2人の令嬢〜婚約編〜 11
コデマリの持つ花言葉を告げると、娘の目が丸くなり、そうしてふわりと微笑んだ。
1度しか会っていなくても、お互いに大切な友だと思い合っているのがわかって、公爵夫人の胸に温かなものが満ちた。それにしても、香りに友への気持ちを込めるとは。
(さすがは、シルヴィア様のお子様ね)
現辺境伯夫人ーーーシルヴィアがまだ結婚する前、オズヴァルド伯爵令嬢として『社交界の華』と讃えられた女性であることを、セリーヌは良く知っていた。セリーヌが社交界デビューをして間も無くシルヴィアは結婚・出産の為社交界から遠ざかり、嫁ぎ先が北の辺境ということもあって年に1、2度見かけるのがやっとである。そうして足が遠のいてもなお、あの女性は社交の場において華やかな存在感を放つのだ。
(今度お会いできたら、是非ご挨拶しなくては)
恐らく3ヶ月後の王太子殿下の誕生パーティにはいらっしゃるだろう。
そう思っていると、リリアナが笑顔で話しかけてきた。
「先程のお手紙で、セシリア嬢も3ヶ月後の懇親会に来られると書いてあったんです」
「そう。それは、とても楽しみね」
リリアナの話を聞きながら夫人がお茶の用意を整えたところで、公爵がサロンに顔を出した。
「すまない、待たせたか?」
父娘で台詞が変わらないことを少し可笑しく感じながら、セリーヌはいいえ、と首を振る。
「どうぞお掛けになって?お茶に致しましょう」
母が手ずから淹れたお茶を楽しんでいると、父がふと思いついたように声をかけてきた。
「そう言えば、ヴェルリンド家から手紙が届いたそうだな?」
きっと執事長が報告したのだろう。セシリアは笑顔で頷いた。
「はい。先ほどお母様にはお話ししたのですけど、王家の懇親会にセシリア嬢もいらっしゃるそうです」
嬉しそうな娘に微笑んで、公爵は妻に言った。
「ならば、友との再会に相応しい衣装を準備せねばな?」
「まぁ、あなたったら。懇親会は他のご令嬢やご子息もいらっしゃる場ですのに」
「なに、それよりもリリアナが1番楽しみにしているのはセシリア嬢との再会だろう?」
笑い合う両親に向けて、リリアナも笑顔を見せる。
「勿論、セシリア嬢に会うのが1番楽しみです。お兄様にもご紹介したいと思っているんです」
みんなで仲良く出来たら素敵だと思うんです、と言葉を続けたリリアナに、両親も頷いてくれた。
「そうだな。・・・懇親会だから、定められたドレスコードはなかったな?セリーヌ」
「王家からの報せには書いておりませんでしたわ。あまり華美にし過ぎなければよろしいかと思っておりますの」
リリアナは思いついた事を母に言ってみる。
「3ヶ月後なら王都は春の花の盛りですよね?何か、春らしい華やかなお花をモチーフに出来ないでしょうか」
母もリリアナの案に興味を示したようで、頷きながら答えてくれる。
「それは良い案ね。モチーフになる花の候補を幾つか挙げて、服飾師に相談してみましょうか」
「では、案が定まったら教えてくれるかな?私はドレスに合う色の宝石を手配しよう」
「宝飾品のデザインも必要だから、候補は7日以内に挙げてくれるかしら、リリアナ」
リリアナは少しびっくりしながら尋ねる。
「私が選んだもので良いのですか?」
母は勿論、と首肯する。
「わたくしもいくつか考えてみるわ。候補を出し合って、リリアナが1番良いと思う花をモチーフにしましょうね?」
リリアナのドレスのイメージが決まったら、レオンの衣装も用意しなくてはね、と母が言う。
「私のドレスが決まったら、ですか?」
リリアナが聞くと、母は当然とばかりに頷いた。
「男性の衣装は、女性のドレスに合わせるものですよ?社交のメインは、女性ですもの」
珍しくきっぱり言い切る母に、父が目に苦笑を浮かべながら同意する。
「お母様の言う通りだ、リリアナ。華やかな場においては、男は女性を引き立てるものだからね」
どうやらそれが社交界の常識であるらしいと理解して、リリアナはこくりと頷いた。
「では、案を幾つか出してみますね」
入学試験の勉強で気が逸ってばかりだったが、少し早く大人の世界に踏み込めた気がしたリリアナは張り切ってそう言ったのだった。
自室に戻ったリリアナは、最近にしては珍しく試験勉強以外の事を考えながら机に向かっていた。
開いている本は植物図鑑だ。自分で提案したからには、何か素敵な花を見つけたい。
(フリージアやチューリップ、ガーベラも春の花よね。スズランやネモフィラも可愛いわ)
うーん、と考えながら図鑑の頁を捲る。
(ナデシコとかラベンダーも可愛いし・・・)
どの花もそれぞれ可愛らしいのだ。ドレスのデザインにその色彩を取り入れたり、アクセサリーに花の形をモチーフに用いたりしても可愛いだろう。
(でもなぁ・・・なんかこう、もう一工夫したいのよね)
うんうん唸りながら図鑑と睨み合っていると、黒猫が机に飛び乗ってきた。そうして、小箱の上に置いてあったセシリアの手紙に前脚を乗せてミャーと鳴き、リリアナを見つめる。
「シアからの手紙・・・?・・・あ!!」
何かに気づいたリリアナに、ノアールは蒼い目を細めて喉を鳴らした。
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