2人の令嬢〜婚約編〜 14
(リリが?精霊の愛し子?!)
さらっと告げられた言葉に驚いて目を見開くセシリアに、ルミエは多分ね、と言う。
(セシリアはあの時まだ僕と契約前だった。君はルーナだったから、魂の繋がりはあったけどね。だから、君は他の精霊の気配を感じ取れたんだと思う。それが呼び水になって魂の記憶が蘇ったんじゃないかな)
確かに、それなら色々なことに納得がいく。でもーーー
(あの時はリリも洗礼前だったんだよ?それなのに愛し子なの?まさかリリも転生者なの?)
矢継ぎ早に疑問を投げかけるが、ルミエの回答は簡潔だった。
(わかんないよ、そんなの)
セシリアはガックリと肩を落とした。
そんなセシリアに相棒は言う。
(だって僕はその子を直接見たわけじゃない。でも僕の片割れである君が魂を揺さぶられるほどの波動を感じたなら、その子は君と同じように片割れを持つ存在だってことだ。だから愛し子だと思う、って話だよ)
(・・・じゃあ、直接会えば貴方にはリリが愛し子かどうかの確信が持てる?)
(会えばわかるよ。今なら君にもわかるはずだ)
(そっか・・・教えてくれてありがとう、ルミエ)
相棒に礼を言って、セシリアは思考の海に沈む。
リリアナも精霊の愛し子なのだとしたら、国や神殿に『保護』されずに家にいるのはおかしな事だ。少なくともセシリアと同じように、洗礼を行なった大司教その人と立ち会う父親が秘密を共有して秘匿しなくては不可能なことである。となると、そのどちらかもしくは本人に聞けばわかるだろうが、気軽に聞けるような話ではない。
それに、セシリアは大司教の人となりを知っているし信用している。その彼が隠すことを選んだ、ということはーーー
それはかつて『大聖女』と(不本意ながら)呼ばれた自分と同じくらいの力と加護を授かったということではないだろうか?
ルミエは自分のことを『けっこう力持ちなほう』と言っていた。ならば、精霊と一口に言ってもその力には差があるということだ。『力持ち』なルミエと同等の力を持つ精霊の加護・・・
『ルーナ』の記憶と知識を持つ自分のように、リリアナも前世の記憶があるならばまだしも、もしなにもわからないままなら酷く苦労するかもしれない。
それにしても・・・とセシリアは独りごちる。
「力ある精霊の愛し子、ってそんなにほいほい現れるものだったかしら・・・」
とりあえず、王宮で開かれる懇親会でリリアナに会えたらわかることもあるはずだ。
セシリアはふるふると頭を振って思考を打ち切ると、再び教本を開いて課題に取り組み始めたのだった。
セシリアがヴェルリンド領に帰ってから1ヶ月と少し経った頃、護衛任務を終えた辺境伯が帰還した。
帰還の報を受けて、セシリアも母と共に父を出迎えたが、大きな父の後ろに思いがけない人の姿を見出して喜びの声をあげた。
「エル兄様!!」
父に続いて屋敷に入ってきたのは、ヴェルリンド家の継嗣である長兄エルドウィンだった。王宮の第3騎士団に所属する兄に会うのは半年振りだ。
思わず走り寄りそうになったが、隣の母から凄まじい冷気を感じた気がして、すんでのところで踏み止まる。
「お帰りなさいませ、あなた。エルドもお帰りなさい」
「・・・お帰りなさいませ、お父様、お兄様」
ふわりと華麗なカテーシーをして挨拶をすると、母からの圧が消えた。セーフ。
「うむ、今帰った」
「ただいま帰りました、母上。シアも、ただいま」
兄が両腕を広げてくれたので、今度こそセシリアは兄に向かって走り寄って抱きついた。
兄は楽しそうに笑いながら言う。
「しばらく見ない間に随分大きくなったじゃないか、シア」
「お兄様こそ、お元気そうで良かったです!」
騎士団に所属する兄達はなかなか自領に戻ってこないので、会えると喜びもひとしおだ。それでもこの長兄は、次期領主として学ぶことも多いため、次兄に比べると帰省も多いし期間も少し長い。
「今度はいつまでこちらにおられますか?」
セシリアが尋ねると、「10日程だな」と返事が返ってくる。
「お前のお披露目の宴があるだろう?だから戻ってきたんだ」
お披露目?と首を傾げるセシリアに、母が呆れたように声をかける。
「洗礼を終えたのですもの、お披露目の宴をするのは当たり前でしょう。お父様のお仕事の都合があるので少し遅くはなりましたが・・・」
言われてみれば兄達もお披露目の場があったかも。幼かったセシリアは宴に参加したことはなかったので、念頭にもなかったが・・・。ましてや毎日勉強と鍛錬三昧だったのだ。
父が笑いながら言った。
「まぁ、そんなに堅苦しいもんでもないさ。宴に来るのも領内の気心知れた連中ばかりだしな」
「あなたったら、またそんな適当なことを・・・」
妻の機嫌を察知した辺境伯は首を竦めると、「さ、留守中の報告を聞かせてもらおうか?」と言ってギクシャクとした動きで妻を促した。
両親を見送った兄妹はその姿が見えなくなると、目を合わせて笑い出す。
「相変わらず仲が良くて何よりだな」
「はい、本当に」
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