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逆行令嬢 7

兄の話を聞いてすっかり固まってしまった妹に気づいて、しまったな、とレオンは後悔した。

いずれ近いうちに知るべきことではあるが、せっかく楽しみにしていた洗礼式なのに怖がらせてしまったかもしれない。


ややあって、リリアナがぽつりと呟いた。


「だから、かぞくいがいにはひみつなんですね・・・」


「まぁ、そういうことだな」


おびえてはいても恐れてはいない。レオンの話を聞いて問題の根本を理解し、答えを出せるリリアナは、キングストン婦人の言うとおり優秀だ。


「わたし、あのときせいれいしきのことをおしえてくれたメイドにあやまらなくちゃ」


答えられないことを聞いて困らせたことを反省したのであろう妹の言葉を聞いて、レオンは誇らしい気持ちになった。使用人に対して横柄な態度をとる貴族も多いが、公爵家では使用人もひとりの人間として大切に接するのが常だ。

「メイドだって、わたくし達がお預りしている、誰かの大切な娘さんなのよ」

「使用人ひとりひとりが心を持っている人間なのだ」

両親からの薫陶は幼い妹の中にも確かに根付いている。


「そうだな、そうするといいと私も思うよ」


穏やかに同意してくれた兄の様子に励まされたリリアナは、もうひとつ思いついて兄に礼を言う。


「ありがとうございます、おにいさま」


「? なにがだ?」


「おにいさまがたいせつなことをおしえてくださったので、そのおれいです!」


「なんだ、そんなことか」


少し冷めてしまったミルクティーを飲みながらレオンは苦笑する。


「リリが知らなかったことを私が知っていて、それを話しただけだから気にするな」


「わたしも、もっとたくさんべんきょうして、おにいさまのおやくにたちます!」


やる気に満ちた瞳をきらきらさせながら宣言する妹に、レオンは笑いながら答えた。


「じゃあ私ももっと励んで、リリを守ってやるからな」


可愛い妹を守るためならどんな努力もしよう。

レオンは密かに決意を新たにした。




同じ頃ーーーーー


アラモンド公爵領の北限近くでは、新たに発見された鉱床の調査団が現地に到着し、調査を始めていた。調査団を率いるのはこの北限の地一帯を預かる首長ドミニク。ドミニク家からの人手に加え、お抱えの魔法師も同行しており、またアラモンド公爵家から派遣された学者3名から調査団は構成されていた。


「それにしても、やはりこの辺りは寒さが厳しいですねぇ・・・」


はぁ、っと手に息を吹きかけて学者達は愚痴をこぼす。


「そうですなぁ・・・この辺りは、もう一月もすれば完全に雪と氷に閉ざされてしまいますゆえ、今を逃すと調査は5ヶ月は先になってしまいますもので・・・」


寒さに震える学者達を天幕に案内しながらドミニクが答えた。内心では、学があるだけの軟弱者が、と馬鹿にしながら。


「貴殿らはこちらの天幕でお待ちを。我が家の者が坑道を確保次第ご案内しますゆえ」


炎の魔力がこめられた魔法石が設置された幕内は暖かく、ほっと安堵の息をついていた学者達は顔を見合わせる。

本来なら、坑道を開通させる際にも学者の同行は必要だ。その作業中にも有益な石が発見される場合もあるし、不正の抑止にもなるからだ。

誰かが行かねば・・・だが誰が行く?あの極寒の最中に。

彼らは決して不真面目ではないが、ここまでの寒さは経験がなく、また暖かい天幕とふるまわれたホットワインは温かすぎた。

この場で待てば良いという強烈な誘惑に、彼らは抗えなかった。


「それではそのぅ・・・お願いしてもいいでしょうか」


3人の中で一番若い学者がそう口にして、他のふたりも無言で頷く。


「もちろんですとも。しばしお待ちくだされ」


厳めしい顔に精一杯の愛想笑いを浮かべて、ドミニクは答えた。軟弱者どもめ、と心でつぶやきながら。




情けない学者どもを天幕に放置すると、ドミニクは足早に坑道の入り口を目指した。家の者から「まもなく目指す鉱床に到達できる」と報告が来ていたからだ。


鉱床の第一発見者はドミニクのお抱え魔法師だ。ならず者のような風貌だが、一攫千金を求めて放浪していた彼と契約したのはドミニクにとって僥倖だった。治水工事ひとつにしても、魔法師がいるといないとでは作業の効率が全然違う。そうしてドミニクに雇われたあとも、この魔法師は一攫千金の夢を諦めていなかった。新たな開拓場所に出向いては、地の下にお宝が眠ってはいないか、魔力に反応するものがないかを試していたのである。


そうしてーーーようやく、この極寒の北の果てで、お宝に巡り合えたのだ。


目指すお宝は峻厳な山の中に埋まっている。いかな魔法師といえど、人の手を借りずには無理な話だった。仕方なくーーー本当に仕方なく、魔法師はドミニクにこの事を報告した。


「して・・・そのお宝とやらは、どの程度あるものなのだ」


話を聞いたドミニクは、当初はその内容に懐疑的であった。なにせ「一生遊んで暮らせます!」と力説されるだけでは産出量の目安もなにもない。こんなことに自分の魔法の才能をつぎ込む者も皆無だ。


「量ももちろんですが、問題は質ですよ首長様。私の感じた魔力の反射反応を考えると、極上品が埋まっているのは確実なんです!」


半信半疑ながらも、ドミニクは地元の下人を駆り出して簡易な坑道を掘らせてみた。家の者を使うよりはよほど安上がりに済むからだ。


するとそこに・・・まさしく、「お宝」と表現するに相応しい宝石の鉱脈が姿を現したのである。

第7話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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