通り道『師管』です」


「おいおい、理科の講義を受けにきたんじゃないよ。……まあ、この木は天然記念物だし、個人的には決議がくつがえってくれるとありがたいんだが……。実のところ土木課も頭を抱えているんだよ。第一、ここまで重機は登れない。もし重機が使えたとしても、バリバリ切り崩したら罰が当たりそうだ。なんといっても、みんなに親しまれて、名前までついている巨樹だしね……。『撤去は税金の無駄です』と主張したのだけど、会議の決定は決定なんだ。……ほらみんな、家に帰って」


 綾音は言いたかった。目に見えず、声は聞こえなくとも、いま現実に木霊がそばにいることを。妄想でも想像でもない。ベッドに顔をうずめた綾音に語りかけてきた木霊を。本棚が並んだ窓辺のカーテンを開いたとき、空中に存在していた木霊を。頬疵Zとドクロピアスの二人組を、一瞬で打ちのめしたあの存在を。


 世界の中では、ここはちっぽけな森にすぎない。


だからって理由になる? 木々の運命を、ヒトが勝手に書き換える理由に。


「……木霊大御神は、髄を大きくえぐられているとしても、まだ生きているんです……」


 足元がぐらつく。視界がゆがむ。耳鳴りがする。


 綾音は意識を失った。



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