2人の令嬢〜婚約編〜 30
レオンを先頭にして5人が王太子の方へ近づいていくと、彼らの身分を知る令息令嬢が自然と道を空ける。
幼いうちから身分制度が自然と身に付いているのだ。
(便利といえば便利だけど・・・視線が煩わしいわ・・・)
セシリアは胸の内でこっそり息を吐く。領民が辺境伯家の者に気さくに声をかける環境に育ったので、どうにもこういう気取った雰囲気や人の顔色を伺ってくる様子に慣れない。
リリアナはというと、周りの令嬢とは違う意味でドキドキしていた。
(なるべく目立ちたくないのに・・・)
王太子殿下の目に止まらぬよう、ひっそりとしていたいところだが身分がそれを許さない。兄の言うように、さっさと挨拶を済ませてこの場を離れてしまえば周囲の令嬢達の多さで自分の存在を埋もれさせる事も出来るだろう。
ようやく王太子殿下の近くに行けた時には、彼は既に別の令嬢や子息から挨拶を受けているところだった。
「今日はよく来てくれた。第一王子のフレデリク・フォン・オルタナだ」
「この度はお招きありがとうございます。私、ランディール公爵家が長女プリシラと申します。殿下にお会い出来る今日の日を心待ちにしておりました」
「ふむ、ランディール公爵家か。覚えておくよ」
プリシラはパァッと表情を明るくして、次の瞬間そんな自分に気づいたように赤らめた頬に手を当てた。
「申し訳ありません・・・私ったら、淑女らしくないところを・・・」
恥じらう様子は可愛らしく、フレデリクは目を細めて笑った。喜ぶ様子を見せてしまったのが恥ずかしいとは、なんと可愛らしい令嬢か。
「いや、ここは懇親の場だ。気にしなくて良い」
周囲にいる令息達もそんなプリシラを微笑ましく見ているようだった。もっとも、プリシラに牽制された令嬢達や彼女と話していない他の令嬢達でさえ、そのあざとさに気づいて白けた眼を向けていたが。
そこへ、まずはレオンが近づいて行って王太子に頭を下げて礼をとった。
「失礼します。ご挨拶することをお許しください」
フレデリクはレオンの方を見る。
「レオンか。学友でもある君から改めて挨拶を、など。水くさいというものだぞ?」
レオンは顔を上げて苦笑する。
「学園内ならいざ知らず、貴方は王太子殿下であらせられます。ーーーこの度はお招きありがとうございます」
レオンに続いてロイドとアランも挨拶の口上を述べた。学友という事もあり、先に挨拶をしていた令嬢達の時よりも王太子の様子は気安いものだ。
少し空気が緩んだ隙に、レオンは切り出した。
「殿下。本日は我が妹と、妹の友人も招かれておりましたのでご挨拶を」
「ふむ」
レオンが後ろに控えていたリリアナとセシリアに目配せをして、それをうけて2人がレオンの斜め後ろに立つと揃ってカーテシーを披露する。
「アラモンド公爵家が長女、リリアナと申します。本日はお招きありがとうございます」
「ヴェルリンド辺境伯家が長女、セシリアと申します。王国の次代の太陽にお会いできて光栄です」
王太子は2人の令嬢に目を向けて、にこりと笑った。
「レオンの妹御に、ヴェルリンド辺境伯のご息女か。今日はよく来てくれた」
ゆっくりと礼を解いた令嬢達は、どちらも美しい。穏やかな春の陽のような柔らかい雰囲気のリリアナと、月の光のような清楚な雰囲気のセシリアに王太子は驚いたように目を見開いた。
だが、そんな王太子の視線を遮るようにレオンがさりげなく動いて頭を下げた。
「まだまだ、殿下にご挨拶をしたい方々が多くございます。我らにこれ以上殿下が時間を割かれることは皆様に申し訳ない。御前を下がらせて頂きたく」
「ぁ、ああ、そうだな」
レオンが言う間に、リリアナとセシリアは3人の令息の後ろに下がっていた。
「それでは、失礼致します」
「あぁ、楽しんでいってくれ」
レオンの妹とその友人だという少女の事は気になったが、レオンの言う通り挨拶のタイミングを待っている者達が多くいる。フレデリクは頭を切り替えて他の者達に目を向けたのだった。
フレデリクの側近くにいながら、その目に映らない位置にいたプリシラは、フレデリクの関心を引いたらしいリリアナとセシリアをギリリと睨みつけたが、既に背を向けていた5人はその目に気づくことはなかった。
レオン達5人はガーデンテーブルまで戻ると、ほっと息を吐いた。
「レオンお前、殿下にまでリリアナ嬢を隠すことはないだろう」
ロイドが呆れたようにいうと、レオンはしらっと告げた。
「なんのことだ。ちゃんと紹介しただろうが」
リリアナは恐る恐る言った。兄は自分やセシリアを守ってくれただけだ。
「ロイド様。私も緊張していましたから、ご挨拶できただけで良いのです」
「他に待っている者が多いのも本当だろう?殿下とて、リリアナやセシリア嬢にばかり時間をかけていられないさ。貴族として当然の気遣いをしたまでだぞ」
あくまで白々しく言い切るレオンにこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、セシリアのことも庇ったことに気付いたのか、ロイドはまったく、という顔をしながら引き下がった。
「殿下へのご挨拶も済ませたことだし、お喋りしましょう、リリ!」
空気を変えるように明るく話しかけてくれるセシリアにリリアナは笑顔を返した。
「そうね、シア!・・・そういえば、貴女が来たときから気になっていたのだけど、その花飾りはもしかして・・・」
「ふふ、思っている通りよ?リリからの、花をモチーフにしたドレスを作ったって手紙を読んで、せめて私も花言葉をお揃いにしようと思って」
楽しげにお互いのドレスや髪飾りについて話をする令嬢達を見ながら、レオン達はお互いに目配せした。これからは彼女達の傍らに立つ「添え物」の時間だと確認しあうやりとりだった。
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