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逆行令嬢 6

一心に羽ペンを動かしていたレオンは、ペンを筆立てに置くと腕を上にあげて伸びをした。


ずいぶん長いことひたすらに算術の問題に取り組んでいたので、背中の筋肉が固まっていたようだ。伸びをすると少し楽になる。

インクが乾ききらないノートに書かれた自分の計算式を目で追いながら確認していると、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。


「入れ」


ノートに視線を走らせながら答えると扉が開く音がする。


「しつれいします、おにいさま」


思いがけず聞こえたその声に振り向くと、メイドを後ろに従えたリリアナが立っていた。


「リリ、どうした?」


「そろそろおにいさまのきゅうけいのおじかんだときいたので、おちゃをよういしたのです」


「そうか、ありがとう」


妹の気遣いにレオンは思わず笑みをこぼした。


「リリも一緒にお茶にしないか?」


「いいのですか?おにいさまのおじゃまになりませんか?」


「リリのことが邪魔になることなんてないさ。・・・もし良ければ、私とお茶をご一緒して頂けませんか、レディ?」


左手を胸に当て、右手をリリアナに差し出しながらいたずらっぽく笑い問いかけてくる兄に、リリアナもすまし顔を作って兄の手に自分の手を乗せる。


「わたしでよろしければ、よろこんで」


ふたりは目が合うと同時に笑い出し、レオンはリリアナの手を引いて椅子までエスコートする。

メイドが手早くクッキーを並べ、お茶の支度を整えてくれた。


少し甘いミルクティーを飲むと、ゆるゆると疲れがほぐれていく気がする。

思わず息を吐くと、リリアナが問いかけてきた。


「おつかれですか?おにいさま」


「課題が少し難しくてな。ずいぶん時間がかかってしまったんだ」


心配そうに眉を下げる妹に気づいてレオンは微笑む。


「リリがいいタイミングで来てくれて良かったよ。お茶をありがとう」


「わたしがおにいさまとおちゃをのみたかったのです」


笑顔を見せるリリアナが可愛くて、なんならそれだけでも癒されるのだが、そんな可愛いことを言われてはなおさら今日も我が妹が可愛い。


「今日の分の課題は終わったから、少しゆっくりしよう」


「はい!おにいさまと、たくさんおはなしがしたいです!」


「そういえば、洗礼式に着ていく衣装は出来たのか?」


洗礼式を話題に出すと、顔を輝かせたリリアナは興奮した様子で話し出した。


「はい!まっしろで、レースがついてて、ぎんのぬいとりがとってもきれいなんです!カチューシャにもドレスとおなじレースがついてて、わたしのめとおなじいろのいしがついてるんです!」


洗礼式にはドレスコードがある。基本的には白い衣装が推奨されるが、これは悪しきものを遠ざけ善きものからの祝福があるようにと願う象徴的な意味があるのだ。貴族は衣装を自前で用意するが、汚れやすい白い衣装をわざわざ誂えるのが難しい平民は当日に神殿で衣装を借りることもできる。


リリアナにしても、貴族とはいえ真っ白な衣装を着る機会はほぼない。初めて身に着けるドレスなので、女の子らしく心が躍る。


「それは当日が楽しみだ」


白いドレスを思い出して頬を紅潮させならがらうっとりと両手を組むリリアナの姿を見ながら、レオンはふと意地悪な顔をした。


「くれぐれも走って転んでドレスを台無しにしたりしないように気を付けなくてはな」


「もう!おにいさまったら!わたしはしゅくじょなのではしったりしません!!」


「ははは!そうだな、リリは我が家の小さなレディだものな」


リリアナの頭を宥めるように撫でながらレオンは笑った。

ぷりぷり怒っている様子のリリアナだったが、ふと思い出したように兄に問いかけた。


「おにいさま、おにいさまのときはせんれいしきでせいれいのおすがたはみえましたか?」


「ん?」


「メイドたちにきいても、じぶんがどうだったかは、かぞくいがいにはおはなしできませんって・・・」


「そうだな、それはその通りなんだ、リリ」


「どうしてですか?もしせいれいがみえたら、きっととてもすてきなことなのに」


「洗礼式でわかることは、本人にとってとても大事で特別な情報なんだ」


「はい」


「もし、なんの力も持たない平民の子どもが凄く大きな加護を得たとして、その事が悪い人間に知られてしまって、その子が無理やり連れて行かれようとしたとする。どうなると思う?」


兄の問いかけに、リリアナは首を傾げて考え込む。


「・・・えぇっと、かごがあるから、わるいひとはやっつけられちゃいます」


「半分正解だ」


「はんぶんですか?」


不思議そうな妹に、レオンは腕組みしながら諭すように話し出す。


「精霊に加護を頂くのは幸運に恵まれたごく一部の人間だ。そして精霊は、加護を授けた人間をとても愛している」


「はい」


「その反面、精霊は基本的に自分が選んだ人間以外にはまったく興味がない。さらに言うなら、自分が選んだ人間の身命が無事であるならそれを守るための手段は選ばないんだ。たとえその手段が、自らが加護を授けた愛し子が望まないものであったとしても」


「・・・」


「さっきの話の場合だと、やっつけられるのはそれを成した悪い人間だけじゃない。その周囲にいる全ての者に苛烈な報復がなされるんだ。命を失うほどの」


「そんな!」


青ざめた顔のリリアナをみながら、レオンはゆっくりと言葉を続ける。


「精霊は私たちとは異なる理のなかに生きている。私たちの価値観は彼らのそれとは合致しない。でも、精霊たちは愛し子となら意思の疎通ができる。愛し子が確固たる意思をもつなら、添い遂げようとしてくれる。その方法を学ぶためにも、愛し子が悪に染まらないようにするためにも、学園という機関が存在するし、国は教会を通して才能のある子どもの所在を確認しているんだ。あらゆる悲劇を未然に防ぐために」




第6話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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