2人の令嬢〜婚約編〜 29
リリアナとセシリアが座るテーブル席とかなり離れた場所に設置されたガーデンテーブルには、数人の令嬢達が楽しげに会話しながらチラチラと広間の方を見ていた。
「きっと、もう間も無く王太子殿下はおいでになりますわ。そうしたら、皆さんでご挨拶に行きましょうね」
そう言葉を発したのは、鮮やかな金髪に緑柱石のような緑の瞳を持つひとりの令嬢だった。少し垂れ目なところは優しげに見え、薄桃色の唇は花のようで、白い肌をした華奢な姿は庇護欲をそそる。纏うドレスは隣国から仕入れた高級な桃色の織物を贅沢に使い、フリルやレースもふんだんにあしらわれている。令嬢本人の見た目もあってまるでお人形のような可愛らしい姿である。
しかし、先ほどの台詞は周囲の令嬢達への完全なる牽制であった。抜け駆けは許さないと告げる瞳の光は可憐な容姿とは裏腹に剣呑なものだ。
「も、もちろんですわ。いついらっしゃるのか、気になってしまって・・・」
「ほら、他の方々も皆さまソワソワされてますわ」
同じテーブル席に座る令嬢達は少し焦りながら言い募る。緑の瞳の少女は目を細めて頷いた。
「王族へのご挨拶は、まずは高位貴族からなのが常識ですのに・・・懇親会とはいえ、貴族が集まっているのですもの。ねぇ?」
「そうですわね!その通りですわ」
この場を仕切る少女の名は、プリシラ・ランディール公爵令嬢。彼女の曾祖母がランディール家に降嫁した時に陞爵され公爵家となった家である。共和国の東に領を持つランディール公爵家は隣国との外交の要でもあるため、なかなかの権勢を誇る。祖父の代に分家から大聖女を輩出し、彼女が嫁ぐことで隣国との繋がりを確かなものとしたのだった。
ところが、その経緯故にランディール家は中央政界ではあまり印象がよろしくなかった。「大聖女をみすみす隣国に売り渡したに等しい裏切り者」と陰口を叩かれ、重要な役職を任ぜられることもない。
それ故に、ランディール公爵は娘に対してこう厳命した。
「よいか、プリシラ。お前が生まれ持ったその容姿と、洗礼で得た魔力と適正は我が家にとって重要な力だ。此度の懇親会では、必ずや王太子殿下の目にとまれ。王太子殿下の婚約者の座を射止める素地を作るのだ」
娘が婚約者の地位を得て、やがて王太子妃となれば、ランディール公爵家は王家の外戚となる。長く席が無かった中央政界へも進出が容易になるだろう。
「必ずや、ご期待に沿ってみせます、お父様」
そして、虫の1匹でも悲鳴をあげそうなおとなしやかな見た目だが、プリシラもまた野心に満ちていた。王都への憧れも人一倍強い。だからプリシラは、父からの厳命にたおやかな礼を返したのだった。
懇親会当日、会場に到着したプリシラは服装から当たりを付けて令嬢達に声をかけた。下位貴族に用はない。ある程度の上位貴族であっても、公爵家には家格で勝るはずもなく、令嬢達もまた公爵家の令嬢であるプリシラと知り合えたことを喜んでみせた。まだ子どもとは言え、貴族である以上はそれくらいは出来て当然なのだ。
そうしてプリシラは、自分のライバルになりそうな令嬢達へ予め釘を刺すことに成功したのだった。
そのまま令嬢達と談笑していると、視界の端に捉えていた広間の侍従達が動きだした。
(殿下のお出ましだわ)
さりげなく髪を撫でつけ、スカートのシワを伸ばす。微笑みを浮かべてスッと立ち上がった。
それと同時に広間のとびらが開いて、侍女が王太子殿下の入場を高らかに告げた。
「王太子フレデリク殿下のご入場です!これより殿下より、御来場の皆様へのお言葉を頂戴致します!」
場内の令息令嬢は皆立ち上がって礼をとる。
王太子は広間の中をゆっくりと歩いていき、続く庭園の手前に設置された台に乗って言葉を発した。
「皆、頭を上げて欲しい」
周囲が顔を上げるのを見て満足そうに頷くと、フレデリクは言葉を続ける。
「初の試みである懇親会への皆の参加を、王家としてとても嬉しく感じている。今日この日をひとつのきっかけとして、この国の将来を担う者達が互いを理解してゆける関係を築いていけることを願っている。皆、今日はこの場を存分に楽しんでいって欲しい」
そう言って胸に手を当てる王太子に、庭園の令息令嬢達が拍手を贈る。皆に向けて王太子が手を振ると同時に楽団が静かに演奏を始め、王太子は台を降りた。
その王太子の後ろを、挨拶のためにプリシラを始めとして皆が追って動き出したのだった。
リリアナとセシリア、そしてレオン達5人も、少し離れたところで演説する王太子の姿を見ていた。
(あのお方が王太子殿下・・・ここからじゃ、金髪なことくらいしかわからないわ)
(あれが王太子。教科書通りの王子様って感じね)
リリアナとセシリアはそれぞれ感想を抱いたが、2人に共通するのは『さほど興味がない』というところだろうか。
レオンは2人のーーー特にセシリアの様子をさりげなく観察していたが、セシリアの眼の奥に冷めた光があるのを認めて少し微笑んだ。先ほどの「さっさと終わらせましょう」という台詞に他意は全くないと確信出来たからだ。
「さて、では私達もご挨拶に向かおう」
そうして5人は、王太子の周りに出来つつある人垣に向かって歩き出した。
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