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逆行令嬢 9

山々の遥か向こうから、新年最初の陽の光が柔らかに差し込んできた。

冬の間は弱々しく感じる日光も、この時ばかりは特別な意味をもって世界を照らすかのようだった。


カーテンの隙間から差し込む陽の光を感じて、リリアナはいつもより早く目が覚めた。

起き上がると、暖炉の火の落ちた部屋のなかはひんやりしている。

ぶるっと身震いしたリリアナはベッド脇にあるローブを羽織ると、室内履きを履いて窓のほうへ歩み寄り、カーテンを開けた。いつもなら部屋付きのメイドの仕事だが、早起きしたことだし今日ばかりはいいだろう。


「・・・わぁっ!」


深夜に雪が降ったらしく、ふんわりした雪が公爵邸の庭園を白く彩っている。陽の光が反射してきらきらと輝く様子はとても美しく、眩しくもあってリリアナは紺色の瞳を細める。

毎日見ている景色なのに、まるで違う景色にも思えてうっとりする。


窓の外には風で粉雪が舞っていて、そのきらきら舞い散る雪の結晶に触れてみたくなったリリアアは背伸びして窓を開け放ってみる。

キンと冷えた空気と一緒に部屋に入ってきた雪をそっと手のひらにすくい上げてみたが、粉雪はすぐに溶けて儚く消えてしまった。


(ゆきのけっしょう、とってもきれい。きえないように、こんどハンカチにししゅうしてみようかなぁ)


窓を開けてはみたものの、寒くなったからと閉めようにも外に向かって開いた窓に手が届かないことに気づいたリリアナはぴょんぴょんと跳んでみたり背伸びをしたりするが、どうしても届かない。

椅子に乗ってみようと思いついて、椅子をずるずると引き摺っているタイミングでノックの音が聞こえ、扉が開いた。


「おはようございます、リリアナお嬢様・・・まぁまぁ、何をしておいでです?」


乳母のマーサは2人のメイドとともに入ってきて、目を丸くする。


「おはよう、マーサ。ちょっとね、ゆきにさわってみたくてまどをあけたの・・・それで・・・」


淑女らしからぬ行動だと気づいたリリアナはちょっと顔を赤らめながら答えた。

そんなリリアナの様子に困ったように笑った乳母は、手早く窓を閉めると冷えたリリアナの体をブランケットで包み込んで抱き上げるとベッドに座らせた。


「新年早々お風邪を召しては大変ですよ」


「うん、ありがとう」


その間にメイドたちはてきぱきと働き、暖炉に火を熾し、洗顔や着替えの用意を整えていた。

部屋が暖まるのを待ちながら、ホットミルクを口にする。

いつもより少し早く起きたせいか温かいものを口にすると少し眠気がやってきたが、顔を洗うと気持ちがすっきりする。


メイドが用意してくれたのはレモンイエローのドレスだ。スカート部分に同色の透ける布とレースが2重に重ねられていて、ふんわり膨らんでいるのが可愛らしい。


マーサがリリアナの髪を梳かしながら話しかけてくる。


「今日はずいぶん早起きされたのですね」


「なんだかめがさめちゃったの。でも、はやおきしたからすてきなけしきがみられたわ!」


「ようございましたねぇ、溶けてしまっては見られなかったですから」


「きたのほうではすごくゆきがつもるんですって。みてみたいなぁ」


「ご領地はひろうございますから、もう少し大きくなられたらご視察に行けるかもしれませんよ」


そんな会話をしながらもマーサの手はするすると動いて、リリアナの髪を結っていく。


「さ、出来ましたよ」


鏡に写る姿を確認すると、両サイドの髪を白いリボンと一緒に三つ編みに編んで、後ろでひとつにしてある。髪を全体的に結い上げるのは成人女性だけなのだが、リリアナは髪を流しているほうが好きなので大人になるのがちょっとだけいやなのは自分だけの秘密にしている。


「ありがとうマーサ」


「食堂へ参りましょう、お嬢様。今日は忙しくなりますよ」


乳母が先導して、リリアナは食堂へ向かって歩き出す。

今日は領内の首長達が新年の祝賀を述べに公爵邸へやってきて、夕方からは新年の宴が開かれるのでメイド達がその最終準備に追われている。

食堂のドアを開けると、リリアナの父母はすでに席に着いていた。


「おはようございます、おとうさまおかあさま」


「おはようリリアナ」


挨拶を交わしているところに、兄も食堂に姿を見せる。


「おはようございます、父上母上。リリアナもおはよう」


それぞれ着席して、朝食が運ばれてくる。

食前のお祈りを捧げてからみなそれぞれ食べ始めた。


やがて、公爵が口を開いた。


「今日はこれより、領内の首長達が我が家へやってくる」


朝食の手を止めて、兄弟はこくりと頷く。


「今年はリリアナの洗礼もあることだし、一足早いが首長達にリリアナの披露目も行おうと思う。どうだ?」


予想外のことを言われて、リリアナはとても驚いた。


「なに、数日早いが、首長達がこの屋敷に一斉に集う機会も1年のうちにそう多くない。披露目といっても顔見世程度だが・・・リリアナはいやかな?」


そう聞かれては是非もない。


「わかりました、だいじょうぶです」


「リリアナには、新しいドレスを誂えてありますよ」


すでにその事を夫から聞いてあり、準備をしていた母がにこりと笑う。


「父上、リリの披露目の場に私がエスコートしていってもよいですか?」


「もちろん、良いとも。父がエスコートしてもよいのだがな」


いたずらっぽく父が言うのに、レオンは急いで反論する。


「父上は母上のエスコートがあるではないですか!」


「ハハハ、そうだな。では我が家の小さなレディのエスコートはレオンにお願いしよう」


おにいさまのエスコートでおひろめですって!!


リリアナは嬉しくて、お披露目の様子を想像してうっとりする。そうして朝食は再開されたが、その後の家族の会話もろくに耳に入らない様子を兄にからかわれたのであった。

第9話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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