2人の令嬢〜婚約編〜 27
「シア、こっちよ」
リリアナがにこにこしながらセシリアの手を引きながら歩く。やはりあの氷のような視線の主がリリアナの兄のようだ。一緒にいる令息2人も高位貴族だと一目でわかる。
一方、レオン達が座るテーブル席もまた注目の的となりつつあった。彼らの身分が人伝に伝わってしまったらしい。チラチラと視線を送ってくる令嬢がいる。彼女達のほうからは声をかけるのは幼なくとも淑女としては出来ないので、何とか気づいてもらおうとさりげなくテーブルの近くを通りすがったりしているが、3人とも男同士で会話して知らんふりを決め込んでいる。
敢えて言うならロイドはご令嬢に声をかけるのはやぶさかではないのだが、レオンとアランはそれを嫌がるのもわかっているので知らんふりに付き合っていた。
「リリアナ嬢と話しているのはご友人なのか?」
興味津々といった様子でロイドがレオンに問いかけると、レオンは肩をすくめた。
「あぁ。この場で会えたら私にも紹介したいと言っていたからこちらに向かってきてるんだろう」
「可愛いご令嬢の友達がまた可愛いのは正しい連鎖だな!俺お前と友達で良かったよレオン!」
「それにしてもリリアナ嬢は話に聞くより聡明な令嬢だったよ」
一人称が『俺』なのが普段のロイドだ。リリアナの前ではあれでも一応ちゃんとしていたのだ。調子のいいことを捲し立てるロイドに呆れた目を向けていたが、アランの言葉にレオンは頷く。
「そうだろう?会うたびに努力のあとがわかるんだ」
「そのリリアナ嬢のご友人も、ご同輩なんだろうな」
「さて。なにせ初対面だからな。ロイドは多分、驚くぞ?」
「へ?俺?」
レオンは答えず、意味ありげに笑って妹が来るのを待ったのだった。
「お兄様、アラン様、ロイド様。急に席を立ってしまって申し訳ありませんでした」
リリアナはテーブル席に戻ってまずは頭を下げた。兄は事情をわかっているが、令息達には突然の行動に見えたろうし、失礼な行動にも見える。
令息2人はそんなリリアナに笑いかけた。
「いえ、リリアナ嬢。ご友人がいらしたのでしょう?」
「そうですよ、どうぞお気になさらず」
兄も微笑んでくれている。きっと2人に対してフォローしてくれたのだろう。兄に少し笑いかけて感謝を伝える。
「私の友人も、こちらのテーブルに同席してもよろしいですか?」
「もちろんだ」
リリアナは後ろに慎ましく控えていてくれたセシリアの手を引いた。
「こちらは、私の友人のセシリア・ヴェルリンド辺境伯令嬢です」
リリアナの紹介を受けて、セシリアは淑やかにカテーシーを披露する。
「初めまして。ヴェルリンド辺境伯家が長女、セシリアと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
レオンとアランも完璧な作法で応じる。
「初めまして、ヴェルリンド辺境伯令嬢。私はリリアナの兄、レオン・アラモンド。こちらこそよろしく」
「初めまして。私はアラモンド公爵令息の友人で、グッドフェロー伯爵家嫡男のアランと申します。よろしくお見知りおきを」
令息2人が挨拶を終えても、残る1人の声が聞こえない。やれやれと思いつつレオンがロイドを見ると、あんぐりと口を開けているのが見えた。
パクパクと口を動かして、ロイドは叫んだ。
「ヴェ、ヴェルリンド辺境伯家?!あの?!」
セシリアはにこりと笑う。
「あの、がどれのことかはわかりませんが、私はヴェルリンド家の者です」
その言葉を聞いてハッと何かに気づいたように、ロイドは慌てて礼をとった。
「大変失礼致しました!俺・・・じゃない、私はアルフォンス侯爵家嫡男ロイドと申します!」
「まぁ、アルフォンス侯爵家の。侯爵様には我が兄のひとりがお世話になっております」
セシリアにとって2番目の兄が所属する第4騎士団の団長を務めているのがアルフォンス侯爵だ。国内でも有名な武門の一角である名家である。
この様子だと次兄か父のどちらか、もしくは両方に憧れているとかそういう話だろう。
レオンが楽しそうに笑いながらロイドに言った。
「だから驚くと言ったろう?」
「性格が悪いぞレオン!知ってるなら先に言えよ!バカみたいな顔晒しちまったろうが!」
「私もまだお会いしていなかったご令嬢の話を勝手にするものでもないからな」
「レオンもロイドもいつも通りなだけじゃないか?」
「アラン!お前くらい俺に味方しろよ!」
令嬢2人はその様子を見て、目を合わせてクスクスと笑いを漏らす。
笑い声に気づいたレオンは、すました顔で令嬢達に席を勧めた。
「失礼、レディーを立たせたままで。こちらへどうぞ」
立ち上がってスマートに椅子を引くレオンに、リリアナもセシリアも微笑んで礼を言う。
「美味しいとこだけさらっていきやがって・・・」
恨めしげな目でレオンを見るロイドに、令息達は言った。
「レディーの前だというのに、言葉遣いがいつも通りだぞ?」
「痴漢で粗暴では救いがないぞ」
「誰が粗暴な痴漢だ!!レディー、すいません、自分は断じてそんなんじゃないですからね?!」
仲の良い令息達のやり取りを聞いて、ついにリリアナとセシリアは声をあげて笑ったのだった。
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