イーハトーヴより幾光年
幼い頃から、光の帯は憧れだった。夜更け、満天の星の下、花巻の駅を、長い列車は通過する。それが北斗星だと知ったのは、児童館の図鑑でであった。
私は何度も乗せてくれるようねだった。両親も何度も駅に行った。だが、ついぞ乗る機会なく、北斗星は現役を退いた。
憧れの光の帯は、団体専用列車カシオペアクルーズ、そしてクルーズトレイン四季島となり、どんどん手の届かないところへと行った。
やがて人類は、夜空に光の帯を描くに至った。銀河鉄道ーーそれは人類の、そして私の飽くなき浪漫。無論すぐに乗れる代物ではなかった。
「退避! 退避! 1023M通過! 1023M通過! 退避!」
それでも私は手を伸ばす。そのために銀河鉄道の保線員になった。仕事はキツいし、危険も多い。それでも、目の前を轟音を立てて通過する光の帯を見れば奮い立った。あの列車が向かうは北十字か白鳥か鷲か、はたまた蠍かケンタウルか南十字か。私も、いつかは……!
「通過ヨシッ! 次列車通過1406! 次列車通過1406! 作業再開!」
そして再び作業を再開する。胸にシリウスのような輝きを宿して。