2人の令嬢〜婚約編〜 15
久しぶりに自室に戻ったエルドウィンは、シャツにスラックスという楽な服装に着替えを済ませるとメイドを下がらせて1人になった。
シルヴィアが『熊のよう』と例える辺境伯の色彩と気性を受け継いだ彼だが、顔の造作は母親似であり、かなりのハンサムだ。ひとたび社交の場に出れば、中性的な美貌を持ち騎士として名を馳せる彼に憧れる令嬢が群がるのは致し方ないところだが、騎士団に入ってからは最低限の社交しかしていないので本人はかなり気楽に過ごしている。
ちなみに辺境伯家のメイドや侍女達の人気も高いのだが、おかしな秋波を送ってくるような者はこの家にはいない。シルヴィアが女主人である以上そのような者がいるわけもない。
ソファで寛ぎながら、領に帰る道中に父から夕食後に執務室に来るようにと言われた事を思い返す。特に呼び出されるような心当たりはない。領内の様子も家の様子もいつもと変わらないように見えた。
強いて言うなら、変わったのはセシリアだろうか。
エルドウィンは、武門と言われるヴェルリンド家の長兄として相応しい剣技に加えて、魔力量においてもかなりの保有量の持ち主である。魔法という1点においては父を凌ぐ実力であり、魔法師団からの勧誘もあったくらいだ。
ヴェルリンドという脳筋一族の血筋の例に漏れないエルドウィンは迷わず騎士団への入団を決めたわけだが、魔法師としての実力も折り紙付きなのである。
そんな自分が、セシリアに会った時に感じたあの感覚・・・うなじがチリチリするような、言葉に出来ないあの感覚は、戦場で強者にかち合った時に感じるものに似ていた。
直感的に、話とはセシリアの事だろうと思ったのは恐らく間違っていない。
「どうにも厄介ごとの匂いしかしないなぁ・・・」
ヴェルリンドの長兄は、そう呟いてガシガシと赤髪を掻いた。
一方、妻を伴って執務室に腰を落ち着けた辺境伯は、妻と家令から留守中の報告を聞いていた。
もっとも、シルヴィアの手腕を知っているので本当に聞くだけだ。妻の仕事の処理に間違いはない。
「魔獣の件は気になるが、まぁ春になってからだな」
「えぇ。念のため魔の森の境界の人員を増やしておきましたけど、今のところ出来るのはその程度ですわね」
妻が淹れてくれた紅茶のカップに手を伸ばした辺境伯は、一口飲んで息を吐く。
「・・・例のふざけた手紙はどうした?」
夫が言うのは王家からの招待状のことだろう。
「こちらにありますわ」
執務机のトレイに置いてある手紙を指すと、辺境伯は嫌そうに顔を顰めた。
「暖炉の焚き付けにしちまえ、こんなもん」
心情的にはそうしたいのは山々だが、流石に「まだ」それはまずいだろう。
「懇親会とやらが終わればそうしますわ」
似たもの夫婦な辺境伯夫妻のやり取りを黙って聞いていた家令は、辺境伯の無言の目線を受けて焚き付け予定の手紙を持って下がっていった。
人払いをした辺境伯は、妻を促してソファに移動した。
先んじてシルヴィアが口を開く。
「エルドを呼んだのは、セシリアの祝いの事だけではありませんわね?」
察しの良い妻に、辺境伯は頷きを返す。
「いざという時、俺たちに何かあった時、シアを守れる奴が必要だと思ってな・・・」
エルドウィンはヴェルリンド家の継嗣だ。セシリアの事を知ることは諸刃の剣であるので、どこまでを話すのかを妻に相談したかったのだが・・・
「それは、聞く相手が違いませんこと?」
シルヴィアはにこりと笑って言った。
「シアの事を誰にどこまで話すのか、シアに聞かずに決めるのはあの子にもあの子の精霊様にも失礼ですわ。シアはわたくし達の娘であって、意思のないモノではありませんのよ?」
妻に諭され、辺境伯は思い違いを悟った。
守らなければ、と思い過ぎていたらしい。
「そうか・・・そうだな、シアに聞いてみるか」
「ええ、そうしましょう」
「というわけで、どうするシア」
不意に部屋に訪れた両親をソファに座らせて、自身も椅子に腰を落ち着けてから一通りの考えを聞いたセシリアは、うーん、と考え込んだ。
「・・・ちょっとルミエにも聞いてみていいですか」
「そいつは構わんが・・・俺たちが居ても大丈夫なのか?」
「大丈夫です。心で会話するので聞こえないと思いますけど」
両親が頷いたのを見て、セシリアは小さく声に出して相棒を呼んだ。
「ルミエ、いる?」
すると、いつもとは違いーーー両親の座るソファとセシリアの座る椅子の前、低いテーブルの上に、ポゥッと金色の小さな光の玉が現れて声を発した。
「なに?セシリア」
びっくりしたセシリアは早口で問いかける。
「ルミエ?!貴方なの?」
光の玉はふるりと震えて答えた。
「そう、僕。少しだけ顕現出来るようになった」
(セシリアが頑張ってくれてるからね)とセシリアだけに聞こえる声で嬉しそうにルミエが言う。
辺境伯夫妻は、初めて見る精霊の姿に驚き言葉も出ない様子だったが、夫婦揃って立ち上がると居住まいを正した。そうして貴族として最上の礼をとる。
「光の精霊殿。我等の娘にご加護をくださり、心から感謝申し上げる」
「こうして御姿を拝見出来て、この上ない喜びですわ。娘を守ってくださりありがとうございます」
光の玉は微かに明滅しながら、辺境伯夫妻にも聞こえるように言葉を発した。
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