2人の令嬢〜婚約編〜 28
ロイドがリリアナとセシリアに必死に自分についての説明という名の釈明を繰り広げてはレオンとアランが突っ込みを入れるというやり取りの後は、和やかな席となった。
仲の良さそうな5人の様子に、リリアナとセシリアに声を掛ける機会を窺っていた令息達は諦めの息を吐き、レオン達につたない秋波を送っていた令嬢達は悔しげな目をしつつ令息達を見ていたが、やがてそれぞれ声をかけたりかけられたりしつつ別の場所に移っていった。
「まぁ、それでは皆様、学園でお知り合いになられたのですね」
セシリアの言葉にロイドが率先して答える。
「そうです、ヴェルリンド辺境伯令嬢。わりと仲の良いほうだと自分は思っています」
このセリフに令息2人は苦笑した。
「自分は、とはなんだ。ちゃんと友だと思っているとも」
「だから課題のノートも見せてやってるじゃないか」
「だからなんでそういう事をバラすんだ?!」
セシリアとリリアナはクスクスと笑う。
「やっぱりとても仲良しなのね」
「うん、そうよね」
それこそ仲が良さそうな令嬢達の様子に、アランは不思議そうに首を傾げながら聞いた。
「おふたりは以前からのお知り合いなのですか?」
2人の住む領は馬車で半月かかるほどの距離がある。不思議に思うのも当然だった。
「セシリア嬢とは、洗礼の時にお会いして仲良くなったのです」
「私は父と一緒に洗礼の時にアラモンド領を訪れていまして・・・」
騎士団と護衛の旅に同道したとは言わないセシリアに、リリアナとレオンは内心苦笑した。その気配にセシリアは気づいたが、澄ました顔をしてみせている。
ロイドはこほん、と咳払いしてセシリアに話しかけた。
「私は、ご令嬢のお父上であられるヴェルリンド辺境伯様に大変憧れていまして・・・兄君にも幾度かお会いしていますが、大変素晴らしい騎士だと尊敬しています。ご令嬢にお会い出来てとても光栄です」
「アルフォンス侯爵には父と兄が大変お世話になっていると聞いておりますわ。博識と名高いグッドフェロー伯爵のお話も耳にしております。リリアナ嬢とお友達になれて、リリアナ嬢のお兄様だけでなくお友達のお二人にもお会い出来て、この会に来て良かったと思っております」
どうやらロイドはセシリアとお近付きになりたいようだが、なかなかどうして守りが固い令嬢だ、とレオンはひっそりと感心する。令息3人それぞれを立てつつ、誰か1人に肩入れすることもない返しをしている。
「もっとも、今日のこの会に出向いた1番の目的はリリアナ嬢に会うことだったのですよ。ね、リリ」
にこやかに笑いながら、令息目的ではないと、ついでのようにサラッと釘を刺す辺りは流石である。
「私もシアに会いたかったわ!お手紙だけじゃ、やっぱり物足りなくて」
にこにこと笑うリリアナはその辺りの水面下のやり取りには気づかない。リリアナが鈍いというよりは、前世の記憶を持つセシリアだからこそなのだ。
レオンは紅茶を片手に、楽しそうに女子トークを繰り広げる2人を微笑ましく眺めながら、突撃をいなされて若干凹んでいる様子のロイドに話しかけた。
「こういう場の主役は女性なんだ。諦めろ」
「そんな事誰が言ってたんだ」
「母だ。この場合、男は女性の添え物として振る舞うのが正解だと」
アランが頷きながら言った。
「真理だな。流石公爵夫人だ」
「もっと早く教えてくれよ・・・」
ロイドは頭を抱えたが、再び果敢にセシリアに話しかけた。
「ヴェルリンド辺境伯令嬢!どうか自分の事はロイドとお呼びくださいませんか!」
「では私の事も、どうぞセシリアとお呼びください。アラモンド公爵令息、グッドフェロー伯爵令息もぜひ」
「ありがとう。私の事もレオンと」
「私のことも、どうぞアランとお呼びください」
再度の突撃もかわされたロイドは再び撃沈し、「だから添え物だと言っただろう」とレオンが目で語るのを見てさらに凹む事になったのだった。
そうこうしている間に招待客が全員揃ったようで、王宮から庭園に抜けてきた道に衛兵が立った。庭園の端にも目立たないような所に衛兵がいる。
(そろそろ王太子殿下がお出ましかしら?)
セシリアがそう思ったと同時に、公爵令息が口を開く。
「どうやらそろそろ王太子殿下がいらっしゃるようだ」
2人の友人も頷く。
「そうだな、衛兵が増えてる」
「王族がお出ましになるんだから、これくらいは少ないほうだよ」
流石と言うべきか、あんな気の抜けたやり取りをしつつも令息達は周りをきちんと見ていたようだ。
「王太子殿下がいらしたら、ご挨拶に行かなくては、ですね。お兄様」
リリアナが少し緊張を滲ませた声で言う。レオンはそんな妹を安心させるように笑いかけた。
「殿下がお出ましになって、他の令嬢達が殿下を囲む寸前にご挨拶しよう」
セシリアはレオンのその話に思いきり乗っかった。
「そうね、そのタイミングがベストだと思うわ!さっさと挨拶を済ませてしまって、またお話ししましょう?リリ」
どうやらセシリアも王太子殿下の目に留まるのは避けたいらしいと理解したレオンは、
「では、このテーブルの皆でさっさと済ませるか」
と言って笑った。不敬一歩手前である。
国の未来を担う上位貴族の令息令嬢達は頷き合って、王太子が現れるであろう広間の様子を窺うのだった。
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