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2人の令嬢〜婚約編〜 10

(ええと・・・、では水の精霊ではないのね?)


リリアナが確認すると、黒髪の少女はこくんと頷く。

それがなにか?と言わんばかりの表情だ。


(私が不勉強なのがいけないんだけど・・・じゃあ貴女の属性は?)


問いかけても、少女は首を傾げるばかりだ。何を聞かれているのかよくわからない、といった風情である。


感覚的なもので確信はないのだが、目の前の精霊はその他の属性ーーー風や地のものでは無いような気がする。多分光の精霊でもないと思う。

そうして消去法で残るのは・・・


(もしかして、貴女は闇を司るものなの?)


リリアナがそう問いかけた瞬間、サァァァッと淡い金色の光が少女から発せられた。

驚くリリアナに、精霊の声が聞こえた。


(そう・・・そうね、私は『闇』。蒼い闇、運命のゆりかご、そして・・・を司るもの)


声がだんだん遠ざかってしっかり聞き取ることができない。


(ノアール!今なんて言ったの?!)


必死に叫んだが、視界が金の光に塗りつぶされていく。


(また・・・ね・・・リリア・・・ナ・・・)





ハッとして目を開けると、ベッドの天蓋が目に映る。


(夢?)


まるで白昼夢を見たような、不思議な感覚だった。横を向くと、枕の横に黒猫のノアールが丸まっている。


「ノアール・・・お前なの?」


あの夢を見せてくれたのは。あの夢の中の少女は。


指先でノアールの目元を撫でると、薄らと目を開けた黒猫はリリアナを見て「ミャー」と鳴く。

愛らしいその姿に目を細めながら、リリアナは囁く。


「もしお前が『ノアール』なら・・・これから、よろしくね。もっと貴女の事が知りたいわ」


指先に小さな頭を擦り付けてくる黒猫は何も応えなかったが、リリアナには「こちらこそ、よろしくね」と微笑う精霊の声が聞こえたような気がしたのだった。




午睡から目覚めたリリアナは、呼び鈴でメイドを呼んだ。


「おはようございます、お嬢様」


隣室に控えていたメイド達は部屋のカーテンを開け、リリアナに果実水を差し出した。

メイドに手伝ってもらいながら部屋着に着替えると、『夢』のおかげでぼんやりしていた頭も少し冴えてきたようだ。


「ありがとう。・・・お茶の時間まで勉強するわ。時間になったら教えてくれる?」


「かしこまりました」


メイド達は頷いて退出し、リリアナはひとり机に向かう。

試験勉強を始める前までは必ず誰かが部屋にいたが、集中できないから、と席を外してもらうようにしているのだっだ。勉強の時間に部屋にいるのはリリアナと黒猫だけである。


ノアールはまだベッドの枕もとですぴすぴと寝息を立てている。その音に少し頬を緩めたリリアナだったが、気を取り直して教本を開いた。昼食前にノアールに邪魔をされて中断した設問に向き合う。

基礎教育を終えているとはいえ、試験問題は難しい。基礎教育で得た知識の理解度を試し、さらに発展させた設問ばかりだ。わからない言葉があれば辞書を引き、兄のノートと見比べ、地道に学んでゆくしかない。


一心に羽ペンを動かしていると、時間が経つのはあっという間だ。ノックの音に気づいて顔を上げると、乳母とメイドが部屋に入ってくるところだった。


「そろそろお茶のお時間ですよ、お嬢様」


「うん、ありがとう」


マーサが軽く身支度を整えてくれて、リリアナは自室を出て家族のサロンに向かう。サロンにはすでに母がいて、お茶の支度をしているようだった。


「すみません、お待たせしてしまいましたか?」


母はにこりと笑って答えた。


「いいえ、大丈夫よ。もう少しでお父様もいらっしゃるから、準備を手伝ってくださる?」


「はい」


リリアナはワゴンから茶器と菓子を並べる。温室から持ってきたのだろう、花瓶に活けられた小さなコデマリの花の香りがふわりと香ってくる。友人の手紙からも香ってきたことを思い出して思わず微笑むと、母が不思議そうに問いかけてきた。


「どうしたの?リリアナ」


「先程頂いたセシリア嬢のお手紙からも、コデマリの香りがしたんです。思い出したらつい」


「まぁ。お手紙から香るなんて、素敵な趣向ね」


「はい。今度は私も、何かお手紙に工夫をしてみたいなと思います」


手紙を貰うだけでも嬉しいが、何か工夫をしてくれたとわかると喜びも倍になった。香りはいつか消えてしまうが、記憶にいつまでも残るだろう。


「いつか、王都でも流行るかもしれないわね。素敵だわ。わたくしもやってみようかしら?」


おっとりとして見えても、母はとても好奇心旺盛な人だ。公爵夫人として積極的に社交界にも関わっている。そんな母がやり出せば、いずれは流行になるかもしれない。母は悪戯っぽく笑って言った。


「リリアナ、コデマリの花の花言葉をご存知?」


花言葉を覚えるのは調香と並んで淑女教育の一環である。思い返してみたが、リリアナの記憶の中にはなかった。


「すみません、知らないです」


公爵夫人はふふ、と微笑いながら言う。


「コデマリはメインで飾るような華やかな花ではありませんもの。まだ知らなくても仕方ないわ。・・・コデマリの花言葉はね、『友情』『努力』よ」

2人の令嬢〜婚約編〜第10話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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