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お気に入り小説4

それが私をないがしろにした復讐

作者: ユミヨシ

ソフィアは、アデル王国の王妃である。

歳は20歳。政略結婚で隣国から嫁いできた。

先王が早死にし、結婚と同時に結婚相手のレイル王太子は国王になった。

歳は23歳。


それはもう、美しい黒髪碧眼の国王で、王国の黒水晶と呼ばれる程の美しさ。

鋼の肉体と、整った美貌は全土の王国民の憧れだった。


ソフィアは自分が平凡な容姿であることを解っている。

それでも、化粧をし、レイル国王の隣に並び立つ王妃として、頑張る決意をして嫁いできた。


互いの事は外交で一度、会ったきりの関係である。

初夜も、立ち合い人がいて、あまりにも義務的に過ごした一夜で恥ずかしかった。

それでも、自分は隣国の王女であった誇りもある。


レイル国王は、あまりソフィアに興味を持っていないようで、


「隣に並んでいるだけでいい。隣国の機嫌を取るための輿入れだ。私は側妃達がいれば十分だ」


三人の側妃達はソフィアと結婚後、すぐに後宮入りしてきた。

高位貴族の令嬢達であった彼女達は、それぞれの実家の支援の元、豪華な調度品を運び、美しいドレスを纏って、ソフィアの前に現れる。


「貴方様はお飾りでいればよいのです」

「国王陛下のお子は私達が産みますので」

「あまり後宮の事は口出ししないようお願い致しますね」


態度が酷くて、ソフィアは、泣きたくなった。


国と国の関係をよくする為の婚姻。

婚姻の先に幸せなんてない。


レイル国王は、仕事人間で、王太子時代から、前国王を助けて働き、国民から評判が良かった。


自国から、メイドすら連れてこられなくて、今の使用人達はよそよそして。

本当にひとりぼっちで。


レイル国王と共に出る夜会も、ぎこちない挨拶をしてしまって。


「王妃様は、本当に礼儀をしらない」

「こんなお方がレイル国王陛下の妻とは、まったく酷いものですな」


口々に悪口を言われる。


レイル国王は、悪口を言った人々に、


「隣国を怒らせる訳にはいかない。いかに礼儀知らずとは言え、悪口もほどほどにな」


礼儀知らずだと言われた。

誰も王宮の礼儀なんて教えてくれない。


女性が近づいて来て、足を引っかけられた。

思わず転んでしまう。


誰も助け起こしてはくれない。


胸に怒りがふつふつと湧いて来る。


わたくしは、栄えあるゼルド王国の王女だったソフィア。

泣き寝入りしてたまるものですか。


「わたくしを転ばせるとは無礼な。この女の首を刎ねておしまい」


兵に命じたら、レイル国王が慌てて、


「わざとやったんじゃない。首を刎ねろだなんて」


「わざとやったのではないですって?今、ぶつかったでしょう。足をわたくしの前に突き出して。恥をかかされたのです。死ぬ覚悟でわたくしを転ばせた。そうよね」


真っ青な顔をした女に問いかければ、女は平伏して。


「頼まれたのです。側妃マリー様にっ。恥をかかせてやれと」


側妃マリーは、


「わたくしは知らないわ」


しらばくれて。女はがたがた震えだす。


「申し訳ございません。王妃様。どうか命だけは」


「今回は見逃してあげましょう。でも、次回、同じような事をしたら」


女は頭を下げて、逃げて行った。


顔を上げて、周りを見渡して、わたくしはこの王国の王妃なのよ。

強くあらねば。強く。


レイル国王に囁く。


「今回は穏便にすませましたけれども、次に側妃様がわたくしを害することがあったら、ただではおきませんわ」


「あ、ああ、解った。注意しておく」



それにしても心もとない。味方が一人もいない状況は辛い。


先王の弟であるアシェルトに近づく事にした。


歳は30歳。妻を亡くして独り身の彼は、黒髪碧眼で、剣技に秀でており、王国の騎士団長をしていた。


「アシェルト様。わたくしの力になって欲しいの」


アシェルトは、騎士団長と言う役職と見かけでとても爽やかな男に見えるが、病弱な前王に代わって、国王になりたかった野心があったと聞いた事がある。


二人きりでこっそり、王宮の廊下で会って話をした。


「貴方の本心を聞かせて頂戴」


「本心とは何ですか?」


「貴方、国王になりたくないの?」


「そりゃ、なりたいが、王妃様は詰めが甘い。王家の影が見張っている所で、このような話とは」


「王家の影は貴方が管理していると聞いておりますわ」


相手の耳元で囁く。


「レイル国王を引きずり降ろしたいの。貴方が国王にならない?」


アシェルトはソフィアの腰を引き寄せて、耳元で。


「レイルは優れた資質を持った国王だ。それをどうやって引きずり降ろす?」


「事故を装って、殺しましょうか?いえ、寝たきりにするのもいいわね」


「それは素敵だ。その後、貴方を私が娶ってもかまわないって事ですか?隣国との絆は重要。貴方には王妃でいて欲しい」


「嬉しいですわ。アシェルト殿下。それではレイルを‥‥‥」




レイル国王に殺意が芽生える。

事故で寝たきりになってもいいわ。


側妃達も追い出して、わたくしはこの王国で生きる為に悪女になるわ。





レイル国王は今日も忙しく働いていた。

やる事は山積みである。


隣国の機嫌を取るため、ソフィア王女を王妃に迎えた。

側妃達と子作りもせねばならず、毎日、寝る間も無い程、忙しくて。


ソフィアや、側妃達に愛があるかって?

そんなものはない。

政略であって、恋だの愛だのに現を抜かしている暇はなかった。


いざという時に戦えるよう身体も鍛えたい。

鍛錬にも励まなくてはならない。


国王たるもの、誰かに恨まれたりするだろう。

それは覚悟の上だったが、まさか、ソフィアと叔父アシェルトに、危害を加えられるとは思わなかった。


馬車で視察に出かけた。


街で新たに孤児院を作るのだ。

その規模を町長と相談しようと、宰相と護衛達と共に出かけた。


古い教会を取壊し、ここに孤児院を作る。


まだまだ、この王国は貧しい。もっともっと、豊かにしなくては。

孤児達が増えないように。

俺はこの王国が好きだ。



教会の中に案内される。

いつの間にか一人になった。


護衛はどうした?何があった?


いきなり、背後から衝撃を感じて、そのまま気が遠くなった。



気が付いた時は、王宮の自分の部屋のベッドで寝ていて。

目の前にはソフィアと叔父のアシェルトが立っていた。


ソフィアは口端を歪めて、


「貴方には退位して貰います。わたくしは、アシェルト様と再婚しますわ」


「何を言って‥‥‥」


身体に力が入らない。


アシェルトは、


「貴方を寝たきりにするように、ナイフに毒を塗っておいた。王位は私が貰う。余計な事を話さないように、喉を焼きますかね」


「そうね。それがいいわ」



医者が近づいて来る。

レイルは数人の男に押さえつけられた。


ソフィアに向かって、


「そんなに私が邪魔なのか?ソフィアっ。私は王国の為に、一生懸命働いてっ」


「そんなのどうでもよろしくてよ。貴方、わたくしを、ないがしろにした。理由はそれだけで十分ですわ。わたくしの人生に貴方は必要ない。命だけは助けて差し上げましたの。諦めてこのまま静かに過ごしなさい。わたくしとアシェルト様の治世を見ながら、身悶えするがいい」


ソフィアの目に灯った深い憎しみ。

この女にどういう態度を取った?

ソフィアが恥をかいても、手助けもしなかった。

関係を良くしようともしなかった。


それがこのざまか。


医者が近づいて来る。

言葉を失う恐怖。

諦めて瞼を閉じた。





レイル元国王は生かしてある。

王宮の一部屋に閉じ込めて、彼は身を起こす事は出来るので、本を読んで過ごす生活だ。


アシェルトが国王に、ソフィアが王妃になった。


久しぶりにレイルの顔を見に行った。


ベッドから身を起こして、こちらを見るレイル。

やつれていて、その瞳は、自分を見て驚いていた。

そして身を震わす。


「あら、わたくしが怖いのかしら。」


その顎に手を添えて、指先でするりと撫で。


「アシェルト陛下とわたくしは上手くやっているわ。貴方が手掛けてきた事を、アシェルト国王陛下は、更に手を加えて、国民からの支持も得ている。貴方は安心してここで暮らせばいいのよ。殺しはしないわ。一生、孤独に苦しめばいい。

それがわたくしを、ないがしろにした復讐。」


扉を閉めて、その場を後にする。

廊下ではアシェルト国王が、待っていた。


「元夫に会いに行くとは、妬けるな」


「あら、わたくしの事を愛していてくれたの?」


「君は私の大事なパートナーだ。当然だろう」


手の甲に口づけを落とされる。


わたくしの心は死んでしまったの。

この王国へ来て、レイルに関心を持ってもらえなかった時から。


国王陛下。貴方の事は愛せない。だって、貴方はわたくしの鏡ですもの。

ねぇ。わたくしの顔を見てどう思う?罪の深さを感じないかしら。


貴方とわたくしは、互いに鏡。

罪の深さを背負って生きていきましょう。ね?アシェルト陛下。


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― 新着の感想 ―
有能だけど人の機微に超鈍感な人だったのね。 王妃以外のことでもいずれは破綻したんだろうなぁ。
レイルはゼークトの組織論で言う有能な働き者、なまじ自分が有能で出来てしまうために他人に頼ることができずに抱え込むタイプ 宰相とかに向いてそうだけど他へのフォローが足りなくて部下が苦労しますね、王には一…
側妃達も政略結婚で愛していなかったという事は、レイルは女性関係自体を面倒に感じているのでしょうね。 国のために身を粉にして働いている事を言い訳にして、隣国から迎えた妻を蔑ろにして放置していたレイルが、…
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