2人の令嬢~婚約編~ 18
風呂に入り、メイドに髪を乾かしてもらってから夜着を身に着けたセシリアは、厚手のガウンを羽織った。
メイド達は言いつけ通りに部屋から下がっていて、セシリアはひとりきりだ。
兄からもらったブローチを眺めていると、控えめなノックの音がして家令が顔を出した。
「お寛ぎのところ申し訳ありません。ご当主様がお呼びです」
「わかったわ」
セシリアはブローチを小箱に戻して立ち上がると、家令について歩き出した。
どうやら向かう先は執務室ではなく、私的な客を迎える家族の応接室らしい。
応接室に着くと、家令が扉をノックして押し開けてくれた。
中には既に両親と兄が揃っていて、父と兄はワインを開けているようだった。
「お呼びと伺って参りました」
セシリアは軽く頭を下げる。
母が「こちらへおいでなさい、セシリア」と誘ってくれたソファに腰かけると、家令が素早くセシリアの分の紅茶を淹れてくれた。
そうして、家令が静かに一礼して応接室から退出すると、家族4人が残された。
「・・・あー、父上からの話っていうのは、もしかしなくてもセシリアのことですね?」
エルドウィンはワインを片手に、やや困ったように眉を寄せながら言った。
辺境伯も苦笑しながら答える。
「まぁ、そうだな」
「・・・王家は前例のない『王太子殿下と同じ年頃の子ども達の懇親会』をやろうとしてるし、その目的はと言えば力ある子どもを幼いうちから目を付けて囲い込みたいってことでしょうし、洗礼を終えたセシリアにもその招待が来てるんなら、つまりはセシリアの今後についての話ってことかと当たりをつけてますが、合ってますか」
エルドウィンは指折りながらこの場が設けられた理由についてあげつらう。脳筋なのは間違いないが、この長兄は決して愚かではないのだ。
「そうだな、だいたいそんなところだ。だが、それだけならわざわざお前を呼びつける必要はない」
「・・・ですよね。だからわからないな、と思ってたところです」
肩を竦めてみせるエルドウィンに、辺境伯夫人が言う。
「これから貴方にお話しすることは、他言無用です。おわかりですね?」
厳しい表情で告げる母に、エルドウィンは居住まいを正した。
「もちろん承知しております、母上」
夫人が頷いたのを見て、辺境伯が口を開いた。
「さて、どこから話したもんかな・・・」
顎を擦って上を見上げた辺境伯は、やがてひとつ息を吐いた。
「・・・シアはな、光の精霊の加護を頂いた愛し子なんだ。ついでに言うなら、保有魔力も膨大で、魔法は闇属性以外なら何でもイケるらしいぞ」
ぴしり、とヴェルリンドの長兄の表情が固まった。
「・・・は?」
しばらく固まっていたエルドウィンの口から発せられたのは、そんな間抜けた一言だった。
「もういっぺん言うか?シアは光の精霊の愛し子で・・・」
「いやいやいやいや、すいません、聞こえてます!そうではなくて・・・」
額に手を当てて頭を振っていたエルドウィンは、やがてセシリアに目を向けた。
「シアお前・・・なんだその無茶苦茶は」
そんなことを真顔で言われても困る。
「父上、母上。他言無用と言われた理由はわかりましたが、愛し子であるならシアは何故我が家にいるのです?」
長兄の疑問に、辺境伯は洗礼の時に大司教と秘密を守る約束をしたことを告げた。セシリアが自分で自分の道を定められるようになるまで、秘密の守り人となってくれると言った大司教を信じているとも。
しかし辺境伯夫妻は、セシリアの前世の話は長兄には話さなかった。これ以上話をややこしくするのを避けようという意図だろう。
「今のところ、シアの秘密を知る者は限られる。だが、今後何が原因でこの件が表に出るかは予測がつかん。俺はシアも精霊殿も守ると誓ったからな。もしもの時は全力を尽くす。そうなった時・・・お前は後継として、この家とシアを守ってやって欲しいのさ」
「とりあえずセシリアは、来年からグランディス学園に通えるように学んでいるところなの。学園在学中はひとまず安心でしょうけど、それも絶対ではないわ」
「王家の連中は、シアの魔力が膨大なものだと知っているし、炎の魔法適性があると思っている。自慢じゃないが、我が家の貴族としての価値を考えても目を付けられてる。だが俺はシアを王家なんぞにくれてやるつもりはない」
両親からの話を聞き終えたエルドウィンは、やがて頷いた。
「シアを王家にくれてやるつもりがないのは同感ですよ。わかりました、俺が出来ることはなんでも成してみせましょう」
ずっと黙ってその場にいたセシリアは、長兄に頭を下げた。
「ありがとうございます、エル兄様」
エルドウィンは笑って手を伸ばすと、セシリアの頭をくしゃっと撫でた。
「俺はシアのお兄様だぞ。当たり前だ」
頭を撫でる兄の手の温かさに、セシリアは笑みを溢す。
「では、お兄様にひとつお願いがあるのですが、いいですか?」
「お願い?なんだ?」
「エル兄様がこの家にいる間、私に魔法を教えて欲しいのです」
学園入学まで手をこまねいているわけにはいかない。魔法師としても優秀な兄に師事すれば今の魔法を手っ取り早く学べる。
どこか必死な様子のセシリアの頭を再度くしゃくしゃと撫でると、エルドウィンは笑って頷いてくれたのだった。
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