2人の令嬢〜婚約編〜 23
『懇親会』当日は、爽やかに晴れ渡り春の陽が柔らかく降り注ぐ穏やかな天気となった。
王都内の貴族達は、子供たちの懇親会、大人達の夜会と忙しい1日となるため、どこのタウンハウスも朝からその準備で大わらわだった。
公爵家でも同様だったが、それでも他家のように殺気立つほどではない。特に王家に取り入る気もないので、子ども達はあくまで昼の茶会を楽しむつもりしかないし、公爵夫妻とて夜会の参加は義務でしかないのだ。
リリアナは、お風呂で磨き上げられた後はメイド達によってドレスを着付けられていた。
「大変お可愛らしゅうございますわ、お嬢様」
「ええ、本当に!花の妖精のようですわ」
ドレスを身に付けたリリアナを一通りチェックした後、メイド達は口々に褒め称える。
母である公爵夫人と決めた衣装は、リリアナの初々しさを引き立たせることを優先して、ガーベラの花をイメージした。ちなみにリリアナの案であるハーデンベルギアの花をイメージしたドレスも別の機会に作ることになっている。
薄いオレンジ色のドレスは膝下の丈で、ガーベラの花弁をイメージしたスカートの裾がギザギザで、オーガンジーが幾重にも重ねられている。上衣部分はデコルテが控えめに出るくらいのおとなしいデザインだが、襟ぐりの部分に白いレースがあしらわれ、袖はパフスリーブになっていて、こちらもオーガンジーが重ねられている。
装飾品は控えめに小さなルビーが1石だけ輝く細い金鎖のネックレスのみだ。
髪は緩くコテで巻かれたあとはハーフアップに結い上げられ、オレンジのガーベラとカスミソウの生花が髪飾りに使われる。
白いレースの手袋を付け、濃いオレンジのローヒールの足首をリボンで結んである。
妖精のよう、とまで言われるのは面映いが、初めて自分と母でデザインしたドレスを身に纏ったリリアナの気持ちは高揚する。
「ありがとう!」
メイド達に礼を述べ、リリアナは部屋を後にして応接室へ向かう。両親にもドレス姿を披露するためだ。
応接室の扉を開けると、そこには着付けを終えた兄と、兄の衣装をチェックしている母がいた。父は苦笑しながらそんな妻を眺めている。
「お兄様、その衣装はいかがですか?」
リリアナがニコニコしながら声をかけると、レオンも笑いながら頷いた。
「勿論、気に入ったさ。母上とリリが考えてくれたんだろう?ありがとう」
レオンの衣装は茶系の生地でまとめてあった。やや濃い目の茶の上着に、ベージュのベストと細身のパンツ。クラバットはルビーの留め具があしらわれている。ベストにはアクセントとして金鎖が使われており、シンプルなデザインを引き立てていた。
黒髪をきれいに撫でつけ、左耳に金のイヤーカフを付けている。
派手さはないが、いつもの貴公子然としたイメージよりも柔らかい印象である。
「やっぱりふたり並んで立つと、お互いが引き立って見えるわ。良かったこと」
公爵夫人が満足そうに2人を眺める。そんな妻と子ども達に公爵が声をかけた。
「社交界デビュー前だからな。控えめな感じがとても良い。ーーーレオンもリリアナも、気負わず行ってきなさい。レオンはリリアナをしっかりエスコートしてやるように」
「はい」
公爵家の子ども達は揃って頭を下げた。
一方、辺境伯家のタウンハウスでもセシリアの準備が始まっていた。
懇親会があるとて、早朝の走り込みと打ち込みは日課としてこなしているので、それだけメイド達がセシリアの準備にかけられる時間は限られるが、辺境伯家では良くあることなのでメイド達の手際に迷いはなかった。
あっという間に『丸洗い』され、髪を乾かされ、ドレスを着せられ、髪を結われる。セシリア本人は無の境地でその作業に身を任せていた。『辺境伯令嬢』らしくセシリアを見せるのは彼女達の使命だ。仕事の邪魔をしないようにひたすら大人しくするのみだった。
「さ、出来ましたよお嬢様」
声をかけられて目を開ける。目の前の姿見に映る自分の姿は、ついさっきまでの汗だくでよろよろな見た目とは全く違う。
身体を包むドレスはごく薄い紫のドレスだ。ふんわりと広がるスカートは裾の方に向けて少し色が濃くなるグラデーションになっている。上衣は同色のレース編みが重ねてあり、胸の中央に兄から貰ったブローチを付けた。他にアクセサリーは付けない。目立たないが上品な仕上がりだ。
髪は軽く結い上げて、紫のリボンと白いレース編みの飾りが付けられている。 ドレスと同色の手袋を付け、銀色のパンプスを履いたところで、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「用意はできて?シア」
「はい、お母様。ドレスをありがとうございます」
「頼まれていたものを持ってきましたよ」
母の言葉を受けて、後ろに付いてきていた侍女が小さな籠を差し出した。中には、ハーデンベルギアの花が小さな花束となって入っていた。胡蝶蘭のように連なった小さな紫の花だ。白いものも混ざっている。
リリアナからの手紙で、彼女が生花を髪飾りに使うと知ったセシリアは、自分も使おうと思ったのだ。白いハーデンベルギアならリリアナと交換しても素敵だろう。
「ありがとうございます、お母様!」
辺境伯夫人は花を手に取ると、娘の髪飾りに花を挿していく。花が欲しいと請われた時は疑問に思ったが、友に合わせたいと言われて納得した。あまり女の子らしいことに興味がない娘にそんな事を言わせる公爵令嬢の存在に密かに感謝したものだ。
「・・・くれぐれも、色々と、気をつけるのですよ、シア。そして、公爵令嬢様にもよろしくお伝えくださいね」
「はい、お母様。行って参ります」
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