2人の令嬢〜婚約編〜 24
王宮の大手門へ続く大通りは、懇親会へ参加する貴族の令息令嬢を乗せた馬車が列となって続いていた。
懇親会まで時間に余裕はあるが、早めに王宮に入っておこうという者が多かったということだ。
これが夜会であるならば、家格によって通される門が違う上に案内される時間すら配慮されるので、このように門に至る前から待たされるような事態にはならないのだが・・・
(この様子ひとつ見ても、急拵えの集まりと知れるな。夜会と日程を無理に合わせたせいか)
馬車の窓越しに外を見やりなが、レオンは内心でため息を吐く。段取りの悪さが際立っているが、王宮内のこと、警備はしっかりしていると思いたい。
「随分たくさんの家が招かれておりますのね、お兄様。馬車がこんなに並んでいるのは初めて見ます」
薄オレンジのドレスの上に白いショールを羽織ったリリアナは、窓の外を物珍しげに眺めていた。
リリアナにとっては初めての王都なので、見るもの全てが新鮮に映る。
そんなリリアナを見てレオンは微笑んだ。
「そうだな。多分、大手門を通り過ぎてしまえばあとはスムーズだと思う」
恐らく門で家名や人数を確認しているのだ。それが終わればスムーズだろうが、こんな段取りを組んだのは誰なのか問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。
それでも、窓の外に見慣れないものや店を見つけては「あれは何ですか?」と質問してくるリリアナに答えていると苛ついた気持ちも穏やかになってくる。
どうやら懇親会でリリアナを守る意識が気持ちに余裕を無くさせていたらしいと気づいて、レオンは肩の力を抜くべくそっと息を吐いた。
「あ、お兄様、あのお店は?」
「あそこは王都で有名な魔道具店だな。なかなか面白い品揃えだぞ」
「まぁ、魔道具店?」
「平民も使っている生活魔道具から王族が使うような希少な品まで、色々置いてあった。僕も寮で使うランプなんかをあの店で買ったよ」
「何だか楽しそうです・・・!」
目を輝かせながら言うリリアナに、次の帰省にはあの魔道具店で何か土産を買おうとレオンは考えた。きっと喜んでくれるだろう。
その後しばらく兄妹で会話を交わすうちに、馬車は大手門に到着した。
御者が家名と人数を告げ、名簿を確認した文官らしい男が頷くと馬車は再び動き出す。
そうして、ようやく王宮へ到着したのだった。
馬車を降りたリリアナは、レオンが差し出してくれた腕に手を乗せて、先導する侍女の後に続いて歩いていた。
キョロキョロするのははしたないので我慢したが、それでも王宮は壁も柱も廊下も全てが煌びやかだった。大理石の床はピカピカだし、彩色された柱も美しい。壁には模様が彫刻されていて、夕方や夜は灯りを映して別の美しさがあるだろう。
そうして案内されたのは、100人は入るだろうと思われる広間に続く美しい庭園だった。
「本日は、こちらの庭園でのガーデンパーティーとなっております。お疲れになりましたら広間の方に休憩スペースがございますのでそちらもどうぞお使いください」
王宮の侍女はそう言って一礼するともと来た廊下を戻っていった。
庭園は春の花が咲き乱れる美しい場所だった。あちこちにガーデンテーブルと椅子が配置され、ケーキや菓子類、サンドイッチなどの軽食が用意された大テーブルも何箇所か置かれている。
すでに30人を越える貴族の子女の姿があったが、楽しげに話しているのは数人だ。他の子ども達はどこか所在なさげにしていて、周りの様子を眺めていた。
「とりあえず座ろうか、リリ」
「はい、お兄様」
レオンは広間から離れた位置にあるテーブルにリリアナをエスコートした。この席からは会場全体が見やすい。
椅子に座ると、近くにいた給仕係がやってきたので、リリアナは紅茶を頼んだ。さすがに王宮で出される紅茶は一級品で、香りも味も格別だ。馬車で待っている間にすっかり喉が渇いていたので染み渡るようだった。
紅茶を楽しみつつ会場を見渡すが、まだセシリアは見つけられない。銀の髪は目立つと思うから、きっとまだ来ていないのだろう。
「セシリア嬢はまだみたいだな?」
兄がそう声をかけてきたので頷く。
「お兄様も探してくださっていたの?」
「いや、リリの顔ががっかりしてたからそうなんじゃないかと思っただけだ」
ご令嬢をじろじろ眺めるわけにもいかないだろう?とイタズラっぽく笑う兄に苦笑する。
「お兄様のお知り合いはどなたかいらっしゃっていますか?」
「そうだな、学園で顔見知りの令息令嬢が何人か」
「仲の良いご友人はいらっしゃってませんの?」
「まだみたいだな」
兄から友人の話は殆ど聞いたことがないリリアナは目を輝かせながら言った。
「いらっしゃったらご挨拶してもいいですか?!」
「ああ、もちろん」
レオンは苦笑しながら答える。王家の言う建前の理由に沿う行動だし、友人達には余計なことを言う前に釘を刺せばいい。
可愛い妹に粉をかけるようなら後で蹴り飛ばしてやる。
レオンは楽しそうな妹の笑顔を見ながら密かに誓ったのだった。
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