三十路童貞、女子高生の好物を当てるまで帰れない
第一ミッションに大失敗した悠馬は、新たな地獄に突き落とされる。それは、「女子高生の好きな食べ物を当てるまで帰れない」という、まるで探偵のような、そして変態のようなミッションだった。監視役のドS女子高生・リナと、熱血漫画家志望の田中を巻き込み、コンビニメシをめぐる壮絶な心理戦が、今、始まる!
リナはイートインスペースに座り、スマホをいじりながら悠馬と田中を観察していた。その前には、おにぎりの食べ終わった後のゴミが置かれている。彼女の目には、二人の男が、餌を探すネズミのように見えていた。
悠馬は震える手で、コーヒーを飲んでいる女子高生を遠巻きに眺めている。リナの次のターゲットは、ショートカットの眼鏡の女子高生だ。彼女は参考書を広げ、真剣な表情で勉強している。
「タ、田中さん…!どうすればいいんだ!俺、女子高生が好きな食べ物なんて、分かりっこないです!まさか…!超能力とか使うんですか!?」
悠馬は絶望のあまり、漫画的な展開を期待し始めた。
「いえ、悠馬さん!」田中はノートを広げ、真剣な表情で言った。「これは『心理戦』です!彼女の食べた痕跡から、好きな食べ物を推理するんです!まさに…名探偵コナンも真っ青になるほどの推理!」
田中はそう言うと、持っていた虫眼鏡で女子高生を覗き始めた。
「なるほど!この筆箱!この付箋!ピンク!つまり、彼女の性格は『可愛いもの好き』だ!これはもう…いちごみるく系だな!」
「いちごみるくはダメです!前回、大失敗したでしょうが!」悠馬は田中の肩を揺すった。
「ははは!これは『リナ先生の罠』ですよ!いちごみるくを避けることで、我々は真の答えにたどり着けるんです!」
リナは二人の会話を聞きながら、ため息をついた。「二人とも馬鹿ですか?」
「悠馬さん」リナの声が、二人の間に割り込んできた。「彼女が今、何を食べているか、見てください」
悠馬と田中は、リナの指示に従い、女子高生を観察した。彼女は集中して勉強している。が、その手は…
「ポテト…?」
女子高生は、小さな袋に入ったポテトチップスを、真剣な表情で食べている。その様子は、まるで科学者が実験をするかのように慎重だった。
田中はノートに書きなぐった。「ポテトチップス…!これは…!『集中している時に食べるもの』!つまり、彼女はストレスに弱い!ストレスを紛らわすためのポテト…!ポテトが好きなわけじゃない!これは罠だ!」
「ち、違うんですか!?」悠馬は混乱した。
「違います」リナは冷静に言った。「彼女が食べた後、手を拭いたものに注目してください」
悠馬と田中は、再び女子高生を観察した。彼女は、ポテトを食べ終わると、手をウェットティッシュで拭いた。そのウェットティッシュには、油の跡と…
「ソース…?」
小さなソースの跡が付いていた。そして、その横には、使い終わったマヨネーズの袋が。
田中は絶叫した。「まさか…!ポテトの横に、フライドチキンの骨が!彼女はポテトとチキンをマヨネーズとソースで食べていたんだ!リナ先生!俺たちの推理は…見事に外れました!?」
リナは無表情で言った。「あなたたちは最初から推理などしていません。ただの妄想です」
そして、リナは立ち上がり、静かに言った。「今回のミッションは、まだ終わっていません。タイムリミットは、私が帰るまでです」
悠馬は絶望した。彼の戦いは、まだ始まったばかりだった。
悠馬は震える手で、コーヒーを飲んでいる女子高生が座るテーブルに近づいた。リナから「自然な行動を」という指示が飛んできたが、自然とは程遠い。彼はぎこちない動きで、まるでロボットのようにテーブルを拭き始めた。
「…田中さん、これ、完全に変質者ですよね…?」
悠馬は小声で、イートインスペースの隅から様子をうかがう田中に話しかける。田中はノートを広げ、真剣な顔でペンを走らせていた。
「なにを言っているんですか、悠馬さん!これは『現場検証』です!我々が探偵、彼女が被害者…いや、被検体だ!彼女の行動から『心の闇』を暴くんだ!」
悠馬は顔を青くした。心を読み取るどころか、自分が不審人物として通報される未来しか見えない。
女子高生は参考書から顔を上げ、悠馬の挙動不審な動きに気づいた。彼女は怪訝な顔で、悠馬を見つめている。
『ヤバい、警戒された!あの視線…!まるで獲物を見つけた猛獣だ!そうだ!俺は清潔さをアピールすればいいんだ!』
悠馬は突然、テーブルを拭く速度を上げた。**シャカシャカシャカ!**という効果音が聞こえてきそうな勢いで、テーブルを拭きまくる。
「落ち着け、悠馬さん!その拭き方は、まるで『自分の罪を消そうとする男』だ!もっと自然に!」田中が叫んだ。
しかし、悠馬のパニックは止まらない。彼は勢い余って、コーヒーの入ったカップに雑巾をぶつけてしまった。
ガッシャン!!
コーヒーがテーブルの上に盛大にこぼれ、参考書にかかってしまう。女子高生は驚き、悠馬は絶望した。
「あ、あああああ…!す、すみません!俺は…俺は…!」
悠馬はパニックで、何を言えばいいか分からなくなった。田中が叫んだ。「悠馬さん!チャンスです!ここで誠心誠意、謝罪するんだ!それが『ヒロインとの距離を縮める王道』だ!」
悠馬は田中のアドバイスを信じ、土下座をして謝ろうとした。しかし、その瞬間、リナからメッセージが届いた。
『謝る必要はありません。ただ、彼女がどう反応するか、観察してください。この状況こそ、最高のデータです。返金、賠償、すべて私が処理します。』
リナはそう言うと、悠馬の顔をスマホで撮影し始めた。女子高生は、突然土下座しようとする男と、それをスマホで撮影するもう一人の女を見て、悲鳴を上げそうになった。
「…や、やっぱり変質者だ…!」
女子高生はそう言い残し、急いで逃げ出していった。悠馬の顔は、血の気が失せ、まるで抜け殻のようになっていた。
田中はノートを閉じた。「…ダメだ。この結末は描けない…!」
リナは無表情で、スマホをポケットにしまった。「第二ミッション、失敗です。悠馬さん、あなたは『清潔アピール』という新しい武器を手に入れたものの、それを使いこなせませんでした。次回のミッションは…」
「もう、やめてください…」
悠馬は床にへたり込んだまま、か細い声で呟いた。彼の精神は、すでに限界を迎えていた。
リナは床に座り込んだ悠馬を見下ろし、冷酷に告げた。「ミッションは継続です。あなたは『女子高生の生態系』を理解していません。机上の空論だけでは、恋愛は成功しません」
そして、リナは新しい女子高生客を指差した。その子は、漫画雑誌と、お菓子の棚の前で悩んでいた。
「次のミッションです。あの女子高生が、最終的にどちらの商品を選ぶか、当ててください。それができれば、今日のミッションは終了です」
悠馬は絶望の眼差しでその子を見た。彼女は、週刊少年ジャンプと、期間限定の新作ポテトチップスを交互に手に取っている。どちらも、彼女にとっての「娯楽」だ。
「さあ、悠馬さん!今こそ、あなたの洞察力を見せる時です!」田中が叫んだ。「リナ先生は、我々に第二のチャンスを与えてくれた!これは…『選択のジレンマ』ミッションだ!」
悠馬は震えながら、田中とリナに質問した。「あの…、どちらを、選ぶと思いますか…?」
田中は、ペン先を顎にあて、真剣に考えた。「うーん…。漫画は『憧れ』、ポテトチップスは『現実』…!彼女は、今、現実から逃避したいんだ!つまり…漫画だ!」
「ち、違う!」悠馬が叫んだ。「彼女は、ポテトチップスを選ぶはずだ!なぜなら…!週刊少年ジャンプは、立ち読みすれば済むからだ!」
その瞬間、リナの瞳がわずかに輝いた。「…なるほど。面白い考察です。しかし、どちらが正しいか、見てみましょう」
女子高生は、迷いに迷った末、ポテトチップスと少年ジャンプを両方とも手に取った。
「…両方かよ!!」悠馬は叫び、田中は絶望した。
「ああ…!『二者択一』かと思いきや、まさかの『二刀流』だと…!?くそ、これは描けない…!」
田中は、鼻血を出しながら、その場に崩れ落ちた。
リナは無表情で二人を見つめ、言った。「二人とも、このミッションの敗者です。しかし、悠馬さんの考察は、ただの妄想だった田中さんより、少しだけ論理的でした」
リナはポケットから、小さなメモを取り出した。
「よって、敗者への罰です。悠馬さんには、明日、私の学校の文化祭に付き添ってもらいます」
「ぶ、文化祭!?」
悠馬は信じられない顔でリナを見つめた。それはまるで、子犬を拾おうとしたら、それが獰猛な狼だったかのような衝撃だった。
「はい。文化祭です」リナは冷酷な笑みを浮かべた。「あなたは『青春』という名の地獄を体験し、そこで『恋愛のレベリング』をしてもらいます。これが、第三ミッションです」
悠馬は、絶望のあまり、魂が抜けたような顔で立ち尽くした。彼の地獄は、まだ終わらない。むしろ、これからが本番だった。
「…文化祭…?」
悠馬の心は、完全に打ち砕かれていた。それは、まるで人生のセーブデータを消されたかのような絶望だった。
田中はそんな悠馬の姿を見ると、再びノートに書きなぐり始めた。「ああ、来たぞ…!主人公の『無気力モード』突入だ!『青春』という名のラスボス、そしてその舞台となる『文化祭』!これはもう、第二章だ!『絶望からの再起』編が始まる!!」
田中は興奮しすぎて、今度は口から泡を吹き始めた。
リナは無表情で、そんな二人を見つめていた。「明日、午前9時に、校門前で待っています。遅刻は、許しません」
そう言い残すと、リナは会計を済ませ、コンビニを出て行った。その背中は、まるで勝利した将軍のようだった。
悠馬は床にへたり込んだまま、リナが残した言葉を反芻していた。文化祭。それは、彼が最も避けてきた場所だ。キラキラした青春の光が、30歳の彼の心を焼き尽くす。
「…俺は、明日、何をしてしまうんだろう…」
悠馬の脳裏には、楽しそうにはしゃぐ女子高生たちの姿と、その中でひとり、不審な挙動を繰り返す自分の姿が浮かんでいた。彼の地獄は、まだ始まったばかりだった。
リナが去った後、静まり返ったコンビ二のイートインスペースに、悠馬と田中の二人が取り残された。
「ひぃぃ…文化祭…!」
悠馬は震えが止まらなかった。文化祭、それはリア充たちの祭典。青春の輝きが最も強い、彼の人生最大の敵だった。
「ああ、悠馬さん…!最高の舞台です!」
田中は興奮を抑えきれず、ノートに新たなタイトルを書き始めた。『第三章:文化祭・オブ・デス』。
「主人公が最も恐れる場所で、次々と降りかかる試練…!そして、そこで出会う新たなヒロインたち…!リナ先生は、分かっている!これが王道だって!」
田中は、まるで物語の結末を悟ったかのように叫んだ。
悠馬は、田中の妄想には耳も貸さず、ただ窓の外を眺めていた。夕焼けが、コンビ二のガラスに反射して赤く染まる。その色は、まるで血のように不気味だった。
「明日か…。俺の青春は、30歳にして、強制的に始まるのか…」
彼の心はすでに敗北していた。しかし、リナの冷酷な目と、田中の狂気じみた期待を背負い、彼はこの地獄から逃げることはできない。
こうして、三十路童貞の男の、人生をかけた第二章が、コンビ二の片隅で、静かに幕を開けたのだった。
あとがき
第二話をお読みいただきありがとうございます!今回は、コンビ二のイートインスペースを舞台に、悠馬と田中のポンコツコンビが暴走しました。リナ先生の容赦ないミッション、いかがでしたか?次回は、いよいよ悠馬が最も恐れる場所「文化祭」に突入します!一体、彼はどんな地獄を見ることになるのか…?そして、新たな登場人物は現れるのか…?ぜひ、次回の更新もお楽しみに!感想もお待ちしております!