2人の令嬢〜婚約編〜 13
『拝啓 セシリア・ヴェルリンド辺境伯令嬢様
お元気ですか?こちらは近頃少しずつ暖かくなってきています。先日、商人の方が雪割草を持参してくださったの。我が領は北と東に高い山があるのだけど、その方は東の霊峰に行っていたのですって。東の霊峰にはーーー』
セシリアは、勉強の休憩中に自室に届けられた友人からの手紙を柔らかな目で読んでいた。リリアナのやや丸みを帯びた文字は繊細な筆致で美しく、手紙の文面から自分への友情が感じられて、胸が温かくなる。
今回の手紙には、手紙の他に栞も同封されていた。可愛らしい紫や白の雪割草の花を透明な樹脂で薄く固めて成形してあり、上に金色のリボンがついている美しい栞だった。
『雪割草の花を見たら、シアを思い出しました。可愛らしくて、でも雪の中からでも顔を出して花を咲かせる力強い姿がシアに重なります。それで、栞を作ってみたのだけど・・・実は、私も同じものを作って持っているの。私の栞はリボンが銀色よ。もし良かったら、シアにも使ってもらえたら嬉しいです』
リリアナからの手紙にはそう書かれてあった。友人から贈られたお揃いの品を使わない選択肢などあるはずがない。セシリアは微笑んで、先程まで睨み合っていた教本にその栞を挟んだ。
先日から家庭教師がついて、セシリアの入学試験のための勉強が本格化していた。家庭教師を引き受けてくれたのは王立図書館の司書を務めていたサラフィナという女性で、母とも親しいらしい。おっとりと話すふわふわした印象の女性で、そのふんわりした口調に誤魔化されるが実はかなり辛辣なことをずっぱり言ってのける辺りは流石に母の友人だと思わせた。母には言えないが。
試験まで1年しかないので、授業は物凄い詰め込み式だ。セシリアとて基礎教育は終えていたが、授業のレベルが高く、毎日の課題は凄まじい量だった。
当初、その物量に顔を引き攣らせるセシリアにサラフィナ女史は小首を傾げておっとりと微笑んで言った。
「何を驚いていらっしゃるのかしら・・・?わたくし、まだお嬢様の学力がわかりませんので、色々見させて頂きたいと思っておりますの・・・これくらいは、まだ序の口というやつですわ」
なので、と言ったサラフィナはセシリアの机に分厚い教本をどさどさと重ね置く。
「こちらを、明後日までに覚えてくださいね・・・?その後、テストに致します。合格基準は・・・そうですわね、8割正解くらいにしておきますわ」
本当なら9割と言いたいけれど、授業を始めたばかりなのでオマケですわ、とふんわり笑うサラフィナ女史は確実に母の友人だと確信した。
さらに、家令のアレイオスによる剣術指南も本格化した。木剣を使った型の訓練や人形相手の打込みだけでなく、刃を潰した鉄剣を使ってアレイオス相手に打ち込む訓練も追加されたのだ。休憩中も戦術等の座学なので休まるのは身体だけである。
「踏み込みが甘い!腕の振りが大き過ぎる!目線で狙う場所がモロバレだ馬鹿者!」
師匠モードのアレイオスは手にした小枝でピシピシとセシリアの手や肩を打つ。大して痛くはないが、これが実際の戦闘ならとっくに死んでいるか良くても大怪我である。肩で息をするセシリアに向かってアレイオスは言い放つ。
「まずは体力をつけろ。剣にしろ魔法にしろ、体力無しには何も出来ん。常に武器が手元にあるとは限らんし、魔法も封じられることがあるかもしれん。が、おおよそどういう場面であろうと、筋肉は自らの肉体から離れることはないからな」
おかげでここのところのセシリアは、まだ夜も明けきらない早朝に起きて走り込み、その後汗を流して朝食、勉強、諸々の淑女教育、昼食、家庭教師による授業、剣の鍛錬、風呂と夕食、その後は寝るまで勉強という毎日を送っている。自分で頑張ると言ったので弱音は吐けないが、かなりのハードワークだと思う。おかげで毎晩気絶するように眠りに落ちている。
勉強の合間にこうしてリリアナからの手紙を読むのはセシリアにとって大切な癒しの時間だ。
そしてもうひとつ・・・
(ルミエ、見てこの栞!)
(雪割草だね。セシリアの友達がくれたの?)
(そうなの!前にも話したじゃない?とても可愛い子なのよ)
(ふぅん?)
休憩中にはルミエとの会話を欠かさない。これもセシリアの癒しの時間なのだった。
(そういえば・・・)
リリアナとの出会いの時のことを、この相棒にまだ話していなかったことに気づいた。
(なに?)
(私がルーナだったことを思い出したのって、リリと出会った時だったの)
(ふぅん?)
(よろけたリリとぶつかって、それで思い出したんだけど・・・)
セシリアはあの日のことを思い返して天井を見上げる。
(あの時、リリから何か・・・不思議な力?何かそういうものを感じたの。懐かしい、みたいな)
(懐かしい?)
(うん。よくわからないんだけど。初めて会ったのにね)
(・・・それは、僕に感じるものみたいな?)
相棒に言われて気づく。
(・・・そうね。そうだわ!貴方に似てたの。ちがうんだけど似てる、金色の光みたいな・・・)
上手く言えなくてもどかしいが、確かにあの波動はルミエから感じるものに似ていた。何故気付かなかったのか。
(じゃあ、その子は君と同じだね)
(私と同じ?)
相棒はそうだよ、と言った。
(その子は、精霊の愛し子だってことさ)
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